が朝食の後片付けをしていると、不意に後ろから話しかけられた。
皿を洗う手を止め、はリョーマの方に振り返る。
後ろに立っていたリョーマは、さっきとは違う、しかし強い意志を持った瞳でを見ていた。


「今から、全部話すから」


リョーマはただそう一言口にして、リビングに再び戻っていった。





















「まず…俺がいた場所から話すよ?」
「ああ」


二人は向かい合わせになっているソファーに、それぞれ座っていた。
目の前のテーブルには、未だにガラスの小瓶に入ったままの小さなチップと、二つのコップに入った麦茶が置いてある。
リョーマはそれを一回だけ見つめて、話し始めた。


「俺がいたところは、やけに広い洋館だった。
 そこには、お面と黒服を身に纏った同じくらいの子供が三十人くらいいた。
 皆、孤児で…そして『星』を持ってた。
 大抵の奴が物心つく前からそこにいて…俺ももちろんその中の一人だった」
「政府がよくやるパターンだな。『星』を扱う資質がある孤児の子供だけを意図的に集めて、教育する。
 今じゃ、やってないらしいけど」


はコップを持ち上げ、麦茶を少し含んだ。
だが瞳はリョーマから逸らされていない。


「俺はそこで、最近まで育った。でもある日、今から二年前くらいだったけ……
 その中のリーダーが変わった。今までのどっかの偉そうなじーさんから、
 俺より少し上ぐらいの二人のヤツに変わったんだ。そいつらは、俺たちより後から来たくせに
 あっという間に俺たちの“組織”を作り変えていった。
 まず、俺たちを『星』の力や合わせてランク付けした。リーダー、幹部、その側近、そして下っ端…っていう具合にね」


リョーマはそこまで言うと、先ほどののように少しだけ麦茶を含むと、話を続ける。


「俺はその中の幹部のひとりの、パートナーをやってた。いろんなことを一緒にやらされたよ。暗殺に、盗み。数え切れないくらいにね」


リョーマは、自嘲めいた笑みを浮かべるとを見る。


「…これが、俺のいた場所のこと。最初にが言ってたみたいに、政府の“機関”だったけど、あとから変わっていったんだ」


その二人のリーダーによってね、とリョーマは付け加える。
は静かに聞きながら、リョーマを見ていた。
そしておもむろに口を開く。


「…で、リョーマが昨日倒れていた訳は?」


が聞くと、リョーマは黙ったままテーブルの上の小瓶に手を伸ばした。
それをとりコルクを抜くと、中のチップを取り出し、手のひらに載せる。
それは、まるで月が輝くようにキラキラと輝いていた。


「これが、俺がそこから脱走した“理由”。これが“組織”にあってはいけないんだ」


そう言ってリョーマはチップを再び小瓶に戻した。


―――否、戻そうとした。


「あ…!」


そのチップはまるでリョーマの手から逃げるように零れ落ちた。
チップはころりとの足元に転がる。
は咄嗟にそれを取ろうと手を伸ばした。


「ダメだ!!」


リョーマの制止の声が飛ぶがそれも遅い。
既にはそれを手にしていた。


「―――ッ!?」


チップを触った途端、のピアスが…正確には、との契約の媒介となっていたものが銀の光を放ち始めた。
その様子をリョーマは驚きに満ちた瞳で、半ば呆然として見つめる。
そしてチップは僅かに銀色の光を発してふわりと浮くと………の首筋の左側にその姿を消した。
その直後、燃えるような熱をは感じた。


「熱……っ!」


思わずはソファーに身を投げ出す。


!!」


それではっと我に返ったリョーマは、慌てての傍に行く。


「ぅ…く…ッ」


よほど熱が凄まじいのか、は呻き声をもらした。
額には汗が流れいて、手は熱に耐えようとしているかのようにソファーのカバーを掴んでいる。
リョーマはそれを傍で見ていた。
いや、見ることしかできないのだ。
熱が収まるまでは。


リョーマが“組織”から持ち出した、チップ。
それは、『月の涙』と呼ばれるもので。
宿った『星』には多大なチカラを与えるという特性を持っていた。
それゆえに、“組織”が幹部とリーダーしか知らない“計画”に必要不可欠なものであった。
それがどんな“計画”であるかは、リョーマは知らない。
だが、今まで以上によくないことに使われるのは理解していた。
だから、“組織”から逃げ出したのだ。
しかし、誤算は二つあった。


ひとつめが、がチップを拾ってしまい、しかもその『星』が『月の涙』と最も関係の深い『月』であったこと。


ふたつめは、その『月の涙』が『月』であるではなく、その主であるに宿ってしまったということだ。



「まさか、こんなことになるなんて…!」


リョーマがそう呟くころにはの身体を襲っていた熱は無くなっていたのか、は気を失っていた。
熱の中心地であったその首筋に手を伸ばし、触れてみるがそこからは熱は感じられない。
どうやら完全に『月の涙』は、と同化してしまったらしい。
そのことにリョーマは頭を抱えながら、を見た。
そのまま眠っているの顔には、痛みや苦しみといったことは感じられない。
そのことに安堵しつつも、に起きたらどう説明すればよいかと考え込みながら、リョーマはが目覚めるまで待つしかなかった。