「コムイー、約束通り来たぞー」


室長室に入るとは早速、声をかけてみた。
が、声をかけても返事はない。
ただ、机に書類の山があるだけだ。
しかもそれは一部、崩れている。
はそれを見て静かに机に回り込むと、埋もれているコムイを引きずり出した。


「生きてるかー?」


ぺちぺちとコムイの頬を叩くと、目が薄っすらと開く。
どうやら埋もれている間に眠ってしまっていたらしい。

―――さっきと同じじゃないか、この居眠りめ。

そう呟くとはコムイに軽く口付ける。
本当に、軽く。


「俺がサービスしてやってんだ。早く起きろ」


まだ夢を見ているようなコムイに、くすくすと笑いながらは言う。
そして今度はからかうように、唇を避けて顔にキスを降らす。
そのくすぐったさに身を捩りながら、コムイは瞬きを繰り返し焦点をようやくにあわせた。


「おはよう、コムイ」


最後にもう一度、唇に落とされるキス。
目覚めたコムイはごく自然に深く口付けようとして―――固まった。





「…あと一歩遅かったら風穴、空いてたぞ」




にっこり笑って、はコムイの米神に当てていたハンドガンを下ろす。
安全装置をまたセットしているところを見ると………どうやら先程まで外していたらしい。
変なところで本気なに、コムイはほっと胸を撫で下ろした。
……本当に心臓に悪い。


「………触れさせてくれるのにそれ以上できないなんて、ある意味拷問だよ?
 ボクだって男なんだから」


よいしょ、と椅子に座り直し、コムイは立っているを見上げた。
はきょとんとした顔でコムイを見、不思議そうに言う。


「大丈夫だって。お子さまエクソシスト's含めてぜーいん、頬にするだけ。唇にされたぐらいでそう思うのはお前ぐらいだよ」


コムイの額を小突き、は笑い飛ばす。
が、本当の危険性を分かっていないのは本人だけだ。


(お子さまって……あの子たちも一応男だよ?それに年だって思春期っていう難しいおトシゴロ…………くん、分かってるようで分かってないよ)


はあ、とあからさまに溜息をつくコムイ。
ラビなんか誰が見ても明らかな行動をとるのに、肝心の本人は気づいていない。
これは不幸なことなのか、幸運なのか。
再び溜息をついたコムイを見て、は眉を寄せる。


「なんだよ。そのわかってねぇなお前、的な溜息は」
「…………………うん、もういいよ。くんは報告書書いてねー。ボクはこれ終わらせるから」
「…………話逸らしたな」


恨めしそうに呟き、は渋々と報告書を受け取る。
そのままソファに座ると、無造作に転がしてあったペンを取って書き出す。


カリカリカリカリカリカリカリカリ…………



互いのペンの音だけが響くこの空間。
先に耐えられなくなったのは、コムイだった。


くん」
「あ?」
「好きな人、いる?」


ぐふっ!!
は自分の唾液で咽た。
いきなり話しかけてきたと思えば、こんな話だ。
少なくとも男二人が真剣に話し合うことじゃない。


「お、お前な………違うこと聞けよ」
「えー、だって暇でしょ?」
「そりゃそうだけど…………俺らは乙女か」
「だって気になるんだもん☆」


…………ぶりっ子になったコムイに、今度はが溜息をつく。
呆れの溜息だ。
が、放っておくと何回もコムイは話をぶり返しそうだったので素っ気無く「いない」と言い返す。
それでもコムイはしつこかった。


「面白くないなぁ………リナリーだってあんなに可愛いし、ボクだってかっこいいでしょ?」
「リナはともかく、お前がかっこいいかどうかは知らん」


ソファから立ち上がり、書類の山に報告書を追加する。
コムイはそれに気づいたのか、その書類を手に取った。
途端に、ふざけた雰囲気が一蹴される。


「これまた、たくさんのアクマに遭遇したね………」
「強さ自体は大したことはなかったぜ。ただ――――時間稼ぎにはなっただろうな」
「イノセンスをただで渡したのも気になるね。それと……………くんに一つ情報がある」


コムイは真剣な目つきでそういうと、引き出しから一束の書類を出した。
結構、分厚い。
黙ってそれを受け取ると、補足だと前置きをしてコムイが話し出した。


「その報告はとっても新しいよ。ついさっき、届いた」
「……………そうか、どうりで時間稼ぎをしたはずだ」
「分かったみたいだね?話してくれるかな」


こくりと頷くと、は自分の報告書と受け取った書類を並べる。
始めのページにはいずれも、地図が付いていた。
が向かった場所と、その情報があったとされる場所だ。
はそこを指差す。


「俺が行った村の背後に広がる大きな森。それと情報にあった森は繋がっている。それは間違いない」
「うん、そうだね。今回はその森に以上はなかったから調査は頼まなかったんだけれど………」
「俺がこっちでイノセンスを手に入れてからだな。――――異常が起こっているのは」


まるで、が任務を終了させたのを見計らって事が動いたようだ。
現に書類には、その森で多数のアクマが確認され、また行方不明者が出ていると書かれている。
タイミングが、良すぎる。


「俺の任務はさしずめ、前座ってとこか……」
「そうかもしれない。それにここでは…銀髪に黒い目隠しをした人物が確認されている」
「……………………」


そのキーワードを聴いた瞬間、が黙りこくった。
捜し求めていた人物がそこにいる。
そう、分かってしまったから。
動揺と焦りは隠せない。


「……すぐに行く。アイツを止められるのは俺だけだ」
「そうだけど、その行動は早すぎる。罠の可能性もあるんだよ。それに、そこで確認されたアクマはレベル2はある。
 いくらキミでもそう簡単に行かせるわけにはいかない」


行くなら、エクソシストと。
コムイの目はそう語っていた。
も分かっている。
だが、まだエクソシストたちは……あの子達は。
まだ何も知らないのだ。
リナリーを除いて、あの二人は。


「今、色々と他の情報も集めてる。だからもう少し待って。キミにはまだ休息も必要なはずだ。
 ………お願いだから、無理をしないで。くんはいっつも無理するから―――」
「………………兄妹そろって同じこと言うんだな」


はコムイの言葉に苦笑する。
自分を心配しているのだと分かっているが、逸る気持ちは抑えられない。
ここで逃せば―――いつ、会えるか分からないのだ。
けれども焦ってはダメだと、訴える自分もいる。
休息が必要なのも確かだ。
前回の任務ではアレを使ってないとはいえ―――アクマに追い掛け回されている。
身体は限界だった。


「…………と に か く っ!!くんは休んでて。次の任務は早くても二日後にするよ」
「明日でいい。―――これ以上、俺を焦らすなよ」


一日寝れば身体は回復する。
それが分かっているから、そう言った。
リナはまた心配するかもしれないけれども―――今回の任務だけは外せない。
意地を張るに、コムイは難しい顔をしている。


くん……………」
「この任務が終わったら―――しばらくは休む。だから……頼むから、行かせてくれ」









のお願いを……………コムイが無下にできるわけがなかった。



















出発は明日、午前中。
担当の探索部隊は、
同行エクソシストは未だ不明――――――――――



















くんの言葉が微妙にえろいです)