部屋を出たところで、はラビに話しかけられた。
壁に寄りかかる格好でいたラビは軽く壁を蹴ると、の前に立つ。
は不思議そうに問いかけた。


「コムイに用でもあるのか?」
「いーや、俺が待ってたのはの方」


待ちくたびれた、とでも言いたげにラビは肩を鳴らした。
その様子には苦笑し、別れる前にやったようにキスを落とす。
これで見逃せ、というように。


「………これじゃ、嫌さ。こっちがいい――――――」


ぐい、とのネクタイを引き、ラビはそのまま唇を重ねようとする。
は目を見開き、身体を引こうとするが、ネクタイを引かれたままでそれは叶わない。



二人の唇が触れ合う――――――



「ラビ、何してるの?」


…………その瞬間だった。
向こうからリナリーが現れ、寸前のところでそれは中断された。
ラビは引きつった笑みを浮かべ、リナリーを見やる。


「え、えーっと………」
「言えないこと?」


リナリーの言葉に薄っすら、怒気が含まれている。
こりゃ完全に見られてたな、とラビが覚悟しかけたときだった。
ラビの隣に、が立った。




「目にゴミが入ってたのを、ラビに取っててもらってたんだよ。なぁ、ラビ」




え、目にゴミって……俺、にキスしようと思ってたんだけど。

そうラビは思うが、ちらりと見たの目は「話を合わせろ」と訴えていて。
リナリーが怒ったときは怖いと分かっているラビは、きちんと話をあわせた。
そりゃもう、本当の話のように。


「そうさ。が目にゴミ入っててうまく取れねぇっていうから………うん」
「そうなの?」


さすがにリナリーは(に対して)厳しい。
まだ疑いの目を向けるリナリーは、くるりとの方を見て問うた。
はにっこりと、完璧な笑みで肯定する。


「ああ。お陰でうまく取れた」


言い切るものだから、リナリーだって信用しないわけにはいかない。
が、ラビにはじとーっと目を向けて明らかに警戒をしている様子。
そんなリナリーはに一言かけた後、室長室のドアに手をかける。


「あ、そういえば……ヘブラスカが呼んでた、って聞いたわよ」
「ヘブが?珍しいな…………」
「そうね。そういうわけだから、行ってあげて。兄さんは私が見ておくから」
「頼んだぞ」


ひらひらと手を振ってリナリーを見送り、ドアが完全に閉まるのを見届けた後。
は眉を寄せて、ラビの方を向いた。


「お前なー……冗談も対外にしろよ?」
「な…っ、冗談じゃないさ!!」
「はいはい。分かった、分かった。でもあーゆーことは大好きな人にやるモンだぞ?そこんとこ履き違えるな」


記憶したかー?とふざけたようには言う。
が、ふざけたように言われてもラビは困る。
何しろ、ラビにとって本気一直線なのだ。
が大好きな人で、だから思い切った行動に出た。
が、対象の人物が本気にしてくれないので話しにならない。
ラビは一瞬だけ、悲しげに瞳を眇めたがそれをに悟らせなかった。
を困らせたく、なかったから。


、にとって……俺とか………ユウとか、どういう風に見てる?」
「―――なんだよ、藪から棒に」


ゆっくりとした速度で歩いていたは歩みを止める。
振り返れば、ラビが少し俯くようにしていた。
いつもの天真爛漫なラビらしからない、表情だ。
だからは、ラビに歩み寄ると静かにその頭を撫でた。
優しく、壊れ物を扱うように。


「―――――家族、だな」
「………………………………家族?」
「ああ。お前たちだけじゃなくて………コムイもリナリーもリーバーも科学班の連中も探索部隊のやつらも、教団のやつらも」


そういうの顔は優しくて。
ラビはそっと顔を上げた。
目が合うと、はそっと笑む。
言葉は、続けられた。


「みーんな、家族。俺の大事なモノ」
「…………特別、はいないっていうこと?」
「トクベツ、ねぇ………今ンとこそんなヤツはいない。そんな暇も無いしな」


なんたって俺は世界を飛び回る探索部隊だぜー?

おどけるに、ラビはくすりと笑う。


ああ――――彼は変わらない。
いつもこうだ。
人を振り回して、夢中にして、でも………きちんと見てくれる。
そんな彼だから、自分は好きになった。
ハンパないくらいにぶいだけど…………絶対、気づかせる。
自分は家族なんだから、時間はまだある。
トクベツ、になるために――――――――――――がんばる。


ラビはさっきまでのセンチメンタルな自分を追い出し、笑う。
いつもの、自分。
そう、意識して。


「……なら、俺はのトクベツになるさ!」
「――そんなセリフは俺の身長を越えてから言えー」


笑い合う、いつものように。
すると不意に、が屈んだ。
ラビの身長にあわせるようにすると、そっと耳に口を近づけて………囁く。





「変なとこでお前は大人なんだから―――――時々、心配になる」


















だから、あまり心配させるようなカオするなよ



泣きたいときは――――――呼んだら、行ってやるから


















呆然とする、ラビ。
は最後にもう一回、撫でて…………ラビとは違う方向へ歩き始める。
しばらくしてラビは………照れたように笑った。


「ばーか………だから、付け上がりたくなるんさ」


そうして、一歩歩くラビ。


その顔は晴れやかだ。






















―――――――――ラビがの方向音痴を思い出し、慌てて追いかけるまであと数秒。