とリョーマは忍足に誘導されるがまま、とある部屋の前まで来ていた。
途中の廊下も見る限り、かなり豪華だ。
そして、目の前のドアも細かく装飾が施されている。
どうやらここが、忍足の言っていた“ボス”の部屋らしい。
「跡部ー。入るで〜」
忍足はそう言うと、ノックもせず返事も聞かずにドアを開けた。
「忍足。ノックぐらいしろ」
部屋の主、跡部景吾は勝手に入ってきた忍足を見て、不機嫌そうに眉を顰めた。
「えーやん、ちょっとぐらい。今日はお客さん、連れて来たんやから見逃してや」
忍足はそう言うと、たちの方を振り返って手招きした。
とリョーマは顔を見合わせて、部屋に入る。
「…忍足。俺は、一人だけって言ったはずだよな?」
「細かいことは気にすんなや。二人とも、なかなかの強さやで。俺、負けてもうたし」
たちにソファーを座らせつつ、忍足は言う。
「そいつはいいとして、そっちの奴は駄目だ」
跡部は、リョーマを指差した。
その行動や言動に、リョーマはムッとした。
そして、リョーマは文句を言おうと口を開こうとした…が。
「聞いてれば勝手に話を進めてるみたいだけど、『Shine Night』は二人でやってる。
悪いけど、二人じゃないと依頼は受け付けない。それに、うちの相棒を侮辱しないでくれるか?跡部景吾サン」
先程から黙っていたようだが、はかなり怒っている様子だ。
その証拠に、黙り込んでしまった。
ちなみに、が怒ったら誰にも止められない。
絶対零度の瞳で相手を見、辺りが一気に冷え込むようなオーラを身に纏う。
それに加えて黙り込んでしまうのだから、更に空気が冷える。
その状態に、まさにはなっていた。
この状態を解除するには、時間が経つのを待つしかない。
例にも漏れず、部屋の空気は凍った。
だが、そこで押し黙る跡部ではない。
「なら、それだけの実力を持ってることだって思っていいんだろ?」
「当たり前じゃん」
「てめーには聞いてねーよ」
の代わりにリョーマが答えるが、跡部に簡単に言い返される。
リョーマはムッとしながらも、黙った。
再び訪れる、沈黙。
「あーもう、話が進まんやろ!簡潔に決めるで!!」
その沈黙に耐え切れなくなった忍足が、机をバンと叩き、視線を自分に集める。
が、しかし。
「「うるさいんだけど!」」
お互いに睨み合っていたリョーマと跡部に同じことを言われ、忍足はへこんだ。
既にリョーマと跡部は、臨戦状態に入っている。
「あ、忍足さん」
「なんや?依頼受けてくれるんか?」
そこへ、機嫌の直ったが話しかけると、忍足はいとも簡単に復活した。
「いや、まだ決めてないけど…暇だからちょっと外へ出ていいか?」
「ああ、そんなら俺が案内するわ。どうせあの二人は睨み合ったままやし」
そしてと忍足は、激しい毒舌バトルを繰り広げているリョーマと跡部を置いて、部屋を静かに出た。
もちろん、気づかれてはいない。
「あーん?もう一回言ってみろよ、チビ」
「これだから嫌だよね、俺様な奴は。自分が世界の中心だって思ってるんじゃないの?」
と、このように泥沼な毒舌バトル状態だ。
二人の部屋を出て行く判断は正しかった。
と忍足が部屋にいないことを気づくまで、あと数十分。
「やっぱり、広いな」
さすが跡部財閥総帥、とは感心したように呟いた。
その横には、忍足が各部屋を説明しながら歩いている。
「あ、猫」
「あれは跡部の猫のクリスタルや。俺には全然、懐いてくれへん…って!?」
忍足が説明している間に、はクリスタルに寄っていた。
案の定、クリスタルは見慣れない人物であるに威嚇している。
が、それも僅かな間のことで。
はすっかりクリスタルを手懐けていた。
「…なんでやねん」
俺の方が付き合い長いんとちゃうか…?と納得がいかない忍足は、の腕におとなしく抱かれているクリスタルに手を伸ばした。
「フシャーッ!!」
「痛っ!」
伸ばした手は、相変わらず忍足を嫌っているらしいクリスタルによって引っ掻かれた。
そのままクリスタルはの腕からするりと抜け出し、タタタッと駆けていく。
「忍足さん、大丈夫?」
は心配そうに駆け寄り、忍足の手の甲から血が出ているのを見ると無言のままを呼び出した。
「、“癒”!」
そういうと同時に、傍らにいたが緑色に輝く。
はしばらくの間、忍足の周りをくるくると回って姿を消した。
既に手の甲には、傷はない。
「…その『星』、属性は水やなかったんか?」
「のことか?」
「そや。『月』っちゅーのは分かったんやけど、属性がイマイチ分からへん。
最初のときは水属性やったみたいやけど、今のは完全に違う属性の癒やろ?それに、色がちゃう」
忍足は的確に、の不思議な点を挙げた。
さすが、跡部財閥の第一秘書といったところだ。
観察力は高いらしい。
「あー…正直俺にも分かんないんだよな…」
「どうゆうことや?」
忍足がやけに真剣な瞳でを見た。
が、それには気づかない。
「つまり、俺にも分からないところが多いってこと。分かった?忍足さん」
「まあ、ぼちぼちな。ところで、その『忍足さん』ゆーのやめん?」
「なんで?」
「俺には合わんのや」
やけに真剣な風に言ってくる忍足に、思わず笑みがこぼれた。
笑いながらは、了解、と言う。
「じゃあ、侑士でいいか?」
「ん、それでええ。こっちもって呼ぶで?」
「了解」
少し友好を深めた二人は、楽しそうに笑いながら跡部邸の廊下を歩いていった。
数十分後。
屋敷内の散歩が終わった二人は、元いた部屋へと戻ってきた。
忍足がドアノブに手をかけて開けるが、その先の光景を見て二人は動きを止めた。
目の前に広がるその光景の雰囲気は、今にも爆発しそうな爆弾のようだ。
だが、その爆弾はたちが来て爆発したようだ。
「こうなったら、仕方がないよね。…来い、玉葉!」
リョーマが『星』を呼び出すと、それを見て跡部がにやりと笑う。
「そっちがその気ならこっちも正攻法で行くまでだ」
そう言ったあと、跡部は指を鳴らした。
すると、跡部の『星』、氷属性の紫苑が現れる。
どうやら二人は、『星』を使ったバトルに持ち込むらしい。
「あー…何やっとんのや。屋敷が壊れてしまうやないか」
「まったく…世話の焼ける奴らだな」
はそう言うと、すたすたと対峙している二人の下へ歩み寄っていく。
「、危ないで!!」
「『Shine Night』を甘く見るなよ」
忍足に背を向けたままひらひらと手を振ると、は傍にあった新聞を丸めて、一番近くにいた跡部の頭をスパーンッと叩いた。
これには、忍足も、リョーマも、そして叩かれた張本人である跡部も驚いた。
だがそれに、いち早くリョーマが我に帰る。
そしていい気味だという風に、笑った。
が、しかし。
リョーマの頭にもその新聞が叩きおろされた。
沈黙したままの部屋に再び響く、小気味良い音。
「〜ッ!!痛いじゃん!!」
「自業自得。喧嘩両成敗」
は抗議してくるリョーマに、さらりとそう言った。
その様子に、忍足は苦笑している。
一方、叩かれた跡部は。
「…いい根性してるじゃねーか」
ぽつりとこう呟いた。
そのあと、意味有り気に忍足の方へ目配せするとその意味を悟った忍足が、相変わらず苦笑しながら頷いた。
「…お二人さん、ボスに認められたみたいやからそこに座りぃ」
忍足が指し示すソファーに、とリョーマは顔を見合わせて、座った。
二人がここに来て、既に太陽が沈みかけている時刻にいつの間にかなっていた。