えー……文化祭です。
俺、弄られてます。
なんでこんな目に……………。
事の発端は、滝くんだ。
なにやらドリンクの方でトラブル発生したとか言い出して。
俺は慌てて、救急箱(胃薬入り)を持って駆けつけた。
ドリンクがドリンクだし、模擬店で食中毒みたいのが発生したら問題だ。
だから俺は指定された教室に駆け込んだ。
そしたら。
「いらっしゃいませ、先生〜」
演劇部、女子一同。
手に職をつけて俺を待ち構えていました。
そして手際よく俺に集ってくる。
もう何がなにやらさっぱりで。
女子の向こうに滝くんを見つけ、俺は叫んだ。
ああ、叫んださ。
叫ばずには居られないからな。
「滝くん、どういうことだ!?」
「どうもこうも……見ての通りですよ」
そう、今俺は女子に髪を弄られスーツを変えられネクタイを取られている。
極めつけは。
「ちょ、ちょっと待て!!下は脱がすな!!」
「なら自分で着て下さいねv」
カーテンで仕切られた場所に押し込まれる。
俺は仕方なく、それを履いた。
…………これって。
「できましたか?」
ひょこ、と顔を出したのは滝くん。
そして俺の準備が整ったことを確認して、彼はカーテンを取り去った。
途端に上がる、女子の満足した溜息。
「お前ら……これがしたかったのか?」
「「「はい!」」」
異口同音で、答えが返ってくる。
今の俺の格好は―――言うならば、ホスト。
恭介は大体ネクタイだけれども、たまにはネクタイ無し。
そんな感じで俺も今はネクタイが無い。
シャツもかなり着崩されてる。
髪もなんか弄られてるぞ、かなり………。
ワックス、使用されたしな。
「ありがと」
「ううん、ぜっんっぜん構わないわ!あとは約束通りにしてくれれば……」
「うん、それは全然OK。むしろその方が盛り上がるでしょ?」
「っっっ!!ありがとー、滝くん!!それじゃ、先生頑張ってくださーい!!」
きゃー、とか言いながら走り去っていく女子たち。
え、ちょっと待てとか言う隙なんかまったくなし。
怒涛の勢いだった。
「じゃ、先生も行きましょうか」
「どこ行くんだ、一体」
「いやだなぁ、勿論ホスト喫茶ですよ。何のためにそんな格好したと思うんですか」
と、いうことはあれか?
俺に接待でもさせる気なのか?
いや、これは生徒主体の文化祭であって………!
あれやこれやと滝くんに引っ張られ、俺は裏方の調理室へと引きずりこまれる。
あー……裏方のやつらもしっかり着替えてんだな。
滝くんもバーテンダーみたいな感じだし。
さすが、というべきか………よくやるなぁ。
「はい、オーナー連れてきました〜」
滝くんに前面に押し出され、そう紹介される。
裏方のやつらからは歓声が上がった。
………オーナーって、何。
聞いてないぞ、そんなサプライズ企画。
「やっぱり、うちの部活の売り上げアップには忍足と跡部は欠かせないんですよ」
「そう、なんだろうな……………それは分かるぞ。でもそれと俺が巻き込まれるなんて関係が、」
「ないわけじゃないんですよ。あの二人、気分屋でしょう?校内のどこかで先生見つけたら店放って追いかけていきそうです」
――――否定はできない。
確かにあいつらは普段でも俺の姿を見つけるといつの間にか隣に居るんだ。
行動が早いというか、周りが見えていないというか。
つまり………俺は二人を店に留めて置く役目、ってわけだ。
そんなことで俺はここに引き止められるわけか………!
その説明で全てを悟った俺に滝くんは笑いかける。
「まあ、先生の予定なんか関係無しに連れて来ちゃったわけですから。待遇は保証します」
「俺は何にもしないぞ」
「いいですよ。表に座って見てるだけでいいです。ああ、たまにオーナーらしく発言してくれると助かります」
「それは構わないが………よく考えればオーナーって、榊先生が妥当じゃないか?」
あの容姿だし、ばっちりだ。
俺より貫禄あるから適役だと思う。
「榊先生からは『先生で行ってよし』と、云われました。それに先生は音楽の方で色々忙しいらしくて」
〜〜〜〜っ!
榊先生………それは遠まわしに俺に押し付けたって事ですかッ!
いや、確かに榊先生には学生時代から御世話になっているし、文化祭では音楽教師だから大変だというのは分かっているけれどもッッ!!
せめて、俺に一言伝えてください…………。
「…………そうか。じゃ、俺は表で座ってるから」
「あ、ソファあるんでそこに座ってていいですよー」
ソファまで持ち込んだのか。
この間まで無かったから……部室のを持ってきたんだな。
よくやるよ、ホント。
半ば呆れながら俺はドアを開ける。
「邪魔するぞー」
準備で慌てる生徒の間をすり抜け、俺はとりあえず我が物顔で通った。
オーナーなんだ、これくらいのことは許せ。
………まあ、半分八つ当たり。
今日はのんびりしようと思ってたんだからな…………。
「あれー?先生だC−。どーしたの?」
「まあ、ちょっとな。色々あって今日明日、こっちにいることになったんだ」
「ふーん………じゃ、先生いるから俺、頑張る!」
「おぅ、頑張れ」
ソファで先に眠っていた芥川くんの隣に腰掛け、ふわふわの芥川くんの頭を撫でる。
そのせいで起きてしまったけれども、芥川くんは特に咎めることなく俺にじゃれてくる。
平和な時間。
けれどもまあ……俺たちは案の定、店で目立ってた。
そりゃそうだ。
教師の俺がこんなところに紛れ込んでいるんだ。
だから、俺が二人に気づかれるのも時間の問題――――
「「先生っ!?!?」
というか、もう見つかった。
………相変わらず、目敏いやつらだ。
「なんでこんなとこおるん!?」
「その前になんだその格好!!」
「俺が居たら悪いか、忍足くん?」
「いや、むっちゃ嬉しいんやけど!!」
「なら黙ってろ」
にっこり、と笑って俺はまず侑士の質問に答えた。
侑士はまだドギマギしていたけれども、俺の言葉にあっさりと従う。
うん、素直だ。
「で、俺のこの格好だが。俺はここのオーナーって言う役を不本意ながらもらってしまった」
「!?俺はを店に出さねぇぞ」
「ああ、出すな。俺はいるだけが仕事だからな。…その前に跡部くん?俺は曲がりなりにも“教師”なんですが?」
「…………っ、失礼しました。先生」
詰め寄る二人は意外にも素直に応じた。
なんか、別人みたいで怖い。
こいつら、何か結託して企んでるんじゃないだろうかと勘ぐりそうになる。
「あはは、先生、ホントのオーナーみたい」
確かにこの構図はそう見えなくも無い。
偉そうに俺はソファに座っているし(踏ん反り返っているともいう)、景吾と侑士は正面でどことなくしょんぼりしている。
…………恭介から、似たような状況のことも聞いたことがあるし。
「ま、とにかく頑張れよ、二人とも。ここから見といてやるから」
俺のこの言葉に、二人は強く頷いた。
実は景吾と侑士って―――――単純?
まあともかく、氷帝学園中等部男子硬式テニス部『ホスト喫茶』オープンです。