跡部にばれることなんて、すぐに考え付くことやった。
もちろん、頭の片隅にはそのこともきちんと考えてあったんやけど…。
あんな場面を見たら、そないなことなんて、一瞬で吹き飛んでしもうた。
「跡部ッ!!さんになにしとんのや!?」
今にもキスしそうな跡部をさんから引き離して。
すぐに俺は、さんを自らの腕の中に閉じ込めた。
俺のモンやと言うように。
そういう意味をも、込めて。
けれども跡部は不敵に笑うて。
不穏な、俺への宣戦布告とも取れる言葉を言うた。
少し不安で、俺はさんをぎゅっと抱き締めた。
そしたら、さんは俺を肩越しに見てくる。
俺はそれに気づいて、笑って見せた。
そしたらさんは照れたんか、顔を逸らした。
本人は気づいてないんかもしれんけど、少しその顔は紅い。
跡部に見せ付けるつもりでやったことやったけど、俺の中では跡部が言うた言葉がぐるぐると廻っていた。
その言葉は俺に向けて言うたものだったんやけど、跡部の目は腕の中のさんから離さずにおった。
さんは気づいとらんかったけど、俺はその目に込められた感情が分かりたくないのに分かってもうたんや。
跡部がさんを見とる目は。
ありえんぐらい優しゅうて。
愛しそうやった。
それは俺がさんに向けとるものと、なんら変わりのないもの。
思わず呆然と俺がしとる間に、跡部はもう部屋を出た後。
ご丁寧に、不機嫌そうに顔を歪めて舌打ちまで残してくれたわ。
そして、俺の腕の中のさんは。
「景吾っ!」
跡部の名前を呼んで、するりと俺の腕から逃げ出してもうた。
引き止めんと、と思うて右手を伸ばしたけれども。
さんは、掴めれんかった。
まるで手のひらから零れ落ちる水みたいな、あっという間の出来事。
パタンと閉まる玄関の音がやけ遠く聞こえた気ぃする。
俺はなにも掴めんかった右手に目にやった。
さんの手も、服の端さえも掴めんかった手。
それをぎゅっと握りしめて俺は、壁に拳を殴りつけた。
こないなことをして、何もならんのは分かっとることや。
でもこういうことでもせんと、俺は嫉妬にかられてなにをするか分からへん。
最悪の場合、さんを傷つけてしまうかもしれんのや。
「余裕、無さすぎやな…………」
壁に背中を預けながら、俺はずるずると床に座り込んだ。
もう、溜息しか出ぇへん。
今の俺は跡部への嫉妬でいっぱいいっぱいや。
そないに、跡部とのことがショックやったんかなぁ……。
「カッコ悪いで…」
あー…ホンマ、余裕無いわ。
やっぱり俺、さんのことめっちゃ好きなんやな。
余裕無くしてでも、さんの傍にいたいと思うとる自分がおる。
恋は盲目って本当やな………。
俺はそう思いながら、ぼーっと部屋の天井を見た。
目を閉じれたらええんやろうけど、生憎、閉じたら跡部とさんのあのシーンを思い出してしもうて嫉妬の嵐を巻き起こしてしまうんや。
せやから、俺は床に座り込んでさんが帰ってくるのを待った。
そないに時間はかからへんと思う。
見送りだけやし。
跡部も流石に往来がある場所で手ぇ出さんと思うし。
そう思うてたらそのうち、眠気が俺を襲うてきて。
気がつけば俺は、意識を手放し取った。
夢を見た。
さんが、俺やのうて跡部の手を取る、そういう夢。
その夢の中でさんは、俺に見せたことのない顔をしとった。
夢や。
これは夢や。
そう自分に言い聞かせながら、夢の俺は走っとった。
そのうち、光が見えて。
俺は迷わず、その光に手を伸ばしたのが夢の最後やった。
「…し!侑士!」
そいでゆっくりと目を開けて、一番に目に入ったんはさん。
心配そうな顔で俺を見るさんを見て、俺はひどく安心したんやと思う。
気がつけば俺は、さんの手を引っ張って抱き締め取ったから。
「侑士、お前変な夢でも見たのか?顔色悪いぞ………」
さんはそんな俺の心境を読み取ったのか、そないなことを言う。
俺は静かに頷いて、腕に力を込めた。
珍しくさんは、なすがままにされながら俺の背中にゆっくりと腕を回す。
優しい、その温もり。
たった一つしかないそれが、俺は欲しい。
――――貴方に伝わるまで。
俺は、好きやと言い続けるで?
覚悟、しとき。