イタリアの空港に、赤銅色の髪の男が降り立った。
左目は眼帯がしてあり、見える瞳は右目のみ。
傍から見ると人相がとてつもなく悪そうに見えるが、そうならないのは彼の柔らかな表情のせいだろう。
そんな彼の手荷物はそう大きくないキャリーバックだけ。
そして彼はいたって軽い足取りで、空港を後にした。
君で変わっていく10のお題
―――ディーノはカプチーノを頼んでいた。
それぐらい、自分のアジトで部下にでも頼めばいいものを、ディーノはあの喫茶店に来ている。
彼が来ることはあの日からもう、常連のようで店長も特に気にしない。
日当たりのよい、喫茶店の一角が彼の指定席だ。
そしてその向かいの、席も。
その目の前の空席を見て、ディーノは溜息をつき、テーブルに状態を伏した。
「はあー…………」
さっきから何度この動作を繰り返しただろうか。
向こうの、それこそはるか向こうのカウンターに居る店長も苦笑してしまっている。
それは周りに待機していた、ロマーリオたちにも言えた。
そんな時だっただろう。
ロマーリオたちに気配を感じさせず、店内に入った影があった。
するりとごく自然に影は侵入すると、逸早く気づいた老年の店長に手を振る。
彼はまた苦笑いで振り返すと、カプチーノをもう一つ追加するために準備に取り掛かった。
それを横目に、彼はまっすぐと金色の彼の背後に付く。
手には鉛色に輝く、銃。
カチリと安全装置のはずされる音がして、それは彼の後頭部に突きつけられる。
「!」
店内に衝撃が走る。
ディーノは懐の、鞭を取ろうとした。
が、その前にディーノは降ってきた声に目を見開いた。
「反応が遅いぞ―――――ディーノ」
その声はまさしく、ディーノが待ち焦がれていたもの。
勢いよく振り返ると、本当にそこにいた彼にディーノは満面の笑みを浮かべる。
も釣られるように、笑った。
そして、その瞬間。
ディーノはタックルするようにに飛びついた。
受け入れの態勢を取ったの身体はがくんと落ち込み、床に倒れこむ。
ギリギリで受身を取ったため、痛みはあまり無い。
が、その一瞬はやはり目を眇めてしまうものでは目を瞑っていた。
そのときに落とされた、小さなキス。
反射的に目を開くと、至近距離でディーノが笑っていた。
そんなディーノの背後で、ロマーリオたちと、店長が笑っているのが見える。
…………帰ってきたなぁ、
目の前でじゃれるディーノや、相変わらずの彼らを見てはそう実感した。
半年ぐらいイタリアに居なかったぐらいなのに、妙に懐かしい。
不思議なことに、故郷であった日本よりもここは………ディーノの傍は、に馴染んでいた。
転がる銃を見ながら、はそんなことを思う。
ここはもう、の帰る場所なのだと。
「………ディーノ」
「うん?」
「――――ただいま」
それでもなぜかこの言葉を言うのに、時間が掛かってしまった。
言い馴れないから、と自分に言い訳して呟いた小さな言葉はディーノに届いたようで。
ディーノはもう一度、掠め取るようにキスをして答える。
「――――おかえり」
ずっと、待ってたよ
「――――で、お前は日本で何してたんだ?」
場所は変わって、ディーノのアジトことディーノの屋敷。
あれからカプチーノを楽しんだ後、たちはごく自然にここへ来ていた。
夕食てがら、話していることはディーノのことや、のことばかり。
やがて、ディーノがに一番気になっていたことを聞く。
「ああ………ちょっと情報屋をやろうと思ってな。これ、見ろよ」
そう言うと食事中にも関わらず立ち上がったはいきなりシャツをぷちぷちと脱ぎ始める。
いきなりの行動に、ディーノは噴出したし、護衛役の人たちも咳き込んだ。
「ちょ、!なに血迷った、―――――」
こと、してるんだよ!
と言いかけたディーノは持っていたナイフとフォークを落とした。
からん、と皿に落ちたそれは軽い音を立てる。
そんなことより、ディーノの目はの、背中に釘付けになっていた。
燃えるような、赤。
背中はそれに染まっているように…………見えた。
「それ、は…………」
ディーノが驚いたように、の背中のそれをなぞる。
は前を向いたまま、笑った。
「俺の、シルシ。ヤクザ―――ジャパニーズマフィアみたいだけど、カッコいいだろ」
赤い、赤いそれは立派な火蜥蜴<サラマンドラ>。
それはの背中に、生きていた。
「今、情報屋やってんだよ。サラマンドラって言う、名前で」
シャツを再び着ながら、は言った。
隠れてしまった火蜥蜴が、ディーノにとって少し残念だ。
それより情報屋………サラマンドラ。
その名前は聞いたことがある。
いや、聞いたことがあるというより――――
「………もしかして、キャバッローネに情報廻してたのは、」
「ああ、俺。試験的にやってみたんだけど、成功したみたいだな」
元通りそれぞれの席につき、食事を再開しながらそんな話をする。
ディーノはが、サラマンドラだったことにひどく驚いていた。
サラマンドラといえば。
ここ最近、有名になった情報屋だ。
その情報の量、質、両方ともトップクラス。
あの、ボンゴレ九代目も密かに信頼しているとか言う………この世界では新参者ながら、有名である。
「びっくりしたか?」
「そりゃーもう………びっくり。驚かねぇ方がすごいだろ」
ぐったり、とした様子のディーノには笑う。
笑う、だが、その左目はやはり黒の眼帯に覆われていた。
「……それは?」
「ん?」
それ、とディーノが差すそれは左目。
はそれに気づくと誤魔化すように………また笑う。
「これは古傷。ちょっと最近、調子が悪くてな」
「なら医者に見せればいい。呼ぶか?」
「いや、いらない。そういう分野じゃないから」
話すはまだどこか遠く見える。
ディーノはまだ話せないことがあるのか、と思った。
けれどもそれをは一蹴する。
「いずれ、話すさ。………絶対」
苦笑するはどこにも影なんて、見えない。
貴方がそれを取り除いてくれたのです
「……なあ、」
「なんだよ」
「これから先は…………ずっと、一緒なんだよな」
「そのつもり。でも俺はどこにも属さない情報屋だからな」
「分かってる。それでもはここに帰ってきてくれるんだろう?」
「――――言うまでもなく。お前が俺を出迎えてくれる限りな」
「それなら大丈夫だ。だって俺は――――
「まあどちみち、俺も―――――――――
もう、
君が居ないといられない
(お前が居るから俺が居るんだよ)