雨の音をBGMにしてソファに座り、はクッションに顔を埋めていた。
しばらくそうしていて、何か急に思い立ったように顔を上げ、テーブルの向こうの忍足を見る。
「―――侑士」
「なんや?」
テニス雑誌に目を落としたまま、忍足は返事をした。
恐らく、生返事。
「世界の中心ってどこだろうな」
だが、の口かららしくもない言葉が出ると忍足は面白そうに顔を上げる。
興味を失くした雑誌は、テーブルの上。
今の忍足の興味の的はだ。
「世界の中心ー?これまた、えらいロマンチックなことを考えるなぁ」
「お前の影響」
あっさりと返してくるの言葉に忍足は満足そうに笑う。
その言葉が、とても嬉しかったから。
「そらええわ。が俺色に染まってくんやから」
そう言うと、が照れたのか少しそっぽを向いた。
その仕草がまた可愛い。
忍足はそう思った。
「馬鹿だろ、お前」
「そうやな。俺は馬鹿や」
照れ隠しの言葉にも肯定して。
の耳が紅くなるのを忍足は見ていた。
恐らく、顔も紅いのだろう。
「…救いようの無いやつ」
それを隠す為にはわざとそっぽを向き、照れ隠しの言葉を紡ぐ。
そっぽを向いているせいで、には忍足の表情は見えない。
当然、忍足が笑っているのにも気づかない。
「そんな俺でもは助けてくれるんやろ?」
「多分な」
「多分て・・・えらい冷たいなぁ」
冷たいようで温かい言葉。
今のはそれだと、忍足は理解している。
勿論、も分って言っている。
それはやはり、照れ隠しの為。
「お前が暑苦しいんだ。毎回毎回」
そんな言葉でも愛しいと思えるのは自分がおかしいんかな、と忍足は思う。
だけどそれはの言葉の真の意味を知っているから言えるコト。
「だって俺、のこと好きやし」
「はいはい。……で、話は戻すんだが」
忍足の言葉もあっさりスルー。
けれどもこちらを向いたの耳はまだ少し、紅い。
頬も少し、紅くなっていた。
「世界の中心やろ?どこでもええやんか」
「珍しい。ラブロマンス好きなお前がそんな答えを返すなんて」
「どんな答えを期待しとったんや……」
確かにラブロマンスは好きだ。
だけどまぁ……自分はそんなにロマンチックなわけじゃないと思っている。
けれどもの忍足に対する認識は違っていたらしい。
「激甘な答え」
その言葉に忍足はらしくもなく溜息をついた。
そしてどこか照れた様子で、忍足は言葉を捜す。
「……世界の中心は俺とがおる場所や。これでええんやろ?」
「上出来」
やはりこう言う言葉を言うのは恥ずかしくて。
忍足は少し顔を紅くした。
そんな忍足には綺麗に笑ってみせる。
その笑みにまた忍足はやられ。
先ほどののように照れ隠しの言葉を紡ぐ。
「ほんなら俺の質問にも答えてや。の世界の中心は?」
「俺」
どんな答えだろうかと期待してみて、返ってきた言葉はこんなもの。
思わず忍足は、硬直した。
「…………………」
「なんだよ、その沈黙は」
その沈黙に不満そうには言う。
どうやら、忍足の態度が気に入らなかったらしい。
「……どこぞの帝王様みたいやと不覚にも思うてしもうたんや」
「あんな奴と一緒にすんな」
帝王様、あんな奴と形容されたのは勿論、アイツ。
跡部景吾以外、いないだろう。
跡部と比べられたことが気に食わないのか、は忍足の言葉に眉を顰める。
「せやかて、が跡部みたいなこというからやろ」
「だとしても俺に失礼」
「…………相変わらずの俺様っぷりな姫さんや」
跡部にも負けない俺様っぷりを発揮してくれた恋人に、忍足は思わず呆れてしまう。
は心外だ、と呟きまた否定する。
「誰が姫だ、誰が」
「俺のに決まっとるやん。俺の大事なオ姫サマ」
「………恥ずかしー奴」
こういうときだけ、恥ずかしい言葉を惜しみもなく言ってくれる恋人に、は再び顔を紅くした。
先ほどの言葉より、かなりの殺し文句だ。
やはり、自分が姫と形容されたのには頷けないが。
「言わせたんはや」
す、とごく自然な動作での顎を掬い。
忍足は唇を重ねた。
「ん……、」
それにも応えてきて。
キスは激しさを増す。
それこそ、の力を奪うように。
「……は、ッ………ひきょ……っ」
ようやく唇を離されても、は忍足に凭れ掛かったまま。
忍足はそんなをお気に召したようだ。
「そうやな。俺は卑怯や。せやから、世界の中心で俺とイイことしような〜」
を軽々と抱き上げ、忍足はるんるんで寝室に向かう。
取りあえず、コトが済んだら一発殴る。
そう誓うだった。