忍足・リョーマ組は、やけに長い階段を昇っていた。
昇っても昇っても、終わりが見えない。
だんだんとリョーマはいらついてきた。


「一体この階段、どこまで続くわけ?アンタ、あいつのパートナーなら分かるんじゃないの?」
「あんなぁ、俺だってこないに広い屋敷の全部を把握しとるわけじゃないんやで。それにこれは別邸で…」
「そんな話、どうでもいいから。俺は、この先になにがあるか聞いてんの」


これから“Dark Green”の一人と対峙するというのに、二人の仲はそんなに良くないようだ。
いや、一方的にリョーマが忍足を相手にしてないといった方が適切だろう。


「確かこの先は、展望室に繋がっとるはずや……って、一人で行動してどないすんねん!」


忍足からの返答を待つ前に、リョーマはすたすたと階段を昇っていた。
質問をした意味は、まるで無い。


「アンタ、遅い」
「いや、教えろ言うたんは自分やろ!!」


プチ漫才を繰り広げつつ、忍足はリョーマに追いつこうと階段を駆け上った。
…が。


「なんで走るんや!追いつけへんやろ!」
「追いかけられたら、逃げる性分なんだからそっちが諦めれば?」
「アホ!いつ敵の攻撃があるか分からんやろ!!」


静かな夜に、二人のドタバタとした足音が響く。
既に、“Dark Green”のことは、忘れている。
そして二人が半ば競争と化したまま階段を昇っていると。



「おやおや。仲間割れかい?」



不意に、声がした。
二人以外の、第三者の声。
先程の行動も忘れ、二人は階段を昇った先に立つ長身の男を見上げた。
黒ずくめで、気配は希薄。
月光を浴びて、眼鏡が逆光している。


「アンタが、“Dark Green”?」
「ご名答だよ。『Shine Night』の越前リョーマ」


男はどこからか取り出したノートを見ながら、言う。
この暗闇の中、よくノートが見れるものだ。


「下調べは、ばっちりっちゅーことかい」
「まあ、その辺は抜かりないよ。得意分野だからね。そう言う君は、跡部財閥総帥、跡部景吾の第一秘書の忍足侑士だろう?」
「その通りや。人の名前知っとるなら、そっちの名前も教えるんがセオリーやと思わんか?“Dark Green”サン?」


忍足は、傍らに琉架を浮遊させておいて、言う。
牽制のつもりだろう。
だが、リョーマは『星』を出そうとしない。
じっと、忍足と男のやりとりを見ていた。


「俺は、乾貞治。ちなみに、向こうへ行っているのが海堂薫だ」
「ご丁寧にどーも」


ぶっきらぼうに、リョーマが言い返す。
そんなリョーマの様子に、乾は苦笑した。


「本命は、あっちときたからね。少しだけ、君たちの相手をしてあげよう」
「「俺たちを、甘く見ないでよ(見んなや)」」


好戦的な瞳をしたリョーマが、玉葉を呼び出す。
それをみて、乾が眼鏡をさらに光らせた。


「珍しいな、『陽』か。でも今は夜だ。威力は半減されるんじゃないかな」
「煩いよ。アンタもさっさと『星』を呼び出したらどうなのさ」


珍しく、交戦モードが入っているリョーマ。
強そうな奴に出会えて、気分が高揚しているようだ。


「仕方がない、か。―――おいで、煉銘」


すると乾の手のひらに、灰色の『星』が現れた。
灰色のそれは、空…つまり、空気中の物質を操る属性だ。
だが、物質と物質の組み合わせなどを知っておかないといけないため、空の属性を持つ『星』を選ぶ者は殆どいない。
『星』の中でも、最も敬遠される属性なのだ。
それを使うのは変人か、はたまたよっぽどの使い手か。
その二つに分類される。


「先手必勝や!行くで、“火柱”!」


とリョーマに会ったとき使った技を、忍足は使った。
そのまま、乾の傍に火柱は出るはずである。
しかし、いつまで経っても火柱は出てこなかった。


「なんやて…!?」
「これが空属性の特徴さ。次はこちらから行かせてもらおうか。―――“酸素欠乏”」


乾が煉銘を光らせた途端、リョーマと忍足はどこか息苦しくなるのを感じた。
“酸素欠乏”。
その名の通り、ある一定範囲の酸素を徐々に失くしていくという恐ろしい技だ。
そしてその技は現在、二人にかかっていた。


「どうだい?酸素を徐々に失くしていく気分は。その技にかかって死亡する確率は、80%。もし、生き残ったとしても酸素欠乏症で大変なことになるだろうね」


乾のその言葉より先に、二人は今の状況を理解していた。
既に、まともに息ができない。


「く、そ…っ…玉…葉、“起風”…っ!」


リョーマの苦し紛れの呟きに、乾は気づかない。
その隙にリョーマは、風を起こした。
新鮮な空気が、酸素の無かった場に流れ込む。


「た、助かったわ…」
「危機一髪、ってとこかな」


酸素を吸い込みながら、二人は会話を交わす。
乾はその様子を興味深げに見ていた。


「ふむ…。『陽』の方は珍しいな、風属性か。そして忍足侑士の『星』は、火属性…」
「「ごちゃごちゃうっさい」」


またもや重なる二人の声。
重なるとは思わなかった二人は、思わず顔を見合わせた。


「なんでアンタとハモるわけ?」
「せやかて、こっちだって好きでハモっとるわけないやん」
「まあ、いいけどさ」
「そや。気にせんほうがええで。それより、ええ作戦があるんやけど…」



こそこそと二人はしばし作戦を立て。
二人はにやりと笑みを浮かべると、乾の方に向き直った。


「打ち合わせは終わりかい?」
「ああ、ばっちりやで」
「後悔させてあげるよ」


どこか自信満々な様子の二人に、乾も眉根を寄せた。
なにが出てくるのか。
煉銘をスタンバイさせておき、いつでも反撃できるように体勢を構える。
そして。


「“火柱”っ!」
「甘いよ。同じ技は通用しな―――」
「いけ、“突風”っ!!」


自分の周りの酸素だけを抜こうとした乾は、リョーマが起こした風…それも、荒々しい台風のような風に視界を奪われてしまう。
だが、それも一時期のことだ。
乾の視界はすぐに回復するだろう。
しかし、リョーマは“突風”を起こした後、さらに別の技を発動させた。
まったく同時刻に、忍足も発動させる。



「「“火炎”っ!!」」



二つの“火柱”が“火炎”となり、乾を襲う。


「くっ!」


乾はそれを寸前で避けたが、傾く身体は止められない。
後ろに開いていた窓があったことが、乾にとっての幸いか、不幸か。
ともかく、乾はそのまま窓に投げ出された。
下は池がある。
運が良ければ助かるだろう。


「…は〜っ。なんや、むっちゃ疲れたわ」
「同感」


勝利したリョーマと忍足は、そのままその場に座り込んだ。
慣れない者同士で、無駄に動き回ったため疲労は濃い。
それに“酸素欠乏”を食らったダメージが二人には残っていた。


「すぐにんとこに行きたいんやけどなー…」
「アンタは、あの俺様がパートナーなんだからそっちを心配したら?俺はの心配しとくから」
「なに言うてんねん。パートナーは関係ないやろ。俺はあの俺様な性格に振り回されて疲れとるを心配しとんのや。俺が誰を心配しようが関係ないやろ」


忍足の言葉を聞いて、リョーマの何かがプチッと切れた。
なにしろ、先程の忍足ばかり動いていて攻撃できなかった。
おかげで、この日まで力を溜め込んでいた玉葉もどこか欲求不満気味だ。


「…玉葉、“火弾”」


ぼそりとリョーマが呟くと、勢い良く火が飛んでいく。
それは、忍足の横を掠った。
ひくりと、忍足の表情が引き攣る。


「…ええで。やったろうやんか。琉架、“火雨”や」


既に二人は戦闘を始めようとしていた。
この調子だと、たちがいる反対側へ辿り着くには時間がかかるだろう。
なにしろ、この果てしなく続きそうな戦闘を終わらせなければならないのだから…。