リョーマが『Shine Night』に加わって数週間が経った。
その間、『Shine Night』は一人のときよりもサクサク進み、今まで以上に有名になった。
有名になっても、仕事のたびに“組織”に雇われた殺し屋が出てくる。
相変わらずの雑魚で、準備運動程度かそれ以下。
二人は半ば呆れつつ応対している。

変わらない、毎日。

変わったことといえば、『月の涙』がと同化しているせいなのかの力がいつも強くなっていることぐらいだ。
そして今日も仕事終え、いつも通りには夕食の準備をしようとした。
リョーマは好物のファンタが切れたので、買いに行っている。
ついでに、の好物チョコレートも買ってくるように頼んでおいた。
つまり、は今このマンションに一人。
そんな中、チャイムが鳴った。


「はい」


はこの時間帯、新聞屋が来るのを知っている。
しかも、今頃がちょうど集金の時期だ。
なので、躊躇いもなくドアを開けた。
だが、そこにいたのはスーツを着た怪しげな丸眼鏡の男だった。
しかも、笑顔全開だ。
の頭に浮かんだのは、何かの勧誘をしているありきたりな兄ちゃん。
よく街で見かけるあの人たちだ。


「…押し売りはお断りだ」


はそう言うと、ドアを閉めようとした。
しかし、男は未だに笑顔を絶やさずに足をドアの隙間に挟んだ。
そうしてできた間に、身体をするりと滑り込ませる。
その行動に、は咄嗟に身構えた。


「怪しいもんとちゃうから、そないに警戒せんとって。俺は、こーゆーもんや」


男は苦笑しながら、高級そうなスーツのポケットから名刺を出してきた。
は未だに警戒しつつも、それを受け取る。


「…跡部財閥総帥第一秘書、忍足侑士?」
「そや。今日は、依頼したいことがあって来たんやけど…ちょお、ええ?」


忍足はそう言うと、の顔や身体を見回した。
は当然、不快感を露にする。


「…これなら、条件にも合っとるな……やっと、機嫌を取れそうや」


そして、ぶつぶつとそんなことを呟く。
更に忍足は、の腕を掴んでこう言った。


「ほな、行こか」
「はぁ!?」


忍足はの戸惑いの声も気にせず、玄関のドアを開け引っ張っていく。
どうやら、本人の意思はまったく考えていないらしい。
そして引っ張られるまま、は忍足のものであろう車の前まで来てしまった。
リョーマは、気づいてくれなかったらしい。
だが、が忍足によって車に乗せられようとしたとき。


「ちょっとアンタ、なんでうちの同居人を誘拐してんの?返答によっては、痛い目に遭うよ」


スーパーの袋を持ったリョーマが、忍足を睨んでいた。
それを見て、忍足が苦笑する。


「なんや、もう一人おったんかい」
「…悪い?それよりさっさとの腕を離してよ」


リョーマがもう一回睨むと、忍足はの腕を放した。
そして忍足は、不敵に笑む。


「仕方あらへんなぁ…。二人っちゅーのは誤算やったけど、一緒にこちらに来てもらうわ」
「「ヤダ」」


忍足の言葉に、二人は身構えて即答した。
その様子に、忍足は再び苦笑する。


「しゃあないなぁ…そっちがその気なら、俺も本気でいくで」


忍足の表情が、さっきとは打って変わって真剣なものとなる。
それと同時に、周囲の雰囲気が一変する。
先程までの夕方の柔らかい雰囲気は消え、今は氷のような鋭さが場に満ちていた。


「行くで、琉架!」


忍足が、『星』を呼んだ。
赤い星のそれは、忍足の『星』である琉架が火の属性であることを示している。
『星』には『星』でのみしか対抗できない。
は、『月』で未だに属性不明のを。
リョーマは、『陽』の玉葉を呼んだ。
玉葉は『星』の中でも珍しく、火と風の属性を併せ持っている。
だが相手が火属性である以上、玉葉の火も風も対抗の術を持たない。
・リョーマ側で唯一攻撃できる『星』はのみであった。


「“火柱”!」


忍足がそう言うと、とリョーマの間に火の柱が立ち上った。
しかし、それはすぐに消えてしまう。


「消えた…!?」


リョーマが少し驚いていると、その背後にまた火柱が立った。
その火柱は消えたり、現れたりしながらたちを追い詰める。
二人は火柱を軽い身のこなしで避けていくのだが、服にはところどころ焦げ跡がついていた。


「リョーマ!風を起こせ!!」
「は?、正気!?火は風に煽られんの、知ってるでしょ!」


の言葉に、リョーマは火柱を避けながら返した。
火は風に煽られ、空気を送り込まれて威力が増す。
そんなことは『星』を扱う者の常識である。


「いいから!」
「どうなってもしらないからね。…玉葉、“起風”!」


巻き起こる、風。
だがそれはやはり、忍足の火柱の威力を強めるだけだった。


「なんや、こんなもんか?噂が聞いて呆れるわ」


忍足は残念そうな顔をしながら、火柱をリョーマの方へ向かわせた。
否、向かわせようとした。


「“水雨”!」
「なんやて!?」


リョーマの方へ向かうはずだった火柱が、突如消えた。
直後、雨がざぁーっと降り注ぐ。
その雨の中、とリョーマは勝ち誇った顔をして立っていた。
頭の上を見ると、三人のいる場所だけ風が渦巻き水を散らしていた。
忍足が雨だと思っていたのは、二人のコンビネーション技によって生み出されたものだったのだ。


「…完敗やね。まさか、組み合わせてくるとは思わんかったわ」


大物引き当ててしもうたわ、と忍足は濡れた髪を掻きあげながら呟いた。
そして、ゆっくりと二人に歩み寄った。
両手は、挙げてある。
なにもしないという意思表示だ。
その証拠に、琉架は消えている。


「俺たちを試して、何がやりたい?」


目の前に立った忍足を見据えて、は言う。


「試しとったのもお見通しかいな…。こりゃ、かなわんわ」
「当然。俺たちが組んだら、敵はないよ。で、何の用?」


忍足の言葉に謙遜することなく、リョーマははっきりと言った。
それを見て、忍足は苦笑する。


「正式に依頼、してええか?依頼すんのは、俺らのボスなんやけど」


まずは車に乗ってや、と忍足は言うが二人に未だ警戒されている。
どうやらさっきの戦闘&誘拐紛いのことで、かなり警戒されているようだ。
どうやって誤解を解くべきか、と頭をフル回転させながら、忍足は本日何回目かの苦笑を漏らした。































誤解も解け、忍足は車を走らせていた。
後部座席には、ずぶぬれの二人が乗っている。
一人は、不機嫌な顔をしていて。
もう一人は車に乗っているせいか、うとうとと眠りかけている。


「そういえば自分ら、名前なんていうん?俺、聞いとらんかったわ」
「…
「…リョーマ」


は眠そうに、リョーマはやはり不機嫌そうに答えた。
二人のそれぞれの様子に、忍足は思わず笑ってしまいそうになる。
そのうち、は眠ってしまって車の中は忍足とリョーマだけになってしまった。
気まずい雰囲気が車内に満ちる。


「………」
「………」


互いに無言。
かなり気まずい。
なにしろ、二人の出会いは最悪だ。
特にリョーマなどは忍足を敵視している。

(し、視線が痛いわ…)

忍足は運転中、ずっとリョーマの視線を受けるという半ば拷問を受けながらどうにか車を跡部財閥総帥、跡部景吾の家に辿り着かせた。


(運転中の方が、戦っていたときよりも疲れるのは気のせいやろか…)


忍足の気苦労はしばらく絶えそうにもないようだ……。