がイタリアに滞在して幾日か経つ。
怪我が治りきるまでいる、と言ったと俺はずっと一緒にいる。
お陰でこの間、ロマーリオやマイケル、それにイワンにほどほどにしとけとか言われた。
………ったく、心配性だよなあいつら……………。
まあ、ともかく。
俺は今、この上なく幸せだ。
君で変わっていく10のお題
まあそんなこんなで俺とがいつものように甘い時間を過ごしていると。
不意に。
電話が鳴った。
俺のじゃない。
か?と目で問いかければは頷いた。
そうしてポケットから、ストラップも何も付いていない携帯電話を出す。
「…俺だ。………あー………ちょっと、待ってください」
話し始めてすぐ。
が気まずそうな顔をして俺を見てきた。
もしかして………聞かれたくない電話なのか?
「悪い、ディーノ。ちょっと席外してくれ」
案の定だ。
俺は電話の相手が誰なのか気になりながら、部屋を出た。
で、そのドアの下に座り込む。
そーっとドアを開けて聞くという方法もあるが……それ、やったらが本気で怒る。
あいつが本気で怒るとすっげぇ怖い。
だから情けなく俺は待つしかできない。
「ボスー、ついに愛想尽かれたか?」
「うるせぇ、黙ってろ」
廊下を歩くやつらに何度も声をかけられる。
そりゃ、自分たちのボスがこうして座り込んでんだから声もかけたくなるよな。
「ー……早く開けてくれ」
情けない言葉を呟きながら俺は項垂れた。
俺ってかなりに依存してるよなァ………………
「……で、なんですか今頃」
『うん、ごめんねー。休暇中に。ちょっと心配になっちゃったから』
電話の相手は俺が仕事先で所属している課の課長。
別にディーノを払ってまで話すことじゃないだろうが、一応、念のためだ。
この職業は機密が多過ぎだから。
「……俺は大丈夫ですよ」
『声で分かったから、安心したわよー。だって休暇をとる前……君、死んだような目してたから』
そんな分かりやすい顔、してたか俺?
いつもの表情を装ったつもりだったんだが………。
『だから出てっちゃったあと、ジェラルド君なんか五月蝿かったのよ』
「ジーンがですか?なら一発殴っといてください」
ジーンというのは俺の後輩。
あいつの後輩でもある。
大型犬みたいに俺に付き纏ってた、弟みたいに可愛いヤツ。
騒ぎ出すととても五月蝿い。
俺が殴ると止まるけど。
『自分で殴りなさい』
「………無理ですね」
課長の言葉に、俺は苦笑した。
俺はもう決めてしまった。
だから、あそこにはもう戻れない。
ジーンには悪いけれども、戻る気はもうない。
あそこで得たものは大きかったけれども、同時に失ったものも多すぎた。
そしてあそこにいれば俺は、確実に引きずってしまうだろう。
あいつらのことを。
『それは―――辞める気だから、かしら?』
「はい。いつかの辞表、持ってるんでしょう?あれ、受理しておいてください」
『……特別よ。あんたがとってもいい声、してるから』
「ありがとうございます」
そんなにいい声してたか、俺。
確かに吹っ切れたといえば吹っ切れたから………明るかったのかもしれない。
だから、笑ってこんなことも言えた。
「ジーンには謝っておいてください。あと、そっちの荷物は今から言う住所に送ってくれると助かります」
『分かってるわよ。ジェラルド君のご機嫌を取るのは大変だけど………』
ぶつぶつと向こうで呟く課長がいつも通りで、俺は嬉しい。
泣かれたらどうしようかと正直思っていたところだ。
こんな課長だから、泣くことはまず滅多に無いだろうが。
『あんたを掴まえたの、イタリアのどっかのマフィアのボスでしょ』
「何でそう思うんですか?俺、一応マフィアとは間逆の職業に就いてたんですけど」
『だって君を掴まえられるの、それぐらいの人物じゃないとダメでしょ?じゃないとどこ行くか分からないもの』
当たってる。
当たってますよ、課長。
俺はそこでドアの方に視線を向けた。
きっと、恐らく、ディーノはドアの前に座り込んでるんだろう。
その姿を想像すると、笑えてくる。
こんなに笑うのは久しぶりだ。
『出しなさい、その相手。私が見極めてあげるわ』
「強気ですね。まあ………………構いませんけど」
「うおッ!?」
俺は喋りながら、ドアを引いた。
引き戸だから、ドアに背を預けていたんだろうディーノはごろんと転がって俺を見上げてくる。
「?電話、終わったのか?」
「いいや。俺の上司がお前と話したいんだと」
俺はディーノに携帯を差し出す。
ディーノはどこか恐る恐る、といった様子でそれを受け取った。
『……あなたがイタリアマフィア、キャバッローネファミリーのボス、ディーノね?』
「どうしてそれを、」
『知ってるのかって?君に聞いたからじゃないわよ。私たちの情報網から入手……と言っておくわ。あなたには君のことで随分お世話になったようだし』
会話の内容が聞こえない俺はさっぱりだ。
ただ、ディーノが真剣な“ボス”の表情をしているから話は真剣なものなんだろう。
……あの課長だから一概にそうともいえないが。
『まあ、カタイ話は置いといて。君を頼みます。あの子、まだちょっと脆い部分があるから』
「……………」
『本当はここで癒してあげたかった。でも君はあなたを見つけちゃったから仕方ないわよね。だから頼むの。一筋縄じゃいかないあの子だけど、いい子だから』
「……………」
『最後に一つ聞くわ。あなたはのことを――――――――――』
ディーノの表情は相変わらず。
でも、口は笑みを浮かべている。
そう、いつか見た優しい笑み。
「愛してる。…………俺は、を愛してる。それこそ、べた惚れだぜ」
その言葉は携帯に向けておきながら――――俺の耳元で言われた。
課長……っ!
何を話したかと思えば………!!
「ッ!何言ってるんですか、あなたは!!」
『愛されてるじゃない、あなた。ちゃんと愛し返してあげなさいよ』
「当然です………って何言わせるんですか!」
携帯から課長の笑い声が聞こえてくる。
同時に、ディーノが後ろから抱き付いて耳を澄ませてきた。
『じゃ、いつでも電話しなさい。………あなたは私たちの仲間なんだから』
最後にそんなことを言われて、課長は通話を切った。
何から何まで………ホント引っ掻き回してくれる、あの人は。
「すっげぇ人だな」
「同感」
俺たちは顔を見合わせて笑いながら、ソファに身体を預ける。
その隣に、ディーノ。
「………お前、あの言葉は恥ずかし過ぎだ」
「本当のことだぜ」
にやりと笑うディーノにキスを掠め取られる。
まったく、こいつは………………。
俺が何も言わないでいるとすぐに調子に乗って、キスを仕掛けてくる。
仕方のないヤツだ。
俺はそのまま、色んなところに振ってくるキスに、笑った。
君と居ると
笑わずにいられない
(こんなに楽しいのは久しぶりで、君に出逢えてよかったと思う)
おまけ
「そういやお前の仕事場って?」
「ICPO」
「へー、あいしーぴーおー…………………え、あのICPOかよ!?!?」
「ああ。そこの最年少捜査官。って……何驚いてんだよ。調査書貰ったんだろ」
「いや、ごく最近の事件のことしか見てなかった」
「バーカ。ロマーリオとかは知ってたぞ、ちゃんと。だから俺にあんなに警戒してたんだろうが」
「(どうりで初めの頃、あいつらの視線が厳しいはずだ………)」
「まあ、やめたけど」
「なんでだよ」
「……………………お前の傍にいるために決まってるだろうが!」
「………!」
「そうしないとお前、部下が居ないと何にもできないヘタレだろうが。誰がフォローするんだよ!」
「(そりゃがフォローしてくれれば嬉しいが………ヘタレって)」
ディーノはがっくりと頭を垂れた。