先輩、助けてほしいです!!」


バスケをしていたはその声で振り向いた。
聞き覚えのある声は、も可愛がっている壇の声で。
試合中だったは、流れる汗を拭いながら壇に話しかける。


「どうした?千石が何かやったのか?」
「す、すごいです先輩……なぜ分かるんですか?」
「そりゃいつものことだからだろ。……で、用件は?」
「あ、そうでした!えっと…………千石先輩が見つからないのです!!」


またか、とは溜息をつく。

この間は教師に授業に出ない千石を捕まえてくれと言われ。

その前は伴爺に千石くんを探してきてくれませんかねぇと言われ。

その前の前は千石の両親にまで、夜遊びが盛んな息子を捕まえてくれと言われた。

それ以外にも数えればキリが無い。
見つける、探す。
この行動を何度取っただろうか。
溜息もつきたくなるものだ。


「まったく………皆俺に頼みやがって………」
先輩が絶対に見つけてきてくれますから……みんな信用しているのです」
「わかってる。お前は先に戻ってな。すぐに千石を引き摺って行くから。南にもそう伝えてくれ」
「了解です!」


元気よく去っていく子犬のような後輩を温かな目で見送り、はキャプテンに千石探しの旨を伝える。
いつものことなので、もう特にお咎めは無い。
それってどうなのか、とは再び溜息をつきながら千石がいそうな場所へと足を向けた。






















「せ〜ん〜ご〜く〜」
「うわぁぁぁっ!!」


地獄から這いずってきたような低い声を聞いて、屋上の給水塔で眠っていた千石は飛び起きた。
心臓がバクバクしているらしく、心臓を押さえて深呼吸している辺り、相当びっくりしたらしい。
が、そんな千石の前に仁王立ちするは。

まるで般若のようだったと後に千石が語る。


「お前なぁ……サボったり寝たりするんなら俺が見つけられないところでやってくれよ。お陰で俺はお前の保護者扱いだぞ」
「そう言われても……がすぐ俺を見つけるんだから悪いんじゃない?」


まるで自分は見つからないところに隠れてますーと千石は言っているようだ。
は微かにこの馬鹿、と呟くと千石の隣に腰を下ろす。


「仕方ねぇだろ。お前、すぐ見つかるんだから」
「…………だから見つかるんだよ
「うん?何か言ったか?」
「いーやー、べっつにー」


いきなり拗ねた千石はつーんとそっぽを向いた。
子供のような千石に、は本日三度目の溜息をつく。
呆れた、という感じの溜息だ。


「お前なー、見つかりたくないんならもっとうまく隠れろよ」
「隠れてるよ!現に南とかには見つかっちゃいないし」
「だーかーらー、俺には見つかるんだからそれは隠れたとは言わねぇの!」


分かってないなー、と二人は心中で同時に呟いた。
が、それはもちろん声に出していないのでお互いに伝わらない。
千石も先程のと同様の、溜息をついた。



なーんで分かんないのかなぁ………………これだけヒントあるのに。
そもそも、にだけ見つかるように隠れてるんだからさ、いい加減気づこうよ。
ほんと、鈍いなァ……………。



自分の想いが報われてない、と千石は再度溜息をつく。
その溜息にむっとしたのは、紛れも無くだ。


「なんだよ、人がせっかく探しに来てやってるのに」
「うん、それは分かるよ。でも………なーんで気づかないかなぁ…………こりゃもう少し積極的に行くべき?でも(本命は)やっぱ大事にしたいしなぁ………」


を放置してぶつぶつと呟き始める千石は、はっきり言って怪しい。
どうせまたナンパのことでも考えているんだろう、と見切りを付けたは給水塔から飛び降りる。
そして、綺麗に着地。


?」
「俺はお前にいつも構ってられるほど暇じゃねーの。お前、見つかったんだからテニス部に戻れよー」


ひらひらと手を振りながらは去ろうとする。


嫌だ。

行かないで、


そう、千石は反射的に思った。
だから、思わず。





「な、っ千石――――!!!」





給水塔から飛び降りてしまった。
もちろん、下には
案の定、は千石の下敷きとなってしまった。


「痛〜っ、この馬鹿ッ!!何してんだよ!」


咄嗟のことで受身が取れず、激しく背中を打ちつけたは、自分の上にいる千石に怒鳴る。
そんなは顔を上げない千石にブチギレる寸前だ。


「聞いてんのかよ、千石!!!」


は、強引に千石の髪を掴み上げ、無理矢理顔を上げさせる。
その、痛みに眉を顰める千石の表情に――――


は驚愕した。


「おま…っ、なんで、泣いてんだよ………………」


千石が、ただ静かに涙を流していたから。
先程まで怒鳴っていたは動揺し、その頬を両手で挟む。
髪を掴み上げたときとは打って変わって、優しい動作。


「どこも打ってないよな?それともどこか痛むのか?ほら、言ってみろ」


ぺたぺたと千石の全身を確かめるは必死だ。
上半身だけを起こし、覆い被さるような千石をひたすら心配する。
やがて、の言葉に反応するように千石は呟いた。


「――――…たい」
「ん?もう一度、言ってみ?」







「 ―――……心がイタい 」







ぼろぼろと涙を零しながら、千石は泣く。
は再び驚愕しながらも、千石をあやすように背中を撫でた。
ただ、ひたすらに。



俺は、卑怯だ………が心配してくれるって分かってて、泣いてる。

でも、胸が痛いのはホント。

心が痛いのもホント。

誰にでも与える優しさが、今は俺だけが独占したくて。


ホントに、

涙がとまらないよ、






それぐらい、君が好きなんです。









「千石………落ち着いたか…………?」


普段より優しいの声に、千石は安心したように頷いた。
頭上でほっとの息が零れる。
そんなをぎゅっと、千石は抱き締めた。


「……まだ甘え足りないのか?子供だなぁ…………」


そんなことを言いつつも、父性本能を擽られるのかは大して抵抗もなく千石を抱き締め返す。


それは千石の望む、恋人同士の抱擁じゃなくて。

まるで、それは、親子のような抱擁。


それに気づいていた千石は、


いきなり。


の腕を振り解いて駆け出した。




「千石!?」




の呼び止める声を無視して、走る走る走る。
やがて千石の耳に、の自分を呼ぶ声と走る音が微かに入ってきて。






千石は、笑みを浮かべた。






















――――こうすれば、あなたは俺を見てくれるでしょう?




だからまた、かくれんぼをしよう