文化祭二日目。
一般公開される今日は人が多く、模擬店は大盛況だ。
もちろん、いい男が勢揃いのここも人がわんさかいる。
俺はそんな中で騒がしさとは無縁に、ソファにいた。
ここが俺の指定席。
ちなみに滝くんが演出だかなんだかいって、俺の周りには演劇部の女生徒がいる。
俺はかっこよく見えるように、ワイン(の、ように見えるジュース)を飲まなければいけないという役割だ。
加えて、たまにホストに指導するオーナー(の、ふり)をやっている。

俺もつくづく付き合いがいいよな…………。

ぐいっとワイングラスを傾けて俺は辺りを見回した。
あれ……?
なんか、違和感が…………。


「……跡部と忍足はどうした?」


いつものように“くん”と付けたいところだが、今の俺は“オーナー”。
だから俺はオーナーとして、彼女たちに聞いた。


「跡部くんと忍足くんなら、確かそろそろミス&ミスターコンテストがあるはずですから受付に行ってるんじゃありません?」


まだあったのか、あのコンテスト………。
確か俺が学生のときは三年連続で恭介が優勝してたっけ。
まあ、今ホストやってんだから当然か。


「でもあれは確か各部につき一人ずつじゃなかったか?跡部が出るとして……忍足はどうした」
「忍足くんは確か……女子バレー部だっけ?」
「ううん、写真部よ」
「えー、あたしは女子テニス部だって聞いたわよ」
「とにかく忍足は他の部に引っ張られたんだな」


諸説がいろいろとあるみたいだが、コンテストに出ることは変わりない。
にしても今回のコンテスト……面白くないな。
跡部と忍足の一騎討ちじゃないか。
予想がつく。
この場合は、さ………


「ダークホースが欲しいところだな…………」


そう、誰も予想できない人物が出て皆の予想をひっくり返せばいい。
あいつらもどうせ自分の勝ちを予想しているみたいだし?


「その通りですッ、先生!!!」


俺の呟きに誰かが反応した。
この声は………演劇部部長の深沢エレナだ。
そう思いながら顔を上げると、案の定仁王立ちした深沢がそこにいた。
ついでに、黒いドレスを完璧に着こなして。
俺をびしっと指差している。


「私たち演劇部にとっても面白くありません!ですから先生にはダークホースになっていただきます」
「………は?いや、お前ら文化祭の劇の王子役を使えよ」
「あんなヘタレ王子なんか使えません。ですから先生にお願いしてるんです」


ヘタレ王子って………三井が泣くぞ。
あいつだって対人恐怖症なのに一生懸命劇に出たんだから………。
それに。


「教師が参加しちゃいけないだろ?」
「残念ながら先生、そんなことひとっことも書かれてませんよ。だから安心してください」


いざ鎌倉です、先生!

意味不明なことを言いながら、深沢は俺の手を取る。
演劇部の女子もうんうんと頷き、カウンター向こうの滝くんは思いっきりグッと親指でグッジョブと。



………………俺は溜息をつきながら、深沢をエスコートすることに専念することにした。


























「「先生!?」」


会場に着いた途端、その場にいた跡部と忍足が声を上げた。
それには笑って答える。
ただし――――“オーナー”の笑みで。
会場の雰囲気も予想だにしなかった人物の登場でざわつく。
そんな中、と深沢だけが動揺せずにいた。
は自然に深沢をエスコートし、深沢はそれを微笑んで受ける。
まさに、ホストと上客。
その一枚の絵のような二人に、会場からは感嘆の笑みが零れた。


――――このときぐらいはホストのイロハを教えてくれた恭介に感謝だな。


脳内で今まで明日にも使えない無駄知識として蓄積していたそれを引き出しつつ、は思った。

今度からはまじめにあいつの話を聞いてやらないと。

はそうしみじみと思うのであった。
同時刻、恭介がくしゃみをしたのはそのせいであろう。



………とまあ、ダークホースの登場で会場は大混乱。



最終選考には案の定、跡部景吾と忍足侑士、それにが残っていた。
教師がコンテストに参加したのも前代未聞だが、最終選考にまで残ったのも前代未聞だ。
会場の皆は色めきだって見ていた。


「跡部様頑張って〜」
「忍足くんも頑張ってー」
先生、絶対優勝してくださいッ!!」


女子の声援も素晴らしい。
特にの声援は何やら演劇部が異常に盛り上がっているようだが………。
はそれににっこりと笑いながら、答える。
半ば、もうヤケだった。


俺は今、オーナー、オーナー…………教師じゃないからこんな恥ずかしいことも許される………ッ!!


自分に暗示をかけながら、は最終選考に望む。
最終選考は、『審査員の方々を口説くこと』。
こっちでは女性の保護者や先生方が審査員。
は再び、“オーナー”になりきった。
女性の手を取り、軽く口付けるとは微笑む。
それはもう、蕩けるような笑みで。
跡部や忍足でさえも見たことも無いその笑みに、二人は釘付けだった。


「失礼。瀬戸口先生…………今日も貴方はお美しいですね。溜息が出ます」
「まあ、先生…………お上手ですね」


頬を染めながら言う、同僚教師瀬戸口。
彼女はぽーっとを見ていた。
はそんな彼女に追い討ちをかけるように、より彼女に接近する。


「今まで気づけなかった自分に腹が立ちます……………赦してくれますか?」


トドメに彼女の耳元では囁く。
最後の方は掠れた吐息のようなものになっていて、もう瀬戸口はへなへなだった。
彼女のその様子に、跡部と忍足は視線を交わす。


(なんや、さん!?あんなんできたんか!?!?)
(俺が知るかよ。でも、確かに言えるのは…………)


((あんな表情と声、俺たち見たことない…………!!!))


(しかもめっちゃえろいで、あの顔は!)
(あれは完全に男の顔だぞ………)
(一体何やねん、さんは!!)
のヤツ………まだこんな表情隠してたなんてな)


二人は悶々としつつ、確かにアイコンタクトを取った。
その間ものアピールは続いていて。
聞いている跡部と忍足まで顔が赤くなりそうだった。

おかげで、勝負はあっけなく決まり。


『それでは優勝は先生です!記念撮影をしますので先生、こちらにどうぞー』


委員に連れてこられた先にはドドンと構えられた大きな紅い椅子。
そこに強制的に座らされたは、仕方なく足と手を組んだ。
その周りを、跡部と忍足が固めると。
周りから更に溜息が漏れる。


そりゃそうだろうな………俺たち、傍から見ればマジでホスト。
いや、そう演出してるけど。
マジで本業さんだろう、これは。


内心呟きつつも外の顔はいたって“オーナー”。
携帯のカメラ、手持ちのカメラのシャッター音が五月蝿い中、は頑張っていた。
そんなにひそひそと話しかける、跡部と忍足。


「マジで意外だったで、さん。そんな表情もできるんやなー……感心してもうたで」
「俺を侮るなよ。やるときゃやる」
「今回は素直に負けを認めてやるよ。だから…………………」





「これぐらいは許せ」
「これぐらいは許してや」





両頬に、何かが押し当てられる感触。
予想だにもしないそれに、は“オーナー”の顔が一瞬できなかった。
同時に更なる嬌声があがる。
フラッシュも更にたかれる。


今更ながらに、は後悔した。


















――――終了後、は夜が怖い…………と、震えていたとかなんとか。