「あの馬鹿……!どこに行きやがった…………っ!!」
校内をは駆けずり回っていた。
探すのはもちろん、千石清純。
彼のオレンジ色の髪は目立つはずなのに、校内には見当たらない。
はイライラしていた。
一体何なんだ……!今日の千石はおかしすぎる。
いきなり飛び降りるし(おかげでまだ背中が痛い)
いきなり泣き出すし(かなりびっくりした)
いきなり逃げ出した(そりゃ女の子に抱き締められた方がいいさ!俺だって女の子を抱き締めたい)
お陰では再び千石を探すハメになってしまった。
が、広い校舎だ。
いつもすんなり見つかるはずの千石はなかなか見つからない。
「くそ…っ、どこ隠れやがった?こっちはまだ部活もあんのに………」
舌打ちをしながら、は走る。
途中、教師に廊下は走るなと言われたが自分はそれどころじゃない。
は教室やトイレを一つずつ確認しながら、校内を巡る。
やがて生徒昇降口に着いた時、はふと足を止める。
「なんで……………俺、こんなに必死なんだ?」
千石とはただのクラスメイト。
そう、ただのクラスメイトのはずなのになんでこうも毎回毎回律儀に探すんだ?
頼まれたから?――――――それなら嫌だといえば断れる。
それなのに、いつも俺は文句を一応言うけど、探しに行く。
…………
……………ああ、そうだ―――――――俺は、ずっと千石が気に掛かっていたんだ。
千石の存在は中学に入ってからすぐ、気づいた。
そのときは派手な髪色のヤツだな、と思うだけでそのまま終わった。
次に気づいたときは、千石がテニス部で活躍していたとき。
すっげぇ上手いし、楽しそうにやるな。
テニスコートをたまたま通りかかったとき、そう思ったのを覚えている。
三度目は今年のクラス替え。
クラスメイトになって、一ヶ月くらいした頃だったけ、あれは。
まだ千石を探すことを頼まれていなかった頃。
それもそのはず、その頃は千石、全然そういうことはなかった。
……………思考がずれた。
えっと……確か俺が気になったのは、授業中。
千石は窓際の席で、俺はその隣。
といってもあまり話さなかったから、仲はあくまでクラスメイトとしてのもの。
俺は練習問題を解くと、ふと隣を見た。
ただ、なんとなく。
千石はそのとき、窓の外を見ていた。
満たされないような、寂しいというような、子供がふてくされた、顔をして。
まるでなにもかもがつまらない、というような表情。
テニス部で活躍中の、いかにも充実してますーってヤツがそんな表情をするなんて思わなかったから、俺は思わず見入ってしまった。
それが数分間続いた頃だろうか。
不意に、千石がこちらを見た。
多分、俺の視線を感じて。
何しろ、俺たちの目、ばっちり合ってしまったからだ。
そのとき、千石の目が大きく見開かれたのを知っている。
俺はそのまますぐに視線をずらして、目をずらした。
それからだ。
千石は授業や部活をサボるようになって、俺が探し出し始めたのは。
あのときの千石の表情が気になっていたからかもしれない。
俺は探し始めて、千石が“子供っぽい”ことに気づき始めた。
あいつは俺が探し出すと、文句をぶちぶち言う俺に対して、にっこり笑う。
見つけてくれたのが、嬉しかったとも言わんばかりに。
その笑顔は――――とても無邪気で。
………あ、そっか。
俺、あの笑顔が好きなんだ――――――――
だから千石をいつも探してる。
なのに今回は…………笑わないで、泣いたから。
気になって、必死に探してる。
冷静に考えれば俺の行動理由は……………恥ずかしかった。
なんか、こう…………恋する乙女?みたいな。
「………さっさと探そ」
は馬鹿な思考を振り払おうと頭を振ると、靴に履き替え、グラウンドに出た。
振り切れないでいる、その思考に悩まされつつ――――
「眩しー………」
夕日に手を翳しながら、千石は呟いた。
場所は裏庭。
その中でも木の生い茂るここは、見つかりにくく人の訪れることの少ない場所だ。
隠れるには、絶好の場所。
だが、その場所も一回見破られている。
に、見つかった。
千石が隠れた、最初の日に。
「気づくかなぁ………は」
背伸びをして千石は笑った。
に、自分だけを見てほしくて始めたかくれんぼ。
いつしか空しくなってしまったそれを、がここにいる自分を見つけたら終わりにしよう。
勝手に始めたゲームだから勝手に終わらせる。
でもゲームはやめられない。
が俺を探してくれるのは、少しでも俺を気にしているからだろう?
だから、やめられない。
ほんの僅かな可能性を信じて、次のゲームを始める。
決めていたことだ。
タイムリミットは日没。
だいぶ逃げ回ったから、あと三十分といったところだろうか。
千石は期待と不安を混じえた気分で、を待っていた。
そして、数分後。
千石の背後で、僅かな足音がした。
振り向かなくても分かる。
彼はやはり自分を見つけてくれた。
千石は笑った。
それは彼から見えないけれども、とても楽しそうな笑み。
「今日一日、お前で終わった。…………ホント、どうしてくれるんだよ」
試合中だったんだぞ、とぶちぶち言うの言葉を千石は聞いていなかった。
ただ、が自分をずっと探していてくれたことが嬉しくて。
千石はすぐ振り向いて、に抱きついた。
「うぉっ!?」
「ー」
ごろごろと懐く千石は、あのときの表情と先程屋上で見せた泣き顔とは打って変わって笑顔で。
は少しほっとした。
頭でも撫でてやろうかとは千石に手を伸ばす。
が、その手が届く前に、千石が身を引いた。
「千石………?」
駄々っ子のようなイメージが消え、千石の変化には気づく。
笑顔でさえも先程とは違う。
なんだろうか………………まるで、妖艶な笑み。
そう軽い笑みじゃなくて、重い何かを連想させる。
はそのただ事じゃない変化に、戸惑う。
「お前、どうしたんだ……………やっぱ、打った衝撃で、」
「どうもなってないよ。………今までが偽ってただけ」
に俺だけを見てほしかったから
呟いたその言葉は風に乗って。
に届いた。
は驚きに目を見開く。
「でもいつまでも気づいてくれないからサ。………強硬手段に出ようかと」
千石はにやりと笑う。
その笑いには背筋がぞくりとなるのを感じた。
あのときの、千石だ………!
はそう、確信を得る。
どこか影のある部分がそのままそっくり。
今の千石に出ている。
は知らずのうちに後退りをしていた。
そんなを、笑いながら千石が追い詰める。
木に、背が当たる。
逃げられない。
目の前に迫る千石の顔に、は漠然と思った。
千石はそのまま、の耳に唇を寄せる。
手は、幹についたまま。
これ以上、を逃さないように、千石は自然とその行動を取っていた。
「 今度は俺がを追いかけてあげる 」
低音で囁かれるその言葉に、は目を見開く。
力が入らない。
まるで、薬のようにそれはに浸透した。
そんなをくすりと笑い、千石は唇を合わせる。
深く、深く。
「ぅ…ん…………ふ…………っ」
は逃れようと千石の胸を叩く。
その行動をが取れば取るほど、千石の口付けは深くなっていく。
そうして時間が経った頃、千石は唇を離した。
その頃には、もう、は息を乱してずるずると座り込んでしまっていた。
けれども涙が滲むその瞳で、は千石を見上げる。
答えるように、千石は言った。
「 逃がさないよ………………… 」
その言葉を残して、千石はその場を去る。
去り際、千石の顔には……………―――――笑みが浮かんでいた。
何かを企む、その笑みが。
さあゲームの始まりだ。
僕が鬼。
君がエモノ。
逃げ切れば君の勝ち。
捕まれば僕の勝ち。
楽しい、楽しいゲーム。
君の勝率はゼロ。
そのことに気づくのはいつかな?