なぜだろうか、俺は今―――

カフェで出会ったマフィアのボスの、部屋にいる。









君で変わっていく10のお題










「わりぃな、巻き込んじまって」


そいつはソファに座って、へらりと笑った。
あのときの―――強さは今は微塵も感じられない。


「改めて自己紹介な。俺はディーノ。キャバッローネファミリーのボスをやってる」


キャバッローネといえば、なかなかの規模を持つマフィアだ。
そのボスがこいつとは…………。
が、そんなことは関係ない。


「紹介しても俺はお前の名前を呼ばない。今回のことも忘れる。それじゃあな」


俺とこいつとの関係はあそこで終わっている。
あのときは呆然としていて、流されるままにやってきたが………もう関係ない。
俺はカフェのときのように帰ろうとするが、それをまたこいつは阻んだ。
こいつはどうしてそう俺に関わりたがるんだ………。


「もう止めるな。これ以上、俺に関わるなら俺も容赦はしない」
「どう容赦しないんだ?」
「こんな風にな」


俺はさっきの抗争でこいつから奪った銃を突きつけた。
引き金を躊躇うことなく、俺は引く。
銃声が響き渡った。


「ボス!!」


思ったとおり、部下が飛んでくる。
状況判断の早いいい部下だ。
俺は、その部下によって足元に押さえ込まれた。
打ち付けた身体が痛いが、今はそれほどでもない。
俺は哂った。


「………離せ、ロマーリオ。銃弾は当たっちゃいない」
「けどボス―――」
「いいから離せ!」


馬鹿か、こいつは。
部下はしぶしぶ、といった様子で俺の上から退き、退室する。
この部下の俺に対する行動は正しい。
だがこのボスはおかしい。
俺はまた、哂った。


「馬鹿だな、お前は。あっさり敵を放すな。やられるぞ」
「俺はを敵と思っちゃいない」
「大きく買われたものだな、俺は」


嘲笑するように俺は言う。
だが馬鹿なこいつは真剣な目をして俺見ていた。
そして、最も痛い言葉を俺に投げかける。



「何を怖がってるんだ」



びくり、と身体が反応するのが分かった。
すぐ傍に来ているこいつは、俺に手を伸ばす。
それが分かっていたから、俺は後ろに後退った。



「逃げるな」



なぜこいつはこんなに真剣な瞳をしているのか分からない。
けれども怖い。
俺はまた後ろへ下がる。
それを詰めるように、こいつは歩み寄る。
そんな繰り返しが行われて。

壁が背中に当たった。


「…………くそっ」
「もう逃げ場所はねぇな」


にやりと笑うこいつは楽しそうだ。
こっちは楽しくないが。
それに目だ。
こいつの目は気に食わない。


「おいおい、目ぇ逸らすなって」
「………フン」


俺はこいつと視線を合わせないように、横を向いた。
するとこいつは目を合わせようと俺と同じ方向を向いてくる。
更に避けるようにして俺は逸らす。
それがいくつ続いた頃だろうか。


「………いい加減にしないと俺も怒るぞ」


顎をとられ、無理矢理そいつの目と合わせられた。
それが気に食わなくて、俺はその手を振り払った。
振り払ったからには、ちゃんと目を合わせてやる。
俺はこいつを睨みつけた。


「無理強いしてまで俺に何を求めている」
「気になっただけだ」
「気になっただけ?それだけで俺をここに留めるな」


むかつく。
気になっただけ、そんな理由で俺は足止めされている。
この状況に、こいつに、そして逃げ出せない俺に腹が立つ。


「お前はまるで野良猫だな。すぐに噛み付いてくる。傍にも寄らせてくれない」


奴はそう苦笑した。
誰が野良猫だ。
俺に干渉してくるお前が悪い。


「言いたいことはそれだけか」
「いいや。まだあるぜ?」


言葉の多い奴だ。
一回で終わらせればいいのに、ここまで引っ張ってくる。
いい加減にして欲しいのはこっちの方だ。


「お前、何でそんなに人を信用しないんだ」
「ハッ、そんなのお前らの<世界>じゃ常識だろ?俺はもう、誰も信用しない」


―――そうだ。
俺はあのとき、決めたんだ。
もう、誰も信用しないと。
信用したら―――


「信用したら、お前の壁が崩れるからか?」
「……………ッ!」
「大事なものを失うからか?」


当たっている。
こいつの言うことは、俺が思っていることと同じ……!
まさか、こいつは。
俺を知ってるのか………?


「俺の何を知っているというんだ」
「何も知らないさ。見てるだけで分かる」


見てるだけで分かる?
そんな馬鹿のことを言うな。
アイツと同じ、ことを言うな……!
お前も同じだ。
アイツと同様に俺の中に踏み込んで、荒らして消える。
俺に、あのときのことを思い出させるな!



「なぁ、怖がるなよ。傍にいることを、怖がるな………」



こいつの腕が伸びてきて、俺を閉じ込める。
逃げれなかった。
逃げようと、しなかった…………。



だってこいつは、あのときのアイツと同じ目をしてたから―――



だから、捕まってしまった。






俺の、負けだ。




そう自覚した途端、忘れていたはずの涙が一筋流れた。




俺は、誰にもそれが見られることがないように、静かに拭った。





涙はもう流さないと、あのときに決めてしまっていたから。









傍に居ることを怖がらないで




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