早朝の黒の教団本部を歩く人物がいた。
フードに隠れ、顔は窺えない。
が、その服はぼろぼろだった。
ところどころに血が染み付き、切れている。
そんな服装の割に、彼こと・の足取りは軽やかだ。
探索部隊<ファインダー>特有のフードを取ると、朝日に艶やかな黒髪が輝く。
誰もいない廊下を歩き、が辿り着いたのは司令室だった。
そのまま、軽く二、三度ノックをする。
「・・・・・・・・・」
そして返事がない、ということでは勝手にドアを開けた。
そのまま積まれた書類の間を抜け、はソファーの前に立つ。
ソファーでは死んだように眠る室長、コムイ・リーがいた。
「・・・コムイ」
「・・・・・・すぴー」
「コムイ!」
軽く頬を叩くと、滅多に起きないはずのコムイはうっすら目を開けた。
まだ焦点が定まらないのか、目の前のをぼーっと見つめる。
「、くん・・・・・・?」
寝惚け眼でものことは分かったのだろう。
コムイはへと腕を伸ばす。
すると次の瞬間、の視点は回転していた。
コムイ越しに天井が見える。
そのことではコムイに覆い被されていることに気づいた。
「・・・コムイ。悪ふざけは」
やめろ。
という言葉は途中で止まった。
コムイの唇が落ちてきたからだ。
更に手がの服にかけられ――――
がキレた。
「いい加減にしろ」
いつの間にかハンドガンを手にしていたはコムイの額に銃口を突きつけた。
が、コムイの動きは止まらない。
遂にはシャツをひっかけただけの状態になってしまった。
一回、舌打ちをするとは銃口をずらした。
「この大馬鹿野郎が」
声と共に銃声が周囲に響き渡る。
の放った銃弾は、コムイの頬を霞め、天井に食い込んでいた。
おかげでコムイの目も一発で覚める。
更にバタバタと複数の足音も聞こえ・・・・・・
「兄さん!」
「室長!」
リナリーとリーバー及び科学班数人がドアを開けて現れた。
それには手をひらひらさせることで答える。
ちなみにコムイはの服に手をかけた状態で固まったままだ。
「に、兄さん・・・・・・?」
「、お前、遂にヤ・・・」
「られてねーよ。早とちりすんな、リーバー。ほら早くどけ」
コムイの下から抜け出し、はコキコキと肩を鳴らした。
服は依然、はだけたままだ。
「さん、ボタン閉めましょうよー・・・」
「はいはい」
誰かのそんな言葉を聞き流しながらは、ハンドガンを装てんし始めた。
その音にコムイは顔を引き攣らせる。
「くん・・・・・・な、何をしようとしてるのかな?」
「どっかの色ボケに風穴開けてやろうかと思ってな。その準備中だ」
装填を完了し、は銃口をコムイに向けようとした。
が、どんなにぐうたらな上司でも見捨てるわけにはいかない。
リーバーを始めとした科学班はに縋りついた。
「早まらないでください、さんっ!!」
「あんなのでも俺たちの上司なんです!」
リーバーがを羽交い締めにして銃口をコムイに向けさせないようにし。
ジョニーやろくじゅうごたちはそれぞれ、腰や足に抱きついていた。
さすがにもこれでは動けない。
だがコムイはそうでもなかった。
「・・・・・・拘束されたくんもまたイイ――――ぐふっ」
そんな発言がコムイの口から飛びたした途端、リーバーたちはすぐにから手を引いた。
が、コムイ相手に銃弾を放つのは惜しいのか、手より足が出る。
の繰り出したキックは見事にコムイに命中した。
コムイはそのままべしゃっと床に伸びてしまうが、誰も気を留める人はいない。
「・・・・・・悪いな、リナ。加減ができなかった」
「ううん、悪いのは兄さんだもの。ちょうどいい薬よ」
リナリーはそう言いながらの服のボタンを止めていく。
さながらその様子は夫婦だ。
「・・・リナはこんなにいいこなのにな」
は溜め息をつきながら、リナリーを抱き締めた。
何も知らない他人が見れば、まるでラブシーン。
だがとリナリーは互いに兄と妹のようにしか思っていない。
そのせいもあるのか、コムイは床に伸びたままだ。
情けない姿で。
「さて。改めて、久しぶりだな。元気にしてたか?」
「ええ。何も問題ないわ」
「俺たちゃ、いつも通り残業三昧よ」
リナリーは元気よく、リーバー以下科学班は溜息をつきながら答える。
まったくいつも通りの光景に、から笑みがこぼれた。
そんなの様子に、リナリーはほっと息をつく。
「―――…よかった、くんが無事で」
「いつも言ってるだろ?俺は大丈夫だ、ってな」
「でもくん、いつも単独任務が多いから………それに、服もいつもぼろぼろで帰ってくるでしょ?」
「……悪いな、心配かけて」
「ううん。くんが無事ならいいの。でも、あまり無茶しないで」
リナリーの真摯な言葉に、は安心させるように笑って頷いた。
リーバーたちもうんうんと、リナリーの言葉に同意するかのように頷く。
「あんま、無理すんなよ。お前、普通の探索部隊たちよか危険任務が多いんだからよ」
「何言ってんだ。あいつらの仕事と俺の仕事もあんま変わんねぇーよ。命、張ってんだから」
「……そうか、そうだよな。悪い」
リーバーは、の蜂蜜色の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
任務帰りでぼさぼさだった髪の状態は、更に悪化する。
だがは何も言わない。
兄のようなリーバーを、は慕っていた。
「で、早速だけど服、頼むな」
「またか。何着めだよ、まったく………いい加減、団服着たらどうだ?探索部隊の服より長持ちするぞ」
「バーカ。探索部隊がエクソシストのを着れるかよ。第一、階級が違うだろ。俺はこれでいい。なんなら、探索部隊のも丈夫に作れ」
ボロボロになった探索部隊の服を脱ぐと、はワイシャツにネクタイを引っ掛けただけの格好になった。
少し、ギャップがある気がするがこれがのいつものスタイル。
緩くネクタイを結ぶと、はポケットからイノセンスを取り出した。
「今回ゲットしたヤツ。少しAKUMA<アクマ>に追っかけられたけど無事だぜ」
「くん、そういうのは私たちに任せてくれればいいのに」
「ついでだよ、リナ。そう心配すんな」
リナリーに優しく語り掛けるが、リナリーはなおも心配そうにを見る。
どうしても信じてくれないらしい。
苦笑を漏らすとは、コムイに向き直った。
「起きろ、コムイ」
「いたたた………ちょっとくん、最近ボクの扱い酷くないかい?」
「気のせいだ。それよりほら」
床に座ったままのコムイにはイノセンスを投げる。
それをコムイは床に落とさないように、キャッチした。
「これ、ヘブのとこまで持ってけ。俺はリナと飯食ってくる」
「そんな羨ましい!ボクも行」
「「アンタ(室長)は仕事!!」」
とリーバーにダブルパンチで言われ、コムイはがっくりと肩を落とす。
日ごろのツケが回ってきたようだ。
そんなコムイに、は耳元で囁く。
まるで飴と鞭を使い分けるように。
「………後で構ってやるから」
――――――――それは甘い、甘い、誘い
(受けなのに精神は攻めなくんです)