「先生っ!君の容態が――――」
「すぐに、ご両親に連絡しろ!それと点滴の準備を――――」
先生と、看護士の声がやけに遠くに聞こえる。
切羽詰った、焦った声。
僕の担当の看護士さんが、必死に呼びかけているのが聞こえる。
まるで、第三者の気分。
死はそこまできているのに、僕の心は穏やかだ。
ただ、だんだんと薄れていく意識の中、僕はベッドの傍の写真を見る。
そこに写っているのは、僕と、テニス部レギュラー。
そして僕の隣には、忍足侑士。
――――僕の、想い人。
なんでだろう。
こんなときになって、キミの顔が浮かぶ。
初めて逢ったときの、キミの表情。
試合に負けて、悔しそうな顔をしていたキミ。
勝って、嬉しそうに誇らしげに笑っていたキミ。
いつの間にか、キミは僕の心を占めていた。
昨日、キミは僕に言ったよな。
『高等部に入学したら、あの桜を見よう』
って。
ごめん。
あの約束、守れそうに無い。
ほんとに、ごめん。
どんなに謝っても足りない。
僕から先に言い出したことなのに。
本当に、ごめんなさい…………。
…
……でも、やっぱり、僕は………
………もっと、生きたい……!!
“死ぬこと”に僕はやっぱり、怯えてる。
“生きること”を望んでる。
いくら、死を迎える心構えができてても、やっぱり怖い。
自分の心は、偽れない。
生きたい。
いきたい。
行きたい。
あなたに、逢いたい。
あいたい。
アイタイ。
まだ、キミには僕の想いを一つも伝えてない。
気づいていたけど、キミの僕に対する想いも聞いていない。
まだ、僕はなにも、伝えてない…っ!
だけどそんな僕の想いとは裏腹に、身体はどんどん力を失くしていく。
息をするのも苦しい。
でもそんな中、“声”だけがやけに聞こえた。
いつの間にか来ていた母さんと父さんが、僕を呼ぶ声。
先生が、必死で指示する声。
仲の良かった看護士さんが、僕を呼ぶ声。
いろんな声が、聞こえる。
でもその中に、僕が一番聞きたい声が無い。
キミの、声が無い。
キミの低い声によく合った、関西弁が無い。
僕を呼ぶ、キミの声が無い。
いつから僕は、こんなにキミに依存していたんだろう?
いつからキミは、“僕”の心なかを占めるようになったんだろう?
こんなに、僕を夢中にさせるなんて、反則だよ。
最後の時まで、キミを考えてるじゃないか。
バタバタと複数の足音が聞こえる。
そういえばもう、学校の終わる時間だった。
この足音は………きっと、テニス部のみんなだ。
――――なら、キミもいるはず。
「…侑、士……」
どうにか振り絞って出した、声。
母さんと、父さんには多分聞こえてる。
そして、同時刻。
キミの声が、やっと聞こえた。
「っ!!」
きっと、キミがドアを開けるまで数秒。
でも僕は、これ以上もちそうも、ない。
キミの顔を見るまで、もちそうもない。
だから、せめて。
これだけは伝えたい。
キミには、伝えることはできないけど、きっとあれを見て気づいてくれる。
でも、僕は今言いたいんだ。
もう、声は出ないかもしれないけど、それでも僕は唇を動かす。
「侑士、愛してる――――」
涙が、頬を一筋伝って、
僕は目をゆっくり閉じた。
閉じる寸前に浮かぶのは、いつも笑っていたキミの笑顔。
そしてこれから先、僕が見ることのできないもの…………………君といた未来。
僕は淋しくないよ。
キミの笑顔を僕は知っているから。
ドアを開けて、聞こえたんはただ一つの音。
ピ――――ッと鳴る、無機質な音。
それが知らせるんは、君がいないこと。
君はいつもと変わらずにベッドにいて、
いつも通り俺を笑って迎えてくれるはずやった。
けれども、俺の目に入るんは、眠っとる君の姿。
永遠の眠りに、ついた君の姿。
傍で、幾度も見たの両親が泣き崩れとった。
俺の後から来た、岳人も、樺地も、鳳も、滝も、宍戸も、
みんな泣いとった。
泣いてないように見える日吉と跡部は、実は涙をこらえるような表情をしとる。
泣いとらんのは、俺とジローの二人。
ジローは、の両親から何かを聞いとった。
そして、俺に向かってジローはこう言った。
『は最後、忍足の名前、呼んだんだって』
と。
最後に俺を呼んだという、君。
君はなにを想って俺を呼んだんや?
教えてや、。
そう想うたけど、答えをくれる君は、もういない……
残された俺に、君が残したんは、
今までの想い出と、
君が俺に向けた表情。
それと、
俺が言い出せなかった君への想い……
行き場を失くしたこの想いは、どうしたらええんやろか……?
僕が伝えたかったこと
俺が伝えられんかったこと
カタチに表せばそれは、たった一つの言葉
「「アイシテル」」