「先生ーっ、こいつらどうにかしてくれよ!!」
「俺からもお願いします。なんか………先輩たち気持ち悪くて」
―――放課後、英語準備室を部活中であるはずの向日と鳳が襲撃してきた。
朝、あーんな今思い出しても正気じゃないような答えを返してから数時間。
こいつらが襲撃してくる前にも色々と噂が耳に入っている。
侑士が……一日中所構わずにやけてたとか(TPOを考えろよ)。
景吾が……やけにファンサービスがよかったとか(このタラシめ)。
思い出すだけで薄ら寒いようなことばかり。
しかもその元凶は俺ときた。
罪悪感が少しは……ある。
それに生徒に頼られたら、断れない。
あいつらと違って、こいつらは純真な生徒だ。
放っておけない。
「よし、俺に任せろ」
特に何にも作戦を用意してないのに、俺は言い切った。
…………うん、もうちょっと考えればよかったな。
そう思ったが、いまさら取り返しはつかない。
俺はひとまず、放送室に向かった。
『あー……三年テニス部跡部景吾!忍足侑士!至急、英語準備室のまで来い。
もう一度繰りかえ―――』
校内に呼び出しの声が広がる。
呼ぶのは、あの教諭。
呼び出されているのは、あの跡部景吾とあの忍足侑士。
練習中だった二人は最初の一言で、耳をぴくりと反応させ。
が二人の名前を呼んだ途端、ラケットを放り出し揃って走り出した。
陸上部も真っ青な走り出しだ。
「―――……先生、ご愁傷様だな………」
そう、宍戸が呟くとそれに同意するように残されたレギュラー含めテニス部員は強く頷いた。
「「っっっ!!」」
「うぉっ!!」
なんなんだろうか、こいつらは。
俺が放送スイッチを切った途端、放送室のドアをバァンッと開けて登場してきたんだが。
何でお前ら、そんな必死な形相してるんだよ。
別に来なかったらお前らの命がなくなるわけじゃないぞ?
いや、その前に―――
「集合場所は英語準備室だと言ったはずなんだがな―――跡部くん?忍足くん?」
それに校内では呼び捨て禁止、と言ったはずだ。
そう笑って付け加えると、あいつらは表情を凍らせた。
いくら俺が本当の結論を先延ばしにした(と、いうことは二人にもチャンスがあるということだ)
といっても、校内では俺たちは教師と生徒という関係だ。
これを前提に、と―――俺はあのとき、言ったはずなんだが。
俺はくるりと向きを変えると再び、放送スイッチを入れた。
『―――なお、先程の両名はグラウンドを十周してから来ること。以上だ』
また振り返ってみれば、さっきまでの勢いはどこにいったのやら。
揃ってあいつらは固まっていた。
「―――分かったか?」
そこへ俺がまた微笑んで言ってやると、来たとき同様再び走って消えていった。
まったく………世話の焼けるやつだ。
それに。
「廊下は走るな、って言ってるだろうが…………」
「おー、お疲れ二人とも」
二人は息切れをしながら、英語準備室のドアを開けた。
まだまだ暑さの残る九月だ。
それプラス、グラウンド十周で大分汗をかいてる。
俺は苦笑しながら、備え付けの冷蔵庫からスポーツドリンクを二つ取り出した。
「ほら、飲めよ」
それぞれの頬に当ててやると、侑士と景吾は一瞬目を眇めてからそれを手に取った。
で、ぐいっと一気飲み。
「―――で、さんは何の用なん?」
「そうだ。わざわざ俺を呼び出しておいて……」
「いや、ただ苦情が出てな。それに、景吾。俺はお前だけじゃなくて、侑士も呼んだからな?そこら辺を間違えるなよ」
なんだろうな。
景吾、ちょっと勘違いしてるぞ、お前。
その認識、直そうな?
特にその俺を中心に地球が回っている思考は。
「それはともかく、本題に入るぞ。―――お前ら、顔に表情を出しすぎだ。もうちょっと感情を抑えろ」
「そう言われてもな………なぁ、忍足?」
「せや。今更やろ?」
「俺が言いたいのはそういうことじゃないっ!」
駄目だ、こいつら。
普段はあんなに仲が悪いのに、こういうときだけ団結するなよ。
いや、喧嘩しすぎるのも困るんだが。
「俺が言いたいのは、お前らが俺絡みで表情出しすぎってことだ」
「なんや、よぅ分かっとるやん」
「それなのになんでお前は俺たちの気持ちに気づかなかったのか不思議だぜ」
いや、それは気づきたくなかったというか、なんというか。
教師と生徒、なんて禁断の関係になるとは誰も思わないぞ。
もちろん、俺も思ってなかったし。
「と に か く っ!!お前ら、校内で俺に過剰な接触は禁止」
そう宣言すると、景吾や侑士から不満の声が漏れる。
なんとでもいいやがれ。
俺は怯まない。
そう決めたからな!
「せやかて………なぁ?」
「ああ、そうだ」
「―――お前ら、きちんと主語を入れて喋れ。互いだけが分かってんじゃねぇよ」
変なところで意思の疎通を図らなくていい。
頼むから、まともに日本語を喋れ。
そして、まともな行動をしろ。
「俺らが言いたいんは、せっかくの学生生活やし、校内エ―――」
「好きなヤツが傍にいて何もできないなんて、24時間据え膳状た―――」
「あ゛ーっ!!お前ら、そんなマニアック発言するなしかも真顔で!!」
もうすぐ15歳になろうという若者がそんな発言すんなよ………!
いや若いのは分かってる。
けど節度とか………ああああ、もう!!
「分かったッ!譲歩してやる!!この英語準備室だけ、お前らは素でいていいから。
た だ し!それ以外だと、教師と生徒だからな!?」
いいか!?
と意気込んで言ってやると、俺がそういうと思わなかったのかあいつらは一瞬、きょとんとして。
互いに顔を見合わせて、やがて俺の方を見てにやりと笑った。
―――背筋が寒いのは気のせいですか。
「成る程な………ここでは手、出していいわけだ」
「…………………は?」
「ここだと、俺らは“コイビト”なんやしなぁ…」
………悪いが、侑士、景吾。
その凶悪な笑みは何だ?
いいもの、見ぃーつけた。
と、お前らの瞳は語ってるぞ?
俺は心の中で冷や汗を流しながら、目の前の二人から一歩引いた。
「なんで逃げるんや?」
「逃げる必要なんてないだろ?」
すぐさま、俺の両脇を固める両名。
あは、あはははは………もしかして俺、墓穴掘ったのか?
「「…………」」
両耳で同じタイミングで聞こえる、甘く低い声。
これはマジでヤバイと、確信したときにはもう時、既に遅し。
こいつらに情けは無用だと、俺は身をもって学習した。
(需要があれば、この続きを裏で書いてみtai)