から跡部財閥へ行け、と言われたリョーマはその言葉の通り跡部財閥へ向かっていた。
だがその途中、“組織”の下っ端がリョーマを攻撃してくる。
まるで、リョーマがそこに行くことを分かっているように配置されているのを見て、リョーマはらしくもなく舌打ちをした。


「雑魚に構ってる暇はないんだけどッ!」


走りながら玉葉を展開し、簡単な技を使う。
それは見事に、行く手を阻んでいる者たちを襲った。
リョーマはそれに見向きもせず、駆けて行く。
今のリョーマには、明らかに焦りが見えていた。
“Dark Blue”が陽動に出てきたこと。
下っ端が囮になるならともかく、幹部クラスの者が囮になるなど、滅多に無いことだ。
幹部は互いに、庇い合うことなどないに等しい。
リョーマはそのことをよく知っていた。
幹部が進んで囮になる理由は…………リョーマが考えても、一つしかない。



“リーダー”が、跡部財閥にいるのだ。



ブルーコーポレーションも危ないという言葉から、二人のリーダーが二つの会社内にいることは間違いない。
それも、社長の近くに。
もしかしたら、社長そのものがリーダーなのかもしれない。
リーダーならば、リョーマが『月の涙』を持って逃げたことを知っているだろう。
それならば、によく接触した人物がリーダーの可能性が高い。
ならば、リーダーは、跡部か忍足か。
リョーマの予想としては、跡部の可能性が高い。
なぜなら、跡部はをやけに気に入って館にを閉じ込めていたくらいだ。
『月の涙』をが持っていることを懸念して閉じ込めたということも考えられる。
跡部財閥敷地内に侵入したリョーマは辺りを見回し、風で社長室のあるフロアに飛んだ。
その社長室に向かう途中、リョーマの足元を氷が襲う。
鋭いそれに、リョーマはばっと跳ねて交わした。


「氷!?ということはまさか………」
「なんだ、お前かよ」


そう言って廊下の角から現れたのは、跡部財閥総帥である跡部景吾。
リョーマは跡部がリーダーであると思っていたため、素早く戦闘態勢を取った。


「おい、なんだよ。いきなり」
「それはこっちのセリフ。いい加減、恍けるのはやめたら?こっちは全部分かっているんだからさ」
「あーん?何言ってやがる。それよりお前、忍足を見なかったか?」


跡部はリョーマの言葉に眉を寄せ、忍足の場所を問うた。
だがリョーマはここから先は行かせないというように、跡部の行く手を阻む。


「なんだ、やる気か?それどころじゃねーんだけどよ」
「逃げるつもり?」
「んなわけねーよ。俺にはお前より優先する事があるんだ」
「へぇ、どんなことだろ」
「お前には教えてやらねーよ」


跡部はリョーマの言葉を一蹴し、紫苑を呼び出した。
ここを通らせないつもりなら、力ずくでも行くぞ、という意思表示だ。
リョーマも負けじと玉葉を呼び出し、二人は対峙する。
そんな一触即発の中、火炎玉が二人を狙って来た。
咄嗟のことにリョーマは反応する事が出来なかったが、それより先に跡部が前に出て、氷の壁を張った。
火炎玉はその氷の壁と相殺され、音を立てて消えた。
その際、出来た水蒸気により辺りは見えなくなった。
だが、光加減でその水蒸気の向こうに誰がいるのかは分かる。
跡部は誰かを分かっているのだろう。
苛立ったような声音で、その人物に向かって話しかけた。


「これはどういう意味だ、忍足」


水蒸気の晴れた先、そこには不敵な笑みを浮かべた忍足が立っていた。
傍らには、紅く輝く琉架があった。
リョーマだけが何がなんだか分からない状況下、二人の出方を窺う。


「なんや、意外と気づくん遅かったなぁ」


くすくすと嫌な感じに笑いながら、忍足は手で琉架を玩ぶ。


「簡単やったで?秘書やったらデータ取るなんて、他愛も無いことやし。跡部も最初は疑っとったみたいやけど、最後には信用してくれるしなぁ。
 ………結構、楽しかったで。ごっこ遊びは」


そして、忍足は。
次の瞬間、表情の色を変えた。



「でもな、もういらんから消えてや」



ぞくりとする程の殺気。
先程までその気を一瞬たりとも見せなかった忍足から、それは発せられていた。
リョーマはそれに、身体が強張った。
なぜなら、その殺気は一度だけ、リョーマは感じた事があったのだ。
そしてそれは、リョーマがまだ“組織”にいた頃――――。


「あんた、は…………!」


驚愕に満ちた、リョーマの声。
それを聞きとめ、忍足はリョーマの方を見やった。
リョーマの様子を見、忍足は薄っすらと笑う。


「ジブンも、気づくの遅いなぁ。仮にも“組織”のリーダーやで。感覚、鈍ったんとちゃう?
 なぁ、玉葉?」


滝と同様にリョーマを、“組織”での名―――大体が『星』の名だ―――で呼ぶ忍足。
再び身体を強張らせ、警戒するリョーマは、玉葉を忍足に嗾けた。


「“火球”!!」


火の玉が玉葉から発せられ、忍足に向かっていくが、忍足はそれを火炎玉で相殺することで防いだ。
すると、一瞬の隙ができる。
そこに、今まで傍観していた跡部はつけ込んだ。


「“氷礫”」


氷の礫が忍足を襲う。
だが、忍足はいとも簡単に、氷を溶かした。


「なんで俺が相手せんとあかんのやろ……。どうせやったら、がええわ」
「はッ、余裕だな。忍足。てめーには、はもったいねーよ」
「こっちに俺が来て正解だね」


溜息をつき、忍足は頭を振った。
まるで、意味が分かっていないと言うように。


「阿呆やな、ジブンら。俺が言うた意味は、やないと俺に勝てんという意味や。つまり、ジブンらは相手にならんっちゅーことやね」


忍足の二人を貶す言葉に、プライドの高いリョーマと跡部が黙っているはずがない。
二人は冷ややかに、怒りのオーラを出していた。
普通の、一般人ならここで萎縮してしまっただろう。
だが、相手は“組織”のリーダである忍足だ。
そう簡単にいくはずもない。
忍足は腕に嵌めた時計を見、呟いた。


「ああ、もう時間や。これ以上、ジブンらに構っとられん」


そう言いながら忍足は、今までに見た中で一番冷たい瞳をする。
そして、二人を一瞥するとくるりと背を向けた。
一見、隙のありそうな忍足。
しかし、二人は動くことができなかった。
なぜなら彼は隙がありそうでなかったのだ。
よって、二対一の状況でありながら、動くことができなかった。
これが、リーダーの力なのか。
妙な威圧感を感じながら、二人は思った。


「さて、と。そろそろ俺は行くで。向こうで相棒が待っとんや」
「………俺がそう簡単に行かせると思ったか?」
「いーや、思ってへん。でもなぁ……俺、早くに会いたいんや」


だから、邪魔せんとって



忍足が目の笑っていない笑みを浮かべて、二人に言い放った。
、という言葉に固まる二人を見て、忍足は追い打ちを掛ける。



は、俺らが貰ってくで」



「「!!」」


その言葉に面白いほど反応する、リョーマと跡部。
だがその反応を返したとき、既に忍足はいなかった。


「チッ、行くぞ」
「分かってる」


二人は忍足に先手を取られたことに気づくと、素早く行動をした。


「ああ、俺だ。すぐに車を準備しろ。目的地は、ブルーコーポレーションだ」


エレベーターも待たず、階段を駆け下りていきながら跡部は電話を掛ける。
相手は樺地なのだろう。
電話から、ウス、という肯定の言葉が聞こえてきた。
それを切り、跡部は先を歩いていたリョーマを見やる。


「おい、アイツやお前の言っていた“組織”ってなんだ」
「今はそれどころじゃないし。と合流した話す。それに言っとくけど、俺はもうそこに所属してないから」
「分かってる」


足早に行動する二人は、会話をそれ以降交わすことはなかった。



今はただ、ブルーコーポレーションへと向かうのみ。