その日は珍しく、部室のドアが開いていた。
そのことに、手塚は眉を顰める。
鍵当番である大石が今日は休みのため、今日は部長である手塚が部室を開けなくてはいけないはずだった。
だから早く来たのだが、なぜか部室は開いている。
鍵は三つある。
一つ目は顧問の竜崎が持っているもの。
二つ目は部長である手塚が持っているもの。
そして最後の三つ目は、鍵当番である大石が持っているものだ。
一つ目はそう簡単に貸し出しはしてくれない。
二つ目も同様だ。
なぜならそれは、手塚が現在手にしているからだ。
そして三つ目は。
大石が誰かに託さない限り、ここにはない。
きっと大石が渡したのは、ダブルスパートナーである菊丸。
そう当たりをつけた手塚は、迷うことなくドアをひいた。
「あっはっは、俺の勝ちだな!まだまだだね、菊丸英二クン?」
「ブラックジャックなんか運じゃん!」
「その運に見放されたのは、英二だろ?残念でした!ということで、これは貰おう」
テーブルの上に繰り広げられたトランプ。
が手にしている、ただのポッキー。
悔しがる菊丸。
手塚は冷静にこの状況を分析してみた。
………まず、テニス部ではないがここにいるということは鍵、を十中八九持っている菊丸が招き入れたということだ。
そしてトランプ。
これはの所持品だ。
この間、教室でジジ抜きに参加させられたからそれはよく分かる。
そしてこの盛り上がりようは…………………六時限をサボった、ということだろう。
現に教室にがいなかった、と手塚は思い出す。
二人は手塚に気づいていなかった。
余程、ゲームに夢中になっていたということだ。
「、菊丸。何をしている」
「「て、手塚……」」
案の定、二人は青い顔をして冷や汗をだらだらと流している。
手塚とその二人は終始無言で、見詰め合った。
(ちょ、マジで怖いじゃん手塚!!どうにかしろよ菊丸!お前ンとこの部長だろ!!)
(だって、同じクラスの隣の席じゃん!それに三年間一緒のクラス!!付き合いはそっちのほうが長いじゃんか!!)
アイコンタクトで会話をすると菊丸。
誤魔化すようには、戦利品のポッキーを開け、口にする。
それを見逃す手塚ではない。
「菊丸。確かそれはこの間、大石に没収されたものじゃなかったか?」
「そ、そうだっけ…………あはは、覚えないや」
「つか、俺は関係ないね!」
標的が菊丸になったことで安心したのか、口にくわえたままポッキーを食べる。
だが手塚だって、を見逃したわけではない。
「もだ。お前は部外者だろう。それにここで菓子類を食べることは禁止だ」
「俺は部外者だから知りませーん、手塚ぶちょー」
ふざけたような言葉もいつもどおり。
飄々とした態度では手塚ににっこり言い渡す。
手塚とて、不祥ながらと三年間同クラスだった身だ。
のあしらい方を知らないわけは無い。
「なら今知ったな。さあ、そのポッキーを渡せ。それとそのトランプもだ」
「嫌だね!」
きっぱり言い切り、つーんとそっぽを向く。
だがやがて、がにやりと不敵に笑った。
手塚は知っている。
こんな笑いをするは、乾風に言って「良からぬことを企んでいる確立、100%」だ。
思わず、手塚は後退りをしそうになるがの行動の方が一歩、早かった。
「、―――っ!?」
止めようと口を開いた途端、何かを突っ込まれる。
落ち着いてみればそれは、ポッキーだった。
驚きのあまり硬直する手塚を見て、はさらに笑う。
楽しそうに。
「ポッキーゲーム開始♪」
手塚が銜えている方とは反対の方をは銜えた。
そしてそのまま、ゆっくりと食べ進む。
それは手塚が硬直している間にどんどん進み。
半分以上過ぎて、もう少しで手塚の唇に触れるというところまで来てしまった。
そこでようやく手塚は我に帰る。
このままだと(色々と)ヤバい――――――――!!!
ばっとポッキーと身体を離した手塚の判断は正しい。
が、それは手塚本人にとってであってにとってはそれが一番の狙いだった。
残されたポッキーをカリカリと食べ、唇を一回舐めて勝ち誇ったように言う。
「の勝ちー。ダメじゃん、手塚」
「ふふん、そのままキスされると思ったかー?このムッツリスケベめ!」
高らかに笑うに、にやにやしている菊丸。
それを視界の端で取られた手塚は。
どこかがぶちっと切れたような音を聞いた。
は先程の攻撃で満足したのか、またポッキーを銜えている。
それを見た手塚は大股でに歩み寄ると。
そのポッキーの反対側を銜えた。
予想外の手塚の行動に、は目を丸くした。
菊丸も呆然としている。
そんな中、手塚の食べ進める音だけが響いた。
止まることなく進むそれは、あっという間にの唇に触れる寸前まで来た。
先程の手塚はそこで口を離した。
だが今の手塚に迷いは無い………!
「――――――――ッ!!!!」
今度はが驚く番だった。
そのまま手塚はの唇に触れ、まだ銜えたままのその先を求めて深くくちづける。
身じろぎするの身体を抱きすくめると、更にそれは深まった。
ガタガタッ
そんな音を立てて、菊丸が慌てて部室を出て行く。
賢明な判断だ、と手塚は心の中で呟いておいた。
閉じ込めたは――――強く手塚の胸を叩く。
仕方がない、というように唇と身体を離すとは置いてあった椅子にもたれかかった。
その顔は真っ赤だ。
「おま……っ、英二が見てただろ………!!」
「それがなんだ。――――煽ってきたのはお前だろう」
もう一度軽く唇に触れ、離す。
この見た目ほど気は長くない男に、最後は叶わなくなる。
は知っていた。
だから自分は振り回す、ということを。
「――――俺はお前が思うほど、気は長くない」
ああ、知ってる。
振り回してるつもりなのに、振り回されてる。
お前は俺を翻弄してばっかだ。
でもタダで振り回されてやんねー。
小さく呟くと、もう一度ポッキーを銜え――――――――――――
甘いゲームは始まった