リョーマは、ある気配を感じて咄嗟に飛び起きた。
だが、その気配はリョーマの良く知るものだった。


「…玉葉?」


リョーマの『星』である『陽』の玉葉が、呼んでもいないのにくるくると淡いオレンジ色の光を発しながらリョーマの周りを回る。
その玉葉の前方には、うっすらと銀色に輝くがいた。
は玉葉と同じようにリョーマの周りをくるくる回ると、キッチンの方へ行ってしまう。
玉葉がそれ追いかけようとしたが、リョーマに阻まれてそれはできなくなった。
仕方が無いように、玉葉はフッと消える。
そしてリョーマは、ぱたぱたと音のする方に顔を向けた。


「あ、リョーマおはよ」


行ってしまったの代わりに、手にサンドウィッチを持ったがリビングに入ってきた。
リョーマを見ると、ふわりと笑う。


「…おはよ。ところでさっきの『星』、の?」


に薦められるままサンドウィッチを取り、口に運びながらリョーマは聞く。
寝起きでさっきの『星』がよく見れなかったのだ。


「ああ、のこと?見て分かっただろうけど、『月』」
「!」


さらりとリョーマにとって重要なことを言われ、リョーマは思わずむせた。


「それっ…て…マジ?」


ごほごほと咳を繰り返して、リョーマはどうにか言葉を発した。
だがよほど苦しかったのか、途切れ途切れだ。


「嘘ついてもどうにもなんないだろ。それにリョーマは『陽』を持ってるみたいだし?隠しててもいつかバレるよ」


『月』を持っていたから玉葉が反応したのか…とリョーマは納得しながらゆっくりとドリンクを飲み干す。
そして、真剣な瞳でを見ながら口を開いた。


「ならもしかして…昨日、変なチップを拾った?」


は少し考えて…自分のポケットを探った。


「それって、これのことだよな?」


しばらくしてポケットから出てきたのは、ガラスの小瓶に入った小さな小さなチップ。
それは紛れも無く、リョーマの言っていたものだ。


「…やっぱり、か」


リョーマは半ば諦めた様子でぽつりを呟いた。
その様子は、昨日と同じで。
どこか陰のあるリョーマの表情に、はなんだか悪いことをした気になってきた。


「拾ったら、悪かったか?昨日の奴らがなんか、必死で探してたみたいだけど」


小瓶の中でカラカラと音を立てるチップを見つめながら、は言う。
リョーマは何か深く考え込んでいるようだった。
そして。


「…それ、返して」


暗い瞳をして、リョーマは手をの方に伸ばした。
はそんなリョーマをじっと見ている。


「…俺が返したら、リョーマはどうする気?」
「ここからできるだけ遠くに行く。これは、俺一人の問題だから」


あの時と同じ、冷たい瞳。
だがもここで引き下がるわけにはいかなかった。


「…リョーマ。これは“一人”の問題じゃない。俺たち“二人”の問題だ。俺はこれを拾って、リョーマに会った。
 リョーマのことはまだ何にも知らないけど、俺は昨日確かに言ったはずだよな?」



『俺は、リョーマを信じてる』



もちろん、リョーマは覚えていた。
初めて言われた言葉なのだから、忘れるはずが無い。
だから、は巻き込みたくなかったのだ。
自分と同じには、なってほしくないから…。


「なんで…?」


半ば呆然として、リョーマは呟いた。



ここまで突き放せば、いいと思った。



自分と関わってはが壊れてしまうから。



全てを失くしてしまうから。




だからリョーマは、



自分は他人と関わってはいけないと、線を引いてきた。



ひたすら、自分の感情を殺してきた。



なのに―――



「なんで…?なんでは俺のココロにこんなに入ってくんの?俺はみたいに、綺麗じゃない…っ!」


気がつけばリョーマは、涙をまた流しながらを睨んでいた。
はただ優しく微笑んで、リョーマを見ている。
その姿は、闇を照らす“月”をリョーマに連想させた。
そして、力強く抱きしめられた。


「俺は…綺麗じゃないよ。最初から綺麗な人なんて、多分いない。俺はいろんな人と出会って、話をして、それで綺麗になっていくんだと思う。たとえ、それがマイナスになってもそれにも意味があるんだろうし」


が話しているのを聞きながら、リョーマはもう一つの音を聞いていた。



今まで聞く事のなかった、他人の心臓の音。



それは妙に安心する音で。



になら、アノコトもアノ場所のことも話せる気がした。



「このチップとリョーマが何に関係するのか知らないけど、俺はリョーマのこと、きちんと見てる。だから、そんな自分を否定する目をするな。“居場所”ならここにあるだろ?」


その言葉に、リョーマはゆっくりと顔を上げる。


「俺…ここにいてもいいわけ……?色々、迷惑かけると思うんだけど」
「『月』の主なんだから、そこら辺勘違いするなよ?俺一人で今まで“何でも屋”やってたんだしな」


経験と腕には自信がある、と元気良く笑うに、リョーマはどこかほっとした。



一人じゃない。



そんな些細なことが、リョーマにとって嬉しかった。


今まで非日常で生きてきたリョーマが手に入れた、非日常の中の日常。


その中心のは月のように、けれどもその輝きはリョーマにとって強く見えた。