四人はさっきと打って変わって真剣な表情をしていた。
「依頼内容は、明後日行われる社交パーティの護衛。もちろん、俺様のだ。
それ相応の報酬も出す。これが前払い金だ。安いって言うなら、上乗せするぜ?」
百万円はあろうかという札束を、跡部は無造作にテーブルに放る。
一般庶民にはできないことだ。
「たかが護衛に、総帥サマはこんなに出すんだ?こんなにあったら、そこらへんの奴らなんか雇えるんじゃない?」
明らかに棘のある言葉をリョーマは言い放つ。
どうやら、いまだに跡部に対して警戒しているらしい。
だが相手は無視を決め込んでいるようで、まったくの無反応だ。
「ホンマならそうしたいんやけど…事情が事情なだけになぁ……」
忍足は苦笑しながら、一通の封筒を差し出した。
はそれを受け取り、封を切る。
そして、読み上げた。
『跡部財閥総帥 跡部景吾様
満月の夜にて行われる社交パーティの場で
貴方様の命を貰い受けます。
Dark Green』
が読み上げる中、リョーマはその手紙の差出人であろう“Dark Green”の名を聞いて、びくりと僅かに反応した。
しかしその様子に、三人は気づいていないようだった。
それにリョーマのその様子も一瞬のことで、すぐに元に戻った。
「それにこのカードが同封されていた」
跡部はそう言って、一枚のカードをに手渡した。
黒い星が描かれたそれ。
右端には、緑の文字で“Dark Green”と書かれている。
はそれを見て、眉を顰めた。
「このカード…『星』の気が染み込んでるな。それも、二つ。属性は…地と空か。なかなか力も強い」
すらすらとカードに染み込んだ『星』の気を読んでいくに、跡部と忍足は驚愕した。
同時に、コイツなら任せられると確信する。
「流石やな。まさかこないに細かいとこまで探るとは思わんかったわ。ホンマ、ええ当たり引いたなぁ」
感心した忍足がそんなことを言う。
その傍らには、いつの間にか出現した琉架がいた。
「おい、忍足。琉架を出してる場合じゃねーだろうが」
「えーやん、ちょっとぐらい。ほら跡部も紫苑出しぃ。どうせやから、『星』の紹介でもしようやないか」
忍足がそう言うと、淡い水色の光を発している『星』、紫苑が現れた。
「紫苑!」
勝手に出てきた紫苑に叱咤の声をかけるが、紫苑は主である跡部を無視し、正面にいたの方へと寄っていく。
そしてくるくると自身の周りを回り始める紫苑に、はくすりと笑い、を呼び出した。
満月が近いせいか、の銀色の光はいつにも増して強く光を放っていた。
「あ、こら玉葉!」
するとの光を察知したのか、玉葉までも姿を現した。
いつの間にか外は夜になっているため、そのオレンジ色の光は微妙に弱い。
だが、対の存在である『陽』と『月』が揃い、それは調和されていた。
そして四つの『星』たちはしばらくの間、くるくると互いに回ってそれぞれの主の下へと帰っていった。
「…で、依頼は受けてくれるんか?」
それを見届けると、忍足がそんなことを言ってきた。
ここまで話の内容を聞いていしまっては、断る方が至難の業だ。
それに断ったら断ったらで、仕事に影響が出るだろう。
なにしろ相手はかのブルーコーポレーションと並んで力を持つ、跡部財閥。
その気になればたちなど自由に潰せるだろう。
それこそ、自分の手を汚さずに。
ならば選択肢は一つしかない。
(リョーマには悪いけどな…)
「その依頼、受ける」
はそう宣言した。
隣ではそう思わなかったのだろう。
リョーマは瞳を見開いてを見ている。
対する跡部は、命を狙われているというのに楽しそうに笑っていた。
忍足も、同様で。
「でも、その前に」
しかしはそう言って、跡部たちの方を見た。
不服なことがあるのか、と言いたげに跡部は口を開く。
「なんだよ」
「少し、リョーマと話をさせてくれ」
「…分かった。十分後、戻ってくる。それまでに話をつけておけ。…行くぞ、忍足」
跡部は了承の言葉を返し、忍足を伴って部屋から出て行った。
ばたんとドアが閉まるのを確認し、は言う。
「リョーマ、あの手紙の送り主は十中八九、“組織”の奴らだな?」
「…そうだよ。手紙の送り主の“Dark Green”は“組織”の幹部。顔は知らないけどね」
どこか自嘲気味にリョーマは言う。
まるで、何かを諦めているようだ。
「遂に、幹部まで出てきた…。幹部の力は今までの奴らの比じゃない。、俺とパートナーを解約するなら今だよ。
俺、これ以上に迷惑をかけられない――――」
更に言葉が続こうとしたとき、再び新聞紙がリョーマの頭に振り下ろされた。
やはりスパーンッといい音がする。
「…リョーマ。俺、最初に言ったよな?覚えてないのか?それとも、俺のことを信用してないのか?」
は本気で怒っているようだった。
先程キレたときとは比べ物にならないほどだ。
「覚えてるよ!忘れるわけないじゃん!俺、人に優しくされたの、初めてだった。自分の居場所をくれた人も、初めてだった。
ましてや、信じてくれる人はいなかった。だから、これ以上を巻き込みたくなかったんだッ!!」
リョーマはそれに対抗するように、次々と捲くし立てた。
それにも負けてはいない。
「俺はもう、無関係者じゃないんだぞ?よく考えてみろ。俺には、『月の涙』がある」
「…ッ!それはそうだけど…!」
言い返せない言葉に、リョーマは唇を噛んだ。
そして、はぽつりと最後に呟いた。
「それに俺はもう、自分の周りの奴がいなくなるなんて、嫌だ」
悲しげな呟きに、リョーマははっと我に帰った。
今思えばの過去に関して、リョーマは何も知らない。
本来、パートナーがいなくてはならないのにいないのも、その過去に原因があるのだろう。
リョーマは少しの間といえども、のことをまるきり分かっていなかったことに今更だが気づいた。
「…ごめん」
「何で謝るんだよ?謝ったからには、きちんと依頼を受けるつもりだろ?」
「別にいいけど?俺、もう決めたし」
元のように仲直り(?)をした二人の結論は決まった。
こうなったら後は行動あるのみだ。
二人はその部屋を出た。
もちろん、依頼主を探してだ。
だが結構簡単に、依頼主である跡部と忍足は見つかる。
「話は纏まったみたいやな」
とリョーマの姿を見つけ、跡部たちはそっちの方を見た。
「それで、お前らはどうするんだ」
「もちろん、決まってるじゃん」
リョーマは不敵に笑う。
迷いは、ない。
「その依頼、受けさせてもらうよ」
「そうか。なら、準備をするぞ」
跡部はその答えを既に知っていたかのような返答を返して、指を鳴らした。
すると、どこからともなくメイドたちが現れる。
「な、なんだ!?」
メイドたちはを見つけるなり、ざざっと取り囲む。
いきなりのことに、は驚いた。
「お前にはこれからみっちりと作法を仕込んでやる。明後日のパーティには、俺様のパートナーとして出てもらうからな」
「パートナー!?そんなの侑士がいるだろうが!」
メイドの波にのまれつつ、は言った。
それに跡部は鼻で笑う。
「バーカ。パーティのパートナーと言ったら女だろ?」
「俺は男だ!」
「だからだ。お前ら、こいつを頼んだぞ」
「はい、お任せくださいv」
やる気満々なメイドたち。
の抵抗(相手が女性なのでなかなか強くはできない)も空しく、はメイドたちによって連れて行かれてしまった。
その様子をリョーマはぽかんと見ていた。
「おい、お前はこっちだ」
「…だけじゃないわけ?」
「お前は、ウェイターとして参加するんだ」
(面倒じゃん…)
だが、女装させられるよりはマシだとリョーマは判断し、リョーマはウェイターの仕事をみっちりとやらされることとなった。
「言い忘れとったけど、そのパーティまで俺が仕事をしっかり覚えさせたる。覚悟しぃ」
きらりと忍足の眼鏡が光る。
みっちりしごいたるで。
そんな呟きがリョーマの耳に聞こえた。
どうやら当分、跡部邸からは出られないようだとリョーマは悟ったのであった。
一方、メイドたちに人形にされているは。
「きゃ〜っ、ウェスト細ーい」
「肌白いわ〜」
完璧におもちゃと化していた。
どうにもならないこの状況に、は半ば諦めている。
採寸が終わると、メイドたちは今度はカツラを持ち出してきた。
「この金髪なんてどうかしら?」
「あら、それより絶対茶髪よ!」
「いえ、瞳に合わせて銀にしましょうよ」
色とりどりのカツラを次々に被せられていく。
の意思もなにもあったものではない。
だがどうやら激しい争いの末、カツラの色は決まったらしい。
そして次は礼儀作法を教え込まれるのだろう。
はとんでもない依頼を受けたことを、後悔しながら溜息をついた。
(…後で追加料金でも請求するか)
こうしてとんでもない依頼は始まった。
社交パーティまで、あと二日。