あれから、一週間。
とリョーマは、まだ跡部邸にいた。
否、あの後帰ろうとしたのだが跡部に引き止められ。
けがもあり、一日だけ滞在しようとしたのだが…
帰ろうとする度に、跡部や忍足に見つかり、帰れないまま一週間が過ぎていた。
だんだんと日が過ぎていくのに比例して、の機嫌も急降下を辿っている。
そして、遂に。
の不満は爆発した。
その矛先は、ちょうど来ていた忍足に向けられる。
「ゆーしv」
「なんや、?」
ハートマーク付きで呼ばれた忍足は、の心境に気づくはずもなく。
満面の笑みを浮かべて、近くに寄ってきた。
それには怪しく笑い。
「もうちょっと、来い」
更に忍足を近くに呼び寄せる。
そして、二人の距離が一メートル未満になった時。
は自ら手を伸ばして、忍足の頬に触れた。
ビリリ、と電撃が忍足に奔る。
次の瞬間、忍足は意識を失い、床に崩れ落ちていた。
その電撃は、を使って出したものである。
極微量の電気であったが、人を気絶させるスタンガンぐらいの威力はあるのだ。
「ごめんな、侑士。でも、自業自得だぜ」
忍足を引きずりながら、は笑顔で言う。
その引きずった先には、ベッド。
は忍足を自分の身代わりにするつもりなのだ。
忍足をベッドに放り投げ、その上からばれないように毛布も丁寧に掛ける。
「…準備完了」
少し重かった忍足を運び終え、はコキコキと肩を鳴らす。
そして、ドアではなくテラスに出た。
「確か、リョーマの部屋はこの横だったよな…っと」
ひょい、と手すりの上に乗ると、は器用にも壁伝いにリョーマの部屋へと進み始める。
まるで、忍者のようだ。
は辺りに誰もいないことを確認すると、するりとリョーマの部屋へと潜り込んだ。
鍵が掛けてあった気もするが………そんなものは、今のに通用しない。
ボーっとして暇を持て余しているようなリョーマの背後へ、はゆっくりと忍び寄っていく。
そして。
「だーれだ?」
と、リョーマの目を手で覆った。
びくりと、リョーマは肩を揺らしたが、すぐに誰か分かったのだろう。
の手を振り解いて、向き直った。
「やあ、リョーマ。久しぶり」
軽く手を挙げ、は微笑む。
それと同時に、リョーマはに抱きついてきた。
「よかった…。無事だったんだ」
「無事もなにも、俺はぴんぴんしてるぞ?」
「だって、あいつらがは重症だって…!!」
「それ、あいつらが俺を留めておく為の嘘。俺なんか、リョーマが重症って言われたぞ」
まあ、すぐに嘘だろうと思ったけど。
とは内心付け足す。
冷静なとは反対に、リョーマは騙されたことに関してかなり怒っていた。
「、あいつら潰してきていい?」
「あー…今はやめとけ。今は俺たちがここから脱走するのが先。それに、それが一番打撃を与える手段だ」
は、テーブルに備え付けてあったメモ用紙に、さらさらと置手紙を書いていく。
その中にきちんと、追加料金の催促も忘れない。
なにしろ、半ば無理矢理ここに滞在させられていたのだ。
待遇はこれでもかと思うほどよかったが、自由がほぼなかった。
これぐらいさせてもらっても良いだろうというのがの判断だ。
「さて、と。リョーマ、準備はいいか?」
「O.K」
リョーマが答えると、は笑ってテラスへ足をかけた。
そして二人は同時に、そこから飛び降りる。
「「“翔”っ!!」」
玉葉とをごく自然に呼び出し。
二人は風のように消える。
それから十分後。
跡部邸は大騒ぎとなる。
「……というわけで、ここに来るのが遅れた」
「そりゃ災難だったな」
宍戸と向かい合いながら、はいつも通りパフェを頬張る。
あれから、二人は脱走したその足で、『ICE』に来ていた。
相変わらず、人がそんなにいない店内には、客はリョーマとしかいない。
そして、店員は宍戸一人。
どうやら、鳳は買出しに出かけているらしい。
「で、きちんと振り込んであったか?正規の料金と、追加料金」
「ああ、安心しろ。ばっちり振り込んであったぜ。あれからそんなに経ってねぇのにな」
それほどまでに引き止めたかったんだろーな、
と宍戸は苦笑しながら言う。
「おかげでこっちはいい迷惑だったし」
ぶすっと不満気に言いながら、リョーマはお気に入りのファンタを飲む。
よっぽど、あの二人が気に入らなかったらしい。
「大体、なんなわけ?あの跡部財閥総帥とかいう俺様な奴。猿山の大将じゃん。それに、胡散臭い関西弁の秘書は初対面でを拉致ろうとするし。頭にくるんだけど」
まるで、酒に酔って上司の愚痴を零す会社員のように、リョーマはそんなことを言い出した。
いきなり豹変したリョーマの様子に、と宍戸は目を丸くする。
「…亮」
「なんだよ」
「リョーマに、酒飲ませたのか?」
「馬鹿。あいつが飲んでるの、ファンタだろーが。なんで冷蔵庫に入ってたファンタが酒になるんだよ」
結果、原因不明。
リョーマは二人が話している間にも、そのファンタを飲み続け、愚痴を零し続けている。
既に、その愚痴は跡部財閥の二人だけでは留まらず、最近会っていない千石や菊丸にまでその矛先は向けられていた。
「千石さんも千石さんで、なんでいつもを引き抜こうとしてるわけ?のパートナーは、俺なのに。それに、あんまり会わないけどあの猫みたいな人、何様のつもり?いつもいつもいきなり現れてはご飯をタカっていくし。俺のことは『オチビ』とか言うしさ。俺の身長はこれから伸びるんだし、猫に言われる筋合いはないんだよね」
リョーマの毒舌トークはまだまだ続く。
いつの間にか、ファンタはなくなっているというのにその勢いは衰えることはない。
むしろ、勢いに乗っている。
「…亮、どうしてくれんだよ」
「……どうにもなんねぇ」
二人が途方に暮れている時。
カランカランとドアが開く音がした。
「あれ?さん、来てたんですか?それに、リョーマくんも」
「「長太郎!!」」
タイミングよく現れた鳳に、二人は詰め寄った。
あまりにもいつもと違いすぎる二人に、鳳は持っていたスーパーの袋を落としそうになる。
「冷蔵庫にあったファンタ、あれになんかしたか!?」
「え、あのファンタですか?あれ、新発売の酒の入ったファンタですよ。いわゆる、チューハイです。俺が飲んでみようと思って買っておいたんですけど…それがなにか?」
まったく悪意のない鳳の回答に、宍戸は疲れた笑みを零した。
まさか、そのファンタを間違えて出しましたとは鳳に言えるわけがない。
だが、は違った。
「馬鹿野郎!リョーマがあれ飲んで酔ってんだぞ!」
「え、えええ!?」
「と、いうわけだ。どうにかしろ、長太郎」
諦めた宍戸は、責任を鳳に転嫁する。
しかし、その鳳は混乱中。
どうにもならない事態に、喫茶店『ICE』は臨時休業となったのであった………………。
おまけ
「忍足、を逃がすとはどういうことだ!?あーん!?」
「お、落ち着いてや跡部!あれは不可抗力で……!!」
「問答無用だ。この追加料金、お前の給料から差し引いておくぜ」
「そんな殺生な!」
「自業自得だ。おい、樺地」
「ウス」
「こいつを放り投げろ。当分、屋敷に入れるんじゃねーぞ」
「ウス」
「あああ!?や、やめてや、樺地ー!!」
こちらも、負けずに混乱を極めていたりしたのであった。