終業式が終わって、生徒に質問攻めにされて、教職員の一足早い忘年会&俺を送る会に出て。
そんなことばかりしていたから、景吾と侑士には終業式以来、一度も会ってない。
いや、会わなかった。
まだ怖かったんだ、俺は。
でも時間は待ってくれない。
俺が迷っている間に、出国は明日に迫っていた。
「ただいま」
久しぶりに、帰ってきた。
正直、玄関を開けるのは戸惑った。
なぜなら絶対――――景吾と侑士がその開けた先にいる。
そう、確信してしまっていたから。
現に今、俺の前には仁王立ちする二人がいる。
「遅かったな」
「ん……色々、挨拶回りとかがあったからな」
「知っとるよ。せやけど今日は………俺らに付きおうてくれるんやろ?」
「―――ああ」
出迎えてくれた二人は、穏やかな顔つきだった。
でも心中は穏やかじゃないんだろう。
俺も………覚悟をしないといけない。
これは俺が選んだ選択肢だから。
二人が先行する形で、俺はそれぞれテーブルについた。
席順はいつも通り。
俺の前に、景吾と侑士がそれぞれ座る。
「………いつからなんや?その、イギリス行きが決まったんは」
始めに口を開いたのは侑士だった。
その口調はとても静か。
でも俺には侑士が激情を抑えているのがわかる。
それはもちろん、景吾も一緒だ。
「文化祭の、ちょっと前。申請は五月あたりからしてた。色々合って選考が遅れて………俺に決まった」
俺の口調も自分でびっくりするくらい、静かで落ち着いている。
内心は、慌てているくせに。
俺は心の中で自分を笑った。
「そんなことはどうでもいい。もう、過去のことだ。イギリス行きはもう決定してる。変えようがないんだろう、?」
「景吾の言う通りだよ。……変えられない。そして俺もそれを望まない」
さすが、景吾。
俺の核心を突こうとしてくる。
でも本当に聞きたいことはそれじゃないだろう?
聞くなら聞け。
俺もそれを……望んでるから。
「俺が聞きたいことは唯一つだ。そしてそれは忍足、お前も同じことだろう?大事なのはそこだ。過程じゃねぇ」
「……せや、な。そこが一番大事なとこや」
景吾と侑士の、眼差しが俺を射抜く。
二人の視線は強すぎて、俺が思っていること全部見透かされそうだ。
そんなことは、無いと分かっているのにそう錯覚しそうになる。
「なんで、黙っとったん?」
「なんで、黙ってた?」
………言えない。
言えるわけ、無い。
でも、言わないといけない。
そうじゃないと俺はけじめがつかない。
心の整理がつかない。
俺は一拍置くと、二人を見据えた。
真剣な目。
そうだ。
二人はいつも、俺を真っ直ぐ見てきた。
だから俺も―――真っ直ぐ見ないといけない。
逸らしたら、駄目だ。
自分に負ける。
「――――怖かった」
一回、口にすれば後は簡単で。
ぽろぽろと、俺の本音が零れる。
ずっと、思っていたこと。
全部が、流れ出す。
「二人の気持ちで、やっぱり気分もよかった。でも、同時にどちらかを選ばないといけないと思った」
「それなのに、俺は選べなかった。心が一人じゃ満足できなくて、二人でようやく満足した」
「男だとか教師だとか年齢が離れてるとか子供とか―――迷った日もあった」
「二人に同時に惚れてるって気づいたときは、答えれないと思った。なのにお前らが………全力でぶつかってくるから」
ほだされた。
めちゃくちゃ好きになった。
どうしようもないくらいに膨れ上がる。
ほっといたら爆発しそうだった。
「俺はさ、………自分勝手なんだよ。お前らを振り回して、そんな素振りを見せないで、期待を持たせて、不安にさせて」
「お前らに甘えてる。溺れてる。………そんな自分が俺は嫌いだ」
「なにもかもが中途半端なんだよ、俺の中では。どちらかなんて、選べない」
「曖昧でいたくて、足掻いて。…………でも嫌われたくなくて。嫌なことを伸ばし伸ばしに、してた」
「だから、黙っててごめん。不安にさせたな。なにより俺が一番―――」
「――――このままでいられないって、俺が痛いほど分かってたのに、」
俺は泣きながら、喋っていた。
もう次から次へと溢れて俺自身さえもコントロールできない。
涙で滲むから、景吾と侑士も見えない。
「わ、るい。支離、滅裂だよな…………」
俺は笑った。
心の底から笑えた。
ずっと、溜まっていたものを吐き出せたから。
涙も、もうすぐ止まるだろう。
「、さん…………」
「…………………」
景吾と侑士が俺を呼ぶ。
俺はその声で、はっと我に返った。
そうだ。
まだ、俺は言わなきゃいけないことがある。
「……俺はこの先、三年は帰れない。だからこの先、お前らが俺を忘れてもいいと思う」
「そんなこと………できるわけないやん」
「俺たちは………が好きなんだぜ」
ああ、分かってるよ。
それはよく、分かってる。
「気持ちだって変わる。離れている間に、俺よりもっと好きな人が現れるかもしれない。………そんときは俺を忘れろ」
「「嫌だ」」
頑固だ。
でも、未来は誰にも分からないんだ。
お前らがこの先、俺を好きだということは分からない。
もちろん、俺がお前らを好きだとは限らない。
時間の流れは怖いんだ。
それと、気持ちの変わり様も。
「………だから、約束しよう。さっきのことを」
「嫌だって言ってるだろ」
「俺らはさんしかおらへん」
さっきからそれの一点張りに、俺は苦笑した。
嬉しい。
とにかく嬉しいけれども、そうはいかないんだ。
「………もう一つ、約束な。もし三年後、俺のことをまだ好きだったら――――」
――――…………で、会おう。
そうして、俺たちはリビングを後にした。
俺は自分の部屋へ。
景吾と侑士はそれぞれ、外へ行ってしまった。
そうだ、それでいい。
思いっきり悩んで、答えを出せばいい。
タイムリミットは、まだ先だから
これでいい
これで、いいんだ
見送りはいらない
約束があればそれで十分
そして俺は晴れやかな気持ちで、日本を経った
また、会う日まで。