数学の中で、俺は証明の問題が好きだ。
だってさ、一つのものの存在を確定するんだぞ?
それはとても凄いことだと思う。
だけど、俺は思うんだ。
人の“行動”や“想い”は証明できるのだろうか、と。





















“想い”の証明






























事の始まりは、あの有名な43……じゃなかった榊先生に生徒会長宛の書類を頼まれたことからだった。
自慢じゃないけど、俺は方向音痴だ。
生徒会室なんか知らない。
そう榊先生に言うと、地図を渡された。
……どうしてもこの先生は、俺に行かせたいらしい。
俺は氷帝名物と化している「行ってよし!」を受けて、仕方がなく生徒会室に向かった。
そこまではいい。
地図のおかげで、俺は生徒会室に着けたのだから。
だけどな。

俺は生徒会長なんて知らないんだよ!

名前もおろか、顔さえも知らないんだ!
つーか、知らなくても別に生きていけるしな。
まあ、書類なんかは机に置いとけばいいだろう。
俺はそう判断して、生徒会室に入った。
誰もいない。
仕方がなく、書類を机に置いて俺は少しは寛ごうとソファーに向かった。
んでもって、固まった。
なんたってそこには、人が寝ていたのだから。
いたなら起きろっつーんだ。

………その安らかな寝顔を見てたら、むかついてきた。

こっちは聞きたくもない43の言いつけで仕方なく来たというのに、当の本人である生徒会役員はのんびり昼寝か?
いい身分だよな、まったく。
それにしても……。
こいつ、かっこいいよなー。
羨ましいぐらいだ。
八つ当たりで、色素の薄い髪を弄ってみる。
お、結構柔らかい。

…でも、それが悪かったらしい。

「うわっ!?」

急に腕を引っ張られ、俺はソファーに倒れこんだ。
あっという間に俺は、ソファーの上……というか、そいつの腕の中。
目の前には未だに寝てるそいつの顔がある。
どうやら、寝惚けていたらしい。
まあ、寝惚けるのは構わないんだけどな。
俺を巻き込むなって言うんだよ。

「…離れろ」

方法1.
ぐいっと身体を押してみる。
結果。
腕の力が更に強くなった。
結論。
逆効果。

…いい加減にしろよ。

方法2.
頬を引っ張ってみる。
結果。
手は振り払われた。
だけど、俺を解放してくれる気配は皆無。
結論。
意味が無い。

……マジむかつく。

「いい加減、起きろよ…」

ここまで来ると、呆れてものも言えなくなりそうだ。
いつの間にか、こいつの顔は俺の耳のすぐ傍にあるし。
なんというか…落ち着かないんだよ、この体勢。

「…………」

「!?」

…こいつ、今、俺の名前呼んだか??
寝言……だよな?
つか、俺は寝言だと思いたい。
なんで、顔も知らない奴に寝言で名前を呼ばれなけりゃならないんだよ。
面識なんか、全然ないぞ。
そりゃー、廊下で擦れ違ったりはしたかもしれないけどさ。



うわー…更に呼ばれたよ、俺。
しかも、耳元で。
なんでこんなにエロい声してんだよ、馬鹿ヤロー!
さっさと起きてくれー!

とか思ったら。

「……あ?」

「……おはよう、ねぼすけ君」

見事に起きてくれましたよ、この御方。
期待を裏切らない行動をありがとう(嬉しくないけど)。

「…、か?」

「…だから何?」

なんなんだよ、一体。
起きたと思えば、人の名前をフルネームで呼んでくるし。
何様のつもりなんだ?

「……夢じゃねぇよな?」

「夢だと思うなら離せ」

むしろ、早くそうしてくれ。
俺はそれを望む。
とか思っていたら。

この御方はまたもや、俺の期待を裏切ってくれた。


「好きだ、


「…………は?」

ちょっと待てちょっと待て!
今………こいつは何て言った?

「もう離さない」

いやいやいやいや!
アンタ何言ってんだよ!?
そんなにうっとりとして俺を抱き締めんなーっ!!

「離せ!俺はアンタなんか知らないぞ!?」

「何言ってんだ。忘れたとは言わせねーぞ。あれは、俺とが五歳のときだったな…」

やば。
こいつ、自分の世界に入ってる。
あー…でもなんか、こいつ、俺のこと知ってるっぽい?
一応、気になるから聞いといてやるか。

「…『空みたいな目だね』と笑顔で俺に言ったに、俺は一発でやられた」

要約するならば、当時五歳の俺の率直な感想に心をうたれたってところか。
…それだけで、十年近くも片思いかよ。
ゴクロウサマ。

「で、だ。お前は俺のもの」

「は!?」

一体、さっきの説明でどうやってそんな結論に至るんだよ!
寝起きで頭が働いてないんじゃないか!?
それに、なんだか言葉も支離滅裂だし!

「まさか、自分から俺の元にやって来るとは思わなかったぜ」

と言いつつこいつは俺を更に抱き締める。
なんで俺が、名前も知らない奴に、告白されないとならんのだ。
しかも、既に決定事項で。


俺は深く溜息をついた。


もちろん、なんだかご機嫌な帝王様(……というか、大型犬?)を貼り付けて。



















































まあ、そんなわけで、俺はこいつ―――景吾のことだけど―――に一日中張り付かれるハメになった。
でもほんと、景吾は俺に一日中くっ付いてるんだ。
飽きもせずに、そりゃもう、べったりと。
同じクラスのテニス部員である宍戸に聞くと、どうやら景吾は俺に対して、かなり激甘…………というか、これまでの浮いた噂が一掃されるくらいに俺に対して一途らしい。
まあ、俺も景吾に対して甘いと思うんだけどな。
なにより、クラスが違うのが幸いだ。
だけどおかげで俺は、生徒会室に毎日顔を出す羽目になる。
なぜかというと…景吾を生徒会室に送り届ける為だ。
なにしろ、景吾は俺から離れてくれないから。
そのくせ、俺を掴まえてない時は校内で俺を発見し次第、主人を見つけた犬みたいにくっついてくる。
そして開口一番がこの言葉。

、好きだ」

「はいはい」

十年越しの思いを俺にぶつけてくるように、毎回毎回同じことを言ってくる。
いつも流すけど、それにいつか俺も…………………………答えないといけないわけで。
初めはなんとも思ってなかったんだけどなー………………時が経つのは早いと言うか、気持ちが変わるのが早いと言うか。
その…………なんだ。
いつの間にか俺も…………景吾のことが好きになってたらしい。
本人には絶ッ対、言ってやんないけど。



景吾の「好きだ」という言葉が「愛してる」に変わるとき、俺も答えてやろうと思う。


だから、な?


その景吾の想い、行動で証明してみろよ。



そう思いを乗せて。

俺は景吾の唇を掠め取った。

呆然とする、景吾。

俺はそれを見て、微笑んだ。



―――早く証明しないと、“俺”が行動を起こして逃げるぞ?



























景吾から“想い”を証明されるのは、そう遠くない話。