「あらー、じゃない!元気だった?心配したのよ」
「見ての通り元気だぜ。で、ジェリー。早速だけどいつもの頼む。リナの分もな」
「とリナリーちゃんのためなら腕を振るうわよー!!」
「ふふ、楽しみにしてるわ」
ジェリーとリナリー、それに帰ったばかりのによるそんな会話が、食堂にて交わされていた。
とても平和である。
「よ、神田。久しぶりだな」
蕎麦を食べる神田の正面に、は腰掛けた。
手にはご飯に味噌汁、それにミートソーススパゲティにハンバーグという和洋ごちゃまぜ状態のトレイ。
プラス、グリーンレタス少々。
そんなの隣には、リナリーが腰掛けた。
箸を止めた神田は、ちらりとを見やる。
「……今度は無事に辿り着けたんだろうな」
「ん、サンキュ。お前がいなかったら、大変な目に会うとこだった」
箸を割り、「いただきます」と呟くと味噌汁を一口飲む。
続いて、スパゲティを箸で食べた。
器用に、音も立てずに。
「お前、器用だな」
「あー?そりゃ、蕎麦とかうどんだったら俺も啜るぞ?でもこれはスパゲティ。そういうわけにいかねぇし」
笑いながら、神田が箸で挟んでいた蕎麦をそれまた器用に奪い取る。
神田が蕎麦の存在に気づいたときは既に、の胃の中だ。
「テメェ…………」
「あー、怒らない、怒らない。これやるから」
そう言いながらは綺麗に等分されたハンバーグの一部を、神田の口の中に放り込んだ。
いきなりのことで、神田はそのまま飲み込むしかない。
が、神田の目はを睨んでいた。
咀嚼し、ハンバーグを飲み込んでいざ、に文句を言おうと口を開こうとした神田だったが。
言うタイミングを逃した。
「っ!!久しぶりさ!」
「今度はラビか?久しぶりだなー」
座ったままのに後ろから抱きついたのは、ラビ。
どうやらラビもとほぼ同じ時期に帰ってきたらしい。
(に対する)スキンシップ大好きなラビは、これまたぎゅーっとを抱きしめる。
は笑って、それを許していた。
「今回も帰り、遅かったけどまた迷ったりしてた?」
「…………痛いとこ突くなよ」
探索部隊であるくせに、重度の方向音痴である。
今回も帰りが大幅に遅れていた。
いつもなら、特別に作ってもらったゴーレム<アガサ>がそれをサポートしてくれるのだが、今のの周りにはその姿は見えない。
「アガサを科学班の連中に預けたままうっかり出てな。不本意ながら、また迷った」
「………教団内で迷うヤツなんかお前ぐらいだろ」
「またくん、迷ったの?」
リナリーと神田の言葉には苦笑した。
の方向音痴は教団内で周知の事実だ。
そしてもそれを自覚している。
「でも教団内だからまだいいわよ。外で迷ったらどうするの?」
「こいつのゴーレムがいるだろ。ナビ付きなんだから迷うわけねぇ」
そうリナリーと神田は言うが、ラビはそれを聞いて面白そうに笑った。
は居辛い、というように顔を背ける。
そんなの行動にリナリーと神田は首を傾げた。
「まさか、お前………」
「そのまさかさ。俺の知ってる限りじゃ、5回に1回は迷ってるぜ?」
呆れたように、神田はを見やる。
はその視線を受けて、苦笑するしかない。
「迷うモンは迷うんだから仕方ねぇだろ」
「物には限度ってものがあるだろうが。それぐらい考えろ」
「いくら考えたってどうにもならないことがあるんだよ。ルールだってそう簡単に変えられないだろ?あれと同じだ」
「それはちょっと違うと思うんだけど…………」
リナリーが横で苦笑しているが、構わず神田とは話を続ける。
なんだかんだ言って、つっかかる神田だが実際のところとの仲はさほど悪くない。
お互いがお互いを認めているので、少々の言い合いはあるが本気の喧嘩にまでは発展していないのが現状だ。
悪化するときといえば。
「ぁ、ユウばっかじゃなくて俺にも構ってほしいさ」
ラビが絡むときぐらいである。
ユウ、と下の名前で呼ぶラビを神田はいつも敵視しているし、はそれを止めなくてはならないのでまた大変。
リナリーはある意味最終兵器で、よっぽどのことがない限り介入はしない。
だが、がいることで被害はいつも少ない。
いなかったら、甚大ではあるが。
「あー、はいはい。分かったからとりあえず離れなさい。ご飯が食べられないだろ?」
ラビの頭をぽんぽんと軽く叩くと、はごく自然にラビを引き剥がした。
本人は残念そうにしているが、渋々離れまたそれぞれが食事を取り始める。
「―――で、今回もは単独任務さ?」
「ん、まーな。まあ怪我もしてねぇし、イノセンスは確保できたし上出来だろ」
「………でもまた服はぼろぼろなのよね」
隣でリナリーが苦笑する。
これで何着目だよーとラビも呆れるが、その声が大きく神田に睨まれた。
ラビは肩を竦め、いくらか声を抑えた形でに話しかける。
「でも毎回毎回、なんでぼろぼろになるんだか。普通にやってたらそんなにぼろぼろになんねぇだろ?」
「こっちだってできるならそうしてぇよ。でも向こうは待ってくれないからなー……なんたってアクマだし?」
しかも殆ど、知能なし。
はそう言って笑うが、実際のところ笑えるものではない。
いつもが相手にしているのは、レベル1と云えども数が半端ではないから。
そしては、エクソシストではない。
だからアクマの攻撃を一度でも食らえば―――ウィルスで死に至る。
だがどうして探索部隊であるが班行動ではなく単独行動なのか、エクソシスト並みの激務を与えられるのか。
知る者は少ない。
「ま、俺のことはいい。無事に帰ってきたんだからそれで十分だろ」
「そりゃそうだけど、あまり無理すんなよ?」
「そうよ。くん、ちょっと自分に無頓着な部分があるから」
「それに方向音痴だしな」
すごい言われようだが、それも全て悪意から来ているものではない。
純粋にのことを心配しているのだ。
それが分かるから、は笑って言える。
「ちゃんと気を付けますって。さて、俺はそろそろコムイのとこ行くかな」
「えーっ、まだいっぱい話したいさー」
ぶーぶー、とラビからブーイングが飛ぶ。
まるで駄々っ子だが、は慣れたようにラビに顔を寄せる。
「はいはい。これで勘弁なー」
ラビの頬にキスを落とすと、は次にリナリーの頬にもキスをする。
二人が動じることなく、受け止めていることが神田には相変わらず恐ろしい。
「はい、次。神田ー」
「俺はいらねぇ!!」
「謙遜しなーい」
これで何回目だろうか。
神田もどうせやられるのだから諦めればいいのに、毎回毎回無駄に暴れる。
が、にとっては神田を宥めることなどアクマから逃げ切ることより簡単だ。
「修行付き合ってやっから、機嫌直せ。な?」
「………………」
無言は肯定。
そう見なすとは約束のようにキスを落とす。
それこそ、神田がまた暴れないうちに。
「じゃあなー」
ひらひらと手のひらを振りながら、は食堂を後にした。
それを見送る、エクソシスト三人組。
「はいっつもほっぺさー。そろそろ口にしてくんないかなー」
「俺はそろそろ本気でアイツが嫌いになりそうだ」
「でも嫌いになった試しがないのよね」
ラビは不穏なことを言い、神田は愚痴を漏らす。
が、神田の愚痴はすぐにリナリーに消された。
本当に神田がを嫌った試しなど、ないのだから。
神田はまたぶすっとした顔に戻ると、今度は先程の不穏な発言をしたラビを睨みつける。
まるで八つ当たりのように。
「その前にテメェ!何ふしだらなこと言ってやがる!!」
「あっれー?ユウ、ヤキモチ焼いてんの??」
「…………………殺す」
ラビもそれを煽るような発言をするため、食堂は。
リナリーとジェリーが“キレる”まで、喧騒に包まれることになる。
(主人公はまさしくキス魔。まだ唇奪っちゃいないようですが)