殺そうとしていたヤツを助けてしまった。
雨に銃。
そして…アルと同じ色。
あのときの状況が同じで………結果が違った。
あのとき動かなかった身体。
さっき、動いた身体。
―――――その対比が、抉る。
君で変わっていく10のお題
走った。
とにかく走った。
肩に食い込んだ弾の痛さとか。
零れる血とか。
関係なく、
走った。
ありえないくらい全速力で走って、転んで。
血が飛ぶ。
紅い、アカい血。
あの日も俺はアルの血を見てた。
零れだす命を止められなくて、ただアイツの前に座り込んで。
何も言えなかった。
アルが一方的に喋って、俺は頷いて。
それだけ。
寝転んで見上げた空は雨粒を降らしていた。
それは俺を、濡らす。
このまま、雨に溺れてしまいたかった。
そうすれば、俺が を も分からないから
ぼうっとしていた。
もうなにもかも投げ出して。
どうでもいいくらいに無気力。
ちゃぷちゃぷと誰かが水溜りを走ってくる音が聞こえる。
その靴は――――横を向く俺の目の前で止まった。
荒い息遣いが聞こえて、コイツはわざわざ走ってきたんだと知る。
……馬鹿みたいだ。
「…………殺しに来たか。それとも、殺されに?」
「そんな状態で………何を言うんだ。殺せないだろう?」
甘い。
とっても甘いよ、その考え。
笑いが出そうで、俺はそれを殺す。
そして寝転んだ体勢のまま―――そいつを見上げた。
右肩は負傷してる、だから……左腕で銃を持ってそいつの脳天に標準を合わせる。
「試してみるか?」
殺す方法はいくらでもある。
負傷してても、刺し違えて死ぬ方法もある。
殺せないなんて、ない。
あのときはコイツがアルに見えたから撃てなかった。
そう、知っている。
だから今度は――――撃てる。
あの時と同じように、俺は引き金を――――引く。
静寂。
雨の音だけが響いて……………俺も、コイツもその中にいた。
欠けることなく。
「はは………ッ、運がいいなお前………この一発、不発だとさ」
そう、運がいい。
それはお前じゃなくて………俺が。
二度もアルジェントを殺さずに済んだ。
「………」
手を伸ばそうとするコイツの腕を振り払って、俺は路地の壁に凭れた。
思っていたより出血の量が多い。
雨で凍える身体には、流れ出る血は温かい。
「――――昔話をしてやるよ。先輩であった“銀”と愚かなクリムゾンの話だ」
黙ってるだけだった。
俺は座って凭れたまま、コイツは立って俺を見下ろしたまま。
その状態のまま、俺は一人語る。
なんてことはない。
俺の自己満足から始まる、昔話。
「牙にはクリムゾンと呼ばれる男と“銀”と呼ばれる男はいた。
その二人はある組織から派遣されたスパイで。…牙に所属しながら、情報をリークしていた」
ポケットから、濡れた煙草を出して銜える。
火なんてつかないから、気分だけ。
「あるとき、牙はその二人の男によって崩壊した。
と、同時にその二人の男もピンチだった。……信じていた仲間が牙のスパイだったんだよ。
―――つまり、互いが互いにスパイを送りあっていたわけさ」
笑えるだろう?と問いかけた。
答えは返ってこない。
俺はそのまま、続けた。
「二人は追い込まれた。作戦自体は成功だったんだ。ただ、その仲間が二人を追い詰めていた。
そして、降りしきる雨の中銃声が響いて―――それを受けたのはその仲間。
仲間は“銀”と呼ばれた男が撃った。まあ、当然のことだ」
あのときのことは今でも鮮明に思い出せる。
信じていた上司が敵で。
躊躇いも無く俺たちは銃を撃った。
いや……躊躇いはあったな。
だから、あんなことが起こった。
「でも完全に絶命はしてなくてな。安心しきるクリムゾンはまだ若かった。
まず始めに、クリムゾンが狙われた。そのまま放っておけばいいものを、“銀”はそれを庇った。
倒れる“銀”を見てクリムゾンは呆然とした。
現れた隙に仲間が背後に取り付いて………クリムゾンの手に自分の手を重ねて更に“銀”を撃った。
その後に……囁くんだよ。
『よくやった、完璧だ』
ってな」
それから俺は上司を撃った。
今度は完全に仕留めた。
でも、遅かった。
「その後、クリムゾンは仲間を撃った。“銀”もその場で息絶えた。
―――クリムゾンはその名の通り、紅に染まったんだ」
本当はまだ続きがあるが………教えてやらない。
いや、教えられないんだ。
あの後、“銀”が俺に何を言ったのか…………俺自身、忘れてしまっていたから。
「 昔話ははい、終わり。これにてTHE END―――― 」
まだ一発ある銃をこめかみに当てる。
後はこの引き金を引くだけ。
それで俺の物語は終る――――
のに、それまで黙っていたヤツが動いた。
「……させる、かよッ!!」
俺に取り付いて、銃を空に向けさせる。
勢いで最後の弾は空に放たれた。
あとはもう、乾いた笑いしか出ない。
「あはははは…………俺は死ぬことも許されないのか」
間近にある整ったコイツの顔には、擦り傷が一本。
弾が掠めた傷だ。
あの日も呆然と思ったことだが………金にアカはよく似合う。
強い、瞳が、俺を、見た。
「ああ、許さない。―――お前は俺のものだ」
「戯言だな。まあいい。このまま放っておいても俺は死ぬさ、出血多量でな」
くすりと笑う。
あの日、逃げる途中に負った傷も治ってない。
腹に受けたあの傷は――――走っている途中で開いた。
だから俺はまた紅に染まっている。
クリムゾンに―――なっている。
「………俺が死なさない。
がその命を捨てるなら――――キャバッローネファミリーボスのディーノが貰い受ける」
アイツはそう言って、真剣な目で俺を見る。
死に損ないの俺ごときの命が欲しいのかよ―――――アホか、こいつ。
また、笑いが出た。
死にそうになのに、やけに笑いが出るな。
傷に響いて、痛いっていうのに。
つか、さ。
「…女に言えよ、そのセリフ」
「生憎、俺が惚れたのはなんだ。ワリィな」
さっきのシリアスな顔とは打って変わって、にか、と笑う。
ああ、こんなとこも―――似てるよ、アル。
傷に触らないように、ぎゅっと抱き締められる。
それに抵抗する力は……………無い。
「俺は―――アルじゃ、ない」
「…………見たのか、写真」
「ああ。でも似てるのは色だけだ」
こくりと、頷く。
確かにこいつとアルは似ていないんだ。
似てるのは、雰囲気や笑顔の作り方。
それと――――俺に対する、接し方。
「だって俺の方がいい男だろ?」
おどけたようにコイツは言う。
そうして、俺の耳元で優しく………本当に、優しく囁く。
「 我慢しなくていい。…………俺がお前の全部、受け止めるから 」
何かが、弾けた。
どこかにあったシコリ。
アルジェントに対する、思い。
その全てが……ディーノの言葉で無くなった。
なあ、アルジェント―――――――――――
もう一度、泣いてもいいですか……?
涙が流せるということ
(受け入れられなかったのは………ただの俺の意地)
(だから解放するよ、 ………………)