あれから俺は、侑士とも景吾とも少しギクシャクしたまま夏休みを迎えた。
二人とも、全国大会に向けて一日中部活の毎日だから、会う時間は少ない。
俺の担当してる英語部もほとんど活動が無い=学校に用は無い。
一応、教師だからたまには顔を出すが、それも微々たるもの。
侑士は朝と夕方だけ、景吾に至っては終業式以来会ってなかった。


否、会えないんじゃなくて、俺が意図的に会わないだけだが。


今、侑士や景吾に会って、俺はどういう反応をしていいのか分からないからだと思う。
侑士とは一緒に暮らしてるが、どうにか俺の反応は隠せる。
けれども、景吾は分からない。
隠し通す自信は無いに等しい。
小さい頃を殆ど景吾は俺と過ごしてる。
その分、俺のことが分かってると思うからだ。
だから、怖い。
二人に、面と向き合って会うのが怖い………。
でも、このままじゃいけない。
そう思うんだが………。


「はぁ………」


そうはいかないものなんだな………。
さっきから俺はこんな調子だ。
景吾にバレた日から、暇があれば悩んでる気がする。
あれから一応、景吾の家に行って説明もしたし(なぜか侑士まで付いてきたが)、問題は無いはずだ。
順風満帆なはずなんだがな………。
そう思いながら俺は、テーブルに顔をぺたんと付けた。
クーラーが効いてるおかげで、テーブルは冷たい。
そのまま横に視線をずらすと、見覚えのある袋が目に入った。
あれは、確か――――


さん、お願いがあるんやけど……』
『どうかしたのか?』
『夏休みな、一日中部活があるんやて』
『ああ、全国大会を控えてるからな』
『それでな、弁当がいるんやけど、さん作ってくれへん?』
『別にいいけど』
『おおきに!』


…………そうだ、思い出した。
侑士に作った弁当だ。
でも確か今、侑士は部活………ってことはッ!!


「忘れ……たのか?」


そういえば今日、侑士が寝坊した〜って騒いでいたな。
生憎、俺は低血圧で朝に弱いからぼーっとしてたんだが、そんな風にドタバタしてた覚えがある。
俺は、ちらりと壁に掛けてある時計を見た。
現在時刻、午前十一時三十分。
確か、あともう少しで昼休憩だというところだ。
午後からも練習があるなら、弁当が無かったら辛いだろう。
成長期の青少年だしな。


「仕方ないか………」


手間がかかるヤツ。
仕方ないから、持って行ってやるよ。


感謝しろよ、侑士。
































来たのはいいが、俺は私服だった。
………別に仕事で来ているわけじゃないから、いいか。
ああ、それにしても視線が痛い。
そんなに俺が珍しいのか?
夏休み前までは、毎日見ていたはずなのにな。
とか思ってテニスコートを探していたら、木の根元に見覚えのある金髪を見つけた。


「芥川!」


間違いない。
あれは、テニス部レギュラーで、先生方の悩みの種の芥川だ。
なんでも彼はしょっちゅう授業をサボっていて、出ても寝てるからどうしようもないらしい。
俺の授業のときも、サボりはしてなかったけどずっと寝ていたな。
しかもそのくせ、授業内容は分かるというすごさ。
俺は密かに睡眠学習をしてるんだと思ってる。


「ん〜?あ、せんせーだ〜」


目を開けて、俺を見たとたんに芥川は抱きついてくる。
動物に懐かれた気分がするのは気のせいだろうか。


「芥川、部活はどうした?」
「…………おやすみなさーい」


俺の質問を無視して、芥川くんは再び眠り始めた。
……俺の膝の上で。
まったくこの子は、状況を分かってるんだろうか。
仮にも、全国大会を控えてる選手じゃないのか?


「はぁ………。なんで最近の生徒はこう、個性が強いんだろうな………」


教師も楽じゃないな………。
と、思っていたら、不意に影ができた。
芥川を落とさないようにしつつ、振り返ってみるとそこには樺地の姿。
大方、芥川を迎えに来たんだろう。


「お疲れ様、樺地」
「ウス」
「芥川の迎えか?」
「ウス」


あー…なんか、樺地と話してると癒される。
言いたいこともなんとなく分かるし、いい子だし。
純粋なんだろうな。
今時いないぞ、こんないい子は。


「…失礼、します」


そう言って樺地は芥川を担いだ。
……ん?
なんか、引っ張られてないか………?


「芥川……」


引っ張っていたのは、芥川の手。
その手は俺の手をしっかり握ってる。
寝てるのに、器用なことだな……。


「…どうしますか?」
「ん、別にこのままで構わないぞ。俺もコートに行く予定だったしな」


芥川に気をとられて忘れてたが、侑士に弁当届けないといけなかった。
時間もちょうど休憩ぐらいだ。
ジャストタイミング、ってヤツだな。


こうして俺たちは、コートへ向かった。

























「……あかん」


何度探しても見つからん。
あー…もしかして俺、持ってくるの忘れたんやろか。
折角、さんに作ってもろたのに……。
次からさん、作ってくれへんかったらどないしよー…。


「どーしたんだよ、侑士」
「その様子からして、弁当でも忘れたんだろ?マヌケだよなー」


無邪気に聞いてくる岳人はええとして。
宍戸、後で覚えとき。
そんな妙なところで、勘をはっきさせるんやない。
跡部が勘付くやろ?


「忍足。もしかしてその弁当……」


前言撤回。
もう気づいとった。
なーんで、さん絡みやとこんなに鋭いんやろ?
気づかんでええのに。


「あ、先生発見っ!」
「「何!?」」


岳人の上げた声に俺と跡部は素早く反応してしもうた。
窓の外を見ると、確かに先生の姿がある。
俺は思わず、外に飛び出した。


さん!?」
「侑士」


俺を見つけると、さんは弁当を掲げて微笑した。。
あー……さん、笑顔を見せてくれるんは嬉しいんやけどサービスし過ぎやー。
俺には跡部っちゅー、ライバルがおるんやし、これ以上ライバルは増やさんとって。


「おい、。なんでジローと手繋いでんだよ」


とか思っとったら、いつの間にか跡部まで部室から出てきとった。
しかも、ジローがさんと手ぇ繋いどるやて!?
あかん!
阻止せなあかんわ!!


さーんvv」
「うわっ!?」


俺はジローの手を断ち切るようにして、さんに抱きついてみた。
勿論、ジローの手はさんの手から離れとる。
それでも寝とるジローは、ある意味尊敬モンやな。


「忍足、てめぇ………」
「なんや、跡部。羨ましいんか?」


静かに怒っとる跡部に、さんの肩越しから声をかけた。
これ、完璧に挑発しとるな。
まあ、それが目的やし?

ざまあみろや、跡部。

さんは、俺のモンなんやで!






























正直、むかついた。
何にむかついたかというと、この関西弁ヤローにきまってる。
に、弁当を作らせて?
それを届けさせた上での、この抱擁。
俺を煽ってんのかよ、忍足。
あーん?


、こっちに来い」
「は?この状況を見てものを言え……ッ!?」
「そうか。それなら……行け、樺地!」
「ウス!」


流石、樺地だ。
なにをしろと言わなくても実行した。
お陰で俺は、スムーズにを腕に収めることができたぜ。
よくやった、樺地!


「な…っ!卑怯やで、跡部!!」
「はっ、どこがだよ。お前は既にフライングしてんだ。別にこれくらいいじゃねーか」


と同棲しやがって。
俺だって、小学校のころしか一緒にいなかったんだぞ。
まあ、他にも理由は山積みだけどな。


「景吾!」
「大丈夫だ、。忍足には渡さねぇ」
「なに言うとんのや!!」



……が二人の暑苦しさに怒るのは、もうすぐのこと。