は闇色の髪をなびかせながら、夜の街を走っていた。
右手には、小さな透明なチップがある。
そしてその背後には、黒服を着た妙な奴らが追ってきている。
―――事の始まりは、数分前のことだった。
何でも屋『Shine Night』をしているの今日の依頼は、ある取引をテープに記録することであった。
それも無事に終わり依頼主にテープを渡した後、はのんびり帰っていたのだが、
その途中に妙なチップを拾ってしまい、そのような奴らに追いかけられるはめになってしまったのだ。
それも、かなりしつこい。
「―――“白霧”!」
その言葉と共にの左にある銀のピアスがきらりと光り、辺りに霧が発生した。
『星』と契約した者だけが使える技だ。
といってもの『星』は、世間一般で言うただの『星』ではなく、
扱える者が殆どいないという『陽』と『月』のうちの『月』である。
名を、という。
所詮、一般人である奴らにはには敵わない。
はその霧を利用し、奴らを見事に撒いた。
自宅近くの小道に身を隠し、少し乱れた息を整える。
コツン、との靴に何かが当たった。
そのまま足元を見れば。
「なんでこんなとこに人がいるんだよ………?」
血で服を紅く染めた黒髪の少年が倒れていた。
先ほど、靴に当たったモノだ。
は咄嗟にしゃがみこみ、少年の口元に手を当てた。
息はあるようだ。しかし、顔色が悪い。
血を流しすぎたせいだろうか。
「…そんなに外傷は無いみたいだな………けどさすがに放っておけない、か」
は苦笑し、少年を背負った。
「ちょっと、マジできついな」
想像していたより、少年は重かった。
あともう少しで家だというのに、は力尽きる。
あの追いかけっこの後に、少年を運ぶということは少し酷なことだったようだ。
ちょうど目に付いた近所の公園に入り、少年の傷に響かないようにそっとベンチに置く。
「座れない……」
が、置いたあとで、少年がベンチを占領して自分が座れないことには気づいた。
かといって、自分が少年の代わりに座るのも気が引ける。
何しろ相手は、怪我人だ。
は潔く、少年にベンチを譲った。
自分はそうして、ベンチの前で背伸びをする。
今宵は満月。
『星』が『月』であるにとってその光はとても心地が良いものである。
それに乗じて、気分良かった。
そうして背伸びをし終わったは少年の顔を覗き込む。
少年には失礼だがは、観察するように少年の顔を見つめていた。
(真夜中にこんな血だらけで倒れてるってことは、十中八九訳ありだな……)
つい捨て猫のような感じで拾ってしまったが、
これからどうしようかとが考え始めたころ、少年の瞼がゆっくりと開いた。
「気がついたか?」
は、少年の顔を再度覗き込んだ。
少し長めの黒髪が、少年の頬に流れ落ちる。
「…?」
少年は、まだ焦点の合ってない黒い瞳でを見つめた。
はそんな少年に、にこりと笑いかけた。
少年の瞳が、の瞳と交差する。
そして次の瞬間、少年の身体が素早く動き、は地面に押し倒される体勢になってしまった。
喉元には、銀色に輝くナイフが押し当てられている。
ここで少年を刺激したらいけない、とは職業柄、瞬時に判断した。
「…アンタ、誰?」
少年はをしばらく見つめた後、に向かってそう言った。
どうやら、敵ではないと認識したらしい。
だが依然、警戒の色は消えていない。
「その前に、退いてくれないか?」
は苦笑しながら答えると、少年は視線をに合わせたまま、退いた。
土を払って、は少年の前に立つ。
「俺は、。“何でも屋”をやってる。君は?」
「…リョーマ」
リョーマと名乗った少年は、そう言って茂みにナイフを投げた。
その茂みから、ぐあっという声がする。
どうやらしぶとく尾行してきたさっきの奴ららしい。
「ここまで運んでもらったことには、礼を言うよ、ありがと。それじゃ、また」
すぐにどこかに行こうとするリョーマの腕を、は掴んだ。
リョーマの瞳が、を睨む。
「そんな傷で、どこに行くんだ?事情はよく分からないんだけど、放ってもおけないんだ。
ましてや、さっきみたいに追っ手がいるのに怪我してる君みたいな人は特に」
は真剣にリョーマを見つめた。
リョーマも、の真意を計ろうとするかのように、見つめ返してくる。
静寂が、二人を包んだ。
「…アンタ、本気?」
「勿論」
即答したにリョーマは、面食らった。
だが、面白そうににやりと笑う。
それを肯定と受け取ったは、リョーマの腕を引いた。
「それじゃ、付いてきなよ。まずは怪我の手当てをしないと」
手を引かれながら、の家に向かう二人。
さながらその様子は仲の良い兄弟だ。
ただし、リョーマが血に塗れてなければだが。
「アンタ、お節介ってよく言われない?」
「さーな。そういうお前こそ、生意気ってよく言われるだろ」
互いの根本的な部分を言い当てる二人。
この訳アリの少年の様子に、はくすりと笑いを漏らした。
そしてこれが、二人にとっての幕開けだった。