「文化祭の出し物?テニス部も何かするのか?」
「うん。ホスト喫茶」
ごふっ!
思わず俺は飲んでいたコーヒーを気道に流すとこだった。
咳をして呼吸を整えながら、相変わらず爽やかな滝くんを見る。
聞き間違えじゃなければ、にっこり爆弾を落とさなかったか?
「い、今なんて言ったんだ…?」
「ホスト喫茶やりますって言ったんですよ、先生。ホストは言わずもがなレギュラー陣。
もちろん、三年も込みです。というか、三年が入らないと成り立ちませんよ」
ホスト喫茶………中学生が普通、やるか?
確かに景吾とか侑士とかを代表に、レギュラー陣は顔がめちゃくちゃいいけど。
普通に喫茶店やれよ。
なんでそんなホスト………………。
「既に榊先生から許可も取ってあります」
榊先生も一枚噛んでるのか?
確かにホストの筆頭にような人だからな、うん。
学園でも権力者だしな……榊先生は。
これは職員会議でも問題になりそうに無い。
榊先生が(言葉で)捻じ伏せてそうだ。
「――――で、それと俺にどういう関係が?」
「前回の協力の件、あれの報酬でいいです。技術指導してください」
「技術指導?」
技術指導って………俺に何をさせる気だ?
ホストのイロハでも習うのか?
ならそれは榊先生の専門だろう。
俺ができるのは、料理ぐらいだ。
「まあ、その通りです。料理指導してください」
「……滝くん、心を読まないでくれ」
「嫌だなぁ、先生の考えてることぐらい分かりますよ」
嫌なのはこっちだ、と言いたいのを堪え俺はそれに了承した。
なんたって、前回のツケがある。
協力しないなんて、裏切る真似ができるはずもない。
それに―――滝くんには色々と御世話になっている。
ほんと、色々と。
「指導してもらうのは、日吉と僕だけでいいです。他の部員には僕たちが指導しますから。
あとは当日、裏で見守ってくれると士気が上がります」
「……?お前も裏方なのか?日吉くんならまだ分かるが」
日吉くんは根はいい子なんだが、少し無愛想。
接客向きではないことは確かだ。
滝くんは―――俺的意見だが、いけると思う。
巧みな話術に、柔らかい印象を受ける姿勢。
それなのにわざわざ裏方?
「僕も色々あるんですよ。この件に関しては、跡部より僕の方に権力がありますから、手綱は握って置かないと」
あ、つまり裏にいる俺に景吾や侑士が近づかないよう牽制しているわけか。
なるほど、さすが滝くん。
かなりの策略家だな。
「そのことなら俺もさり気なく言っておく」
「お願いします」
滝くんはまた笑みを浮かべて、英語準備室をあとにした。
早速、放課後に料理の指導をするらしい。
まあ材料はあっち持ちだし、大丈夫だ。
簡単なレシピでも書いておいてやろうと、俺はペンを取る。
書きながら考えることは、ホスト喫茶のこと。
あいつらなら素でやってそうで怖いな。
むしろ、本業なんじゃないのか?
ホスト喫茶だからあいつらはきちんと、スーツ着用なんだろう。
それで街を歩いてみろ。
本業の方からスカウトが来るぞ。
なんたって、未成年のくせに余裕で酒を買うやつらだからな。
しかも教師(=俺)のの目の前で。
肝が据わってる、というか無鉄砲というか、確信犯というか………。
あ、全部当てはまるじゃないか。
「とにかく一筋縄じゃいかないやつらめ……………」
文化祭当日、また騒動が起こりそうだなと思いつつ、俺は机に顔を伏せた。
先が思いやられる………………。
「えー…まず、卵を黄身と白身に分けるわけだが―――日吉くん、力入れすぎだ。混ざってるぞ。
滝くんはきちんと殻を取り除いておけよ」
料理、したことがあるんだろうかってぐらいやばい。
卵を割る段階でどうしようもならない。
指導する側がこれでどうするんだよ!
「それは練習しとけ。次ー、泡立て器の使い方な。これは自動だから飛ばないように気を付け―――」
ばしゃっ! ガガガガ………
何かが飛び散る音。
泡立て器が耐熱容器にぶつかりまくる音。
――――ここは戦場ですか。
「お前ら、キングオブ不器用だな…………やっぱり、お前ら表だ表」
「作ってみたかったのになぁ……ロシアンルーレットみたいなケーキ」
「……下克上だ」
チャレンジ精神旺盛なのはいい。
けれどもな……動機が不純だろう、滝くんや。
日吉くんもな、世の中気合だけでやってけないこともあるんだぜ?
俺は心の中で涙しつつ、裏で働く部員をリストアップしようと心に決めていた。
こんなんでやっていけるのか、氷帝学園中等部男子硬式テニス部。
そしてちゃんとやっていけるのか、ホスト喫茶。
とにかく、前途多難な文化祭までもう少し。
―――余談だが、滝くんと日吉くんは料理製作は諦めた。
代わりに、と手をつけたのはドリンクの方。
まあ、入れて出すだけなので俺は任せることにした。
が、滝くんは嬉々としてブレンドの研究を始めた。
それが成功することを祈るのは、言うまでも無い。
一つ、救いだったのはブレンドの研究を手伝う日吉くんがまともな味覚の持ち主だったことだろう。
ありがとう、日吉くん。