逃げて、逃げて、逃げまくって、
それでも俺は逃げられない
追いかけて、追いかけて、追いかけて、
それでもキミは捕まらない
いつの間にか俺たちは、焦っていた
((なんで、どうして?))
(捕まりそうで恐いから?)
(捕まらなくて恐いから?)
((いや、きっと――――――))
((―――……が恐いんだ))
チャイムの音が鳴り響いたと同時には席から立ち上がり、教室を飛び出した。
それと時を同じくして、千石が後を追う。
それを呆然と、教師が見ていた。
「なんなんだ、一体………」
その呟きに、誰かが答える。
「いつものことですから」
が千石から逃げるようになったことが、いつの間にか日常と化していた。
それも、日を追う毎に千石がを見つける早さが早くなっていっており、は身体的に、そして精神的に辛い状況に追い込まれていた。
始めは余裕で逃げ切れていた。
でもやがてだんだん追い詰められていく。
逃げ場の無い、袋小路に。
そんな、気分だった。
現在は昼休み。
最も逃げる時間が長く、にとっては負担の大きいときだ。
昼ごはんなんて食べる余裕が無いからいつも、CMでやっているようなゼリーやそういった食べ物ばかり食べている。
そして今、は図書準備室にいた。
外の喧騒が別の世界のように、遠く聞こえる。
僅かに漏れる日の光が気持ちよくて、埃で汚れるのも構わず、転がった。
「ふー………」
安堵の息を漏らすと、はぼーっと天井を見つめる。
休み時間のたびに走り回る体は、すっかり疲れきっていた。
おまけに寝転がり、日の光を浴びているためすぐに睡魔が襲ってくる。
もう、千石のことを考える余裕なんかなかった。
は、吸い込まれるように眠りに落ちた。
千石は、を見つけていた。
図書準備室にいることも分かっていた。
なのにすぐに行かなかったのは――――もう少し、このゲームを楽しみたい自分がいたからだ。
けれども千石は焦っていた。
なかなか捕まらないに、焦れていた。
するりと逃げてしまうは中々捕まらない。
千石をいとも簡単に掴まえてしまったは、逃げる達人でもあったらしい。
千石のことを、見ない。
でも、気にしている。
脈は多少あるのだろうが、それでもは堕ちてこない。
追い詰めても、追い詰めても。
追いかけても、追いかけても。
こんなに、想っているのに。
溜息をつきながら、千石はこの時間のゲームを終わらせようとドアに手をかけた。
ゆっくりと音も立てずに開くドアをゆっくりと閉め、鍵をかけて。
眠る、の元へ歩く。
疲れているのだろうか。
はぴくりとも動かない。
千石は床に座り込むと、の唇を撫でた。
―――あれから、彼の唇には触れていない。
あんな行為は、千石にとってゲームの開始で、終了の合図。
そして、ごほうび。
だから、触れていない。
そんな彼の唇を、千石はゆっくりとなぞる。
は一回だけ瞼を震わせるだけで、それ以外の反応を返さない。
「………食べちゃうよ?」
危なく呟きながら、苦笑する。
でも、できないと分かっているから千石はを起こさないように自分も転がりその身体を軽く、優しく、抱き締めた。
彼の、匂いが、千石を、満たす。
「……好きだよ、」
「苦しいぐらい、好き」
「………―――このまま閉じ込めたいよ、」
思いの丈を彼の耳元で囁きながら、千石は目を閉じる。
そのまま、を抱えたまま、千石の意識は薄らいでいった。
柔らかな日の光が二人を照らす。
「ぅ、ん…………」
そっと目を開けると、広がるオレンジ。
は思わず起き上がりそうになるのを、何かに阻まれて同じ位置に戻った。
目で追えば、自分の身体の上に千石の腕。
抱き込まれた状態で、はいた。
「…………」
は試しに、千石の頬をつつく。
起きる気配はどうやら、無い。
安心したように溜息をつくと、は一回転して千石に背を向けた。
千石の顔を凝視できるほど、に余裕は無い。
妙に心臓が反応して、大変だ。
怖い。
怖い。
心臓が反応するのは、千石に捕まっているこの状況が怖いからだ。
そう、言い聞かせは脱出を試みる。
そっと、そーっと腕を外し。
逃げ出せそうなところで、は――――後ろから抱き締められた。
耳元には、僅かな吐息。
そして囁かれる、言葉。
「だぁーめ。逃がさないよ」
くすくすと笑う千石は、きっと“黒い”千石だ。
の身体が余計に強張る。
千石はそんなの変化に寂しげに笑った。
がそれに気づくことは、ない。
なぜならは………千石を見ていない。
それは千石も分かっている。
だから、だから。
ゲームの終了を願うように、腕の力を強くした。
ゲームに少しの休憩を入れてあげよう
だから、
お願いです
俺を受け入れてください
貴方が見た俺はどれも俺自身だから
(だから、素直になって……?)