物音一つ、しなかった。
だから俺は安心していた。
開けた扉の向こうには、アイツがいると―――




「……?」




そう、思っていた。

















君で変わっていく10のお題


















「……いたか!?」
「こっちにはいません!」
「そうか………他も頼む」


あれから数時間。
の姿は見つからない。
ロマーリオを始めとした部下にも探させているが……相変わらずだ。


「チッ………どこに行ったんだ、!!」


分かってる。
アイツはあの会話を聞いてたんだ。
だから、逃げた。
銃を持って。
の過去はそう簡単に触れてはいけない。
分かっていたことだった。
でも、分かっていなかった……。

分かっている、と思い込んでいただけ。

それでも、俺は。

アイツを分かりたかった。

初めて見たときから、惹かれていたから。


「ボス、傘を……」


いつの間にか降り始めた雨が、俺を濡らしていた。
誰かが傘を渡そうとしてくれる。
それを俺はいい、と動作だけで断った。

そんな時間があれば、を探し出す。


とにかく、


走った。



「ボス!?!?」



走らないと始まらない。
俺が走らないと、は一生見つからない気がした。
だから、あいつらに止められても止まることはできない。
が泣いてる、から。


抱き締めたい。

そう、思った。

アイツが…アルジェントが出来なかったことを俺がする。

もう決めていた。


だから、俺の頭の後ろで、カチリと音がしたときも――――あまり、動揺しなかった。



「 動けば撃つ 」


は本気だ。
知っていたから、俺は動かなかった。
ただ、降りしきる雨に打たれたまま無言で、立っていた。
それは、も同じで。


「……驚かないんだな」


俺が動揺していないことが伝わっていたんだろう。
はぽつりとそう漏らした。


「分かっていた―――から」
「………そうだな。お前は全部知っている。俺のこともアルのことも………ツァンナのことも」


後ろでが笑うのが分かった。
ただし………その笑いは、自分を笑うようなものだったけれど。


「全部知ってるなら分かるだろう。俺はアルを、アルジェントを殺した」
「違う。お前は―――!!」
「殺してないって?慰めの常套句だな。その場にいないヤツに言われたって、何も感じないぜ」


悲しかった。
言いたいことが伝わらなくて、でも言葉にできなくて。
めちゃくちゃだった。
……なにもかも。
だからだろう。
俺は、が始めに言った言葉も忘れて―――振り返っていた。


そこにいたのは――――俺の知らない、



「 動くな、……って言ったぞ 」



冷たい目で、俺を見ていた。
ぞくり、とするのが分かる。
キャバッローネのボスになってから幾度も潜り抜けてきた死線。
それを凌駕するような、冷たい、静かな、殺気。

本気だと、悟った。

俺の頬を伝う、温かい血がそれを教えてくれた。



生半可な覚悟じゃ、は手に入らない。



「銃声を聞きつけてお前の部下がやってくるぜ?―――どうするんだ、ボス??」



―――マフィアのボス。
ああ、そうだ。
それが俺の―――肩書き。
そして俺は部下を……ファミリーを守らなくてはいけない。
そう思えば、俺の行動は早かった。


「ッ!?」


鞭を取り出し、の銃を目掛けてそれを振るう。
うまくいけば―――本当に、うまくいけばそれはの手から離れ、少しの隙が生まれる。
俺の振るった鞭は確かにの銃を絡めとったけれども――――その先は保障してくれなかった。
くそ……っ!

地面に叩きつけられる、銃。
安全装置を外された銃はその反動で、暴発し―――
俺を狙う。


―――痛みを、覚悟した。


けれども痛みは全然ない。
硝煙と、血の匂いが辺りに充満していたのに……俺に痛みは無い。




「な―――!!」




――――――――――――代わりに血を流していたのは、だった。
俺の目の前で、肩から血を流す
何があったのか、一瞬、分からない。
も何も、喋らなかった。


ただ、驚いたように自分を見てる。


そして数秒後………笑った。




静かに、温かく、そして―――――――悲しげに。






「 アンタといると…………弱くなる 」






呟いた後、は走り去った。




俺は追いかけることもできずに…………その後ろ姿を見送っていた。










―――――なあ、なんであんな顔するんだよ


……………追いかけたく、なるだろ









俺はが見えなくなりかけた頃、ようやく走り出した。
























の残した、を追って。



















君と居ると、

弱くなっていくようだ

(いたのはほんの少しの間なのに…………だから、認めたくない)




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