なんでや、と思った。
なんで話してくれんかったんかと、そう思った。
それが一番悲しくて、俺はそんなに頼れんかったんかと思った。
それでさんが帰ってくるまで、頭ン中ぐるぐるで。
跡部もそれは同じなんか、さんが帰ってくる日まで俺らはぼーっとしとった。
考えても考えても悪い方向ばっかにいってしまう。



ほんまに、さんは俺のこと好きなんやろか

























――――そんな考えは、覆された。
さんはさんなりに悩んどった。
それが表に見えんかっただけで、内ではすごく俺らのこと考えとってくれとった。
その言うてくれた、本音が嬉しかった。
ちゃんと俺らが好きやて、分かった。



さんは、それやから怖かったんやろう?



俺と同じやった。
怖いくらい好きになりすぎて、不安で。
でもそれを押し込めて。
俺らに、笑顔を向けてくれとった。


せやけど、さんのイギリス行きは変わらん。


こればっかりは変えようがないって、さんも、跡部も言うた。
跡部は割りきっとるんやろうか。
さんのこと、そう簡単に諦められるやろうか。
そう思うて隣を見たら、跡部はたださんを見とった。

じっと、逸らさずに。

さんの泣いとる顔も、笑っとる顔も、見とった。
怒ってるから、見とるんやない。
ただ、見とった。
でもテーブルの下の拳は震えとった。


―――ああ、

跡部もつらいんやな。


そう、思った。
せやけど、プライドの高い跡部やからそんなの見せられんのんやろう。
引き止めたいのに、跡部はそれを言わん。


さんのためだから。

さんが望んだことだから。

反対せずに、送り出そうとするんや。

それはさんが………………好きやから。

好きやから、できる、コト。


――――なら、俺も反対できへん。

本当なら反対したい。
せやけど子供の俺は………跡部と同じで、見せたくないから。
送り、出す。
精一杯、俺たちは背伸びをしとるんや。
さんに釣り合う男でいたいから、頑張って。
せやからそれは認めてほしい。
まあ、それはさんのことやから―――分かっとるやろ?


それでも俺がさんが好きやということは譲れへん。


さんが帰ってくるのが三年後でも、十年先でも。
俺はずっとさんが好きや。
さん以上に好きな人なんて、できるわけない。
さんだけでええ。
こんなに切なくて、苦くて、でも幸せな恋は、一度でええ。
どんなにさんが未来のことを憂えても、それは変わらん。
変わりたく―――ない。
だから………だから。
そんな表情で言わんとって。
忘れてええなんて、悲しすぎる。
さん、自分では顔に出してないつもりなんやろうけど……バレバレや。
悲しそうな顔、しとるで。
そんな顔、見せられたら俺………イギリスになんて行かせたくないて言ってしまいそうになるやんか。

そんな俺の気持ちが届いたみたいに、さんはもう一つ約束を取り付けた。
約束の期日は三年後の、俺と跡部の―――……の日。
場所は―――…………。

それだけを言って、さんはリビングを出て行った。
俺と跡部も、互いに何も言わず玄関に向かう。
考えることは一緒、って言うんかな、こーゆーの。
俺らは玄関を出て、顔を見合わせた。


「これから、どこ行くんや」
「……家のパーティーに呼ばれてる。それに顔を出すつもりだ」


跡部の表情はよく分からない。
でも、その行動は跡部らしいと思うた。


「お前は?」


今度は、跡部に聞かれた。
せやけど俺の予定は特に無い。
強いて言うなら―――………


「岳人とかと騒ごうかな、って思うとるよ」
「はッ、お前らしいぜ」


いつもの軽口。
それを交わして俺らは、それぞれマンションを後にする。
それぞれ、やることは違うけど………きっと考えることは一緒。





ただ、愛する人のことだけを考える




























さんが、出国する日。
俺は氷帝の屋上におった。
なんか知らんけど、跡部もおる。
―――まあ早い話、俺らは見送りに行かんかった。
岳人とか滝とか、宍戸とか、そこらへんは空港に行ったみたいやけど俺らは行けんかった。
約束が、あったから。
それに………別れ際なんて、俺が何言うか分からん。
結局のところ、俺はまだ所詮子供で。
納得のいかんところなんか、たくさんありすぎる。
俺はまだ、そんなに物分りがよくないんや。
跡部はどうか、知らんけど。
多分、この部分は思うところ一緒やろうと思う。




――――約束があるから、また会えるってとこ。




せやから別れなんていらない。
また会えるんやから、いい。
三年後も俺はさんが好きなんやから。


「あ、あれやない?さんが乗っとる飛行機」
「バーカ。あれは違うだろ。方向からして正反対じゃねぇか」
「跡部は細かいなぁ」





















好きの気持ちをたくさん貯めて。


貴方に会います。


そのときこそ、俺を――――見てください。



















(俺は、きっと大人になってるから)