雨が降り注ぐ。
お袋が死んだときと同じ、雨が。
静かに、降り注いでいた。







ど う し て 大 切 な 人 が

い な く な る 日 は 雨 な の だ ろ う か。





















あの日、俺はいつも通りの授業を受けていた。
を気にしながら、問題を進めて。
差し入れと称して邪魔しに来る親父を夏梨と撃退して。
それをと遊子は傍で苦笑しながら見てる。
そんな、いつもの光景。
たまに、の伏し目がちな顔に見惚れたり。
やけに色っぽい首筋に目を惹かれたり。
多少、不謹慎だなーと思いつつも気がつけば俺は、を見ていた。
んでもって、に問題は出来たのかといわれる。
俺はいつも通り、ノートを投げやりに突き出す。
理由は簡単だ。
恥ずかしいから。
それ以外、理由なんてねーよ。


「はい、全部OK。この調子だとテストでも結構いけると思うよ。ところで、まだ早いと思うけど……志望校はどこか決めたか?」
「決めて………ない。まだ一年先だろ?」
「甘いね。目標があればそれに向けて頑張れるだろ?一応、作っておくことも悪くないよ。別に変えてもいいんだし」


そういうモンなのか?
中三じゃねーし、イマイチ実感が湧かないんだよな……。
でも確かに目標があった方がやりやすい気もする。


「………はどこの高校に行ったんだ?」
「俺?俺は空座第一だけど。家からも近かったしさ」
「なら、そこで。がそう言うんだからいいところなんだろ?」
「そうだけど……簡単に決めていいのか?一護に関わることだよ?」
「俺も他にいいところがあったら変えるしな。一応だ、一応」


まだ決まったわけじゃない。
それでも行きたいと思う。
が行ったところだから。

そこまで思って、俺は思った。



……なんか俺、すげー乙女…………?



そう思うと、なんか急に恥ずくなってくる。
あー……やべ、俺、マジでやばい。


「一応、ね。まあ、俺が行くんじゃないし一護がそれでいいならいいけど」


は微笑みながら、手を伸ばして俺の頭を撫でた。



子ども扱いかよ………。
そりゃ、から見たら子どもかもしんねぇけど、俺は男だぜ?
その気になれば、押し倒すことくらい…



「って、何考えてんだ俺!!」
「志望校のこと、だろ?」


いきなり叫んだ俺にはファイルを突きつけた。



うっわ、俺いきなり何言ってんだ……。
末期症状じゃねぇか、まるで。



さすがにバツが悪くなって、そのファイルを捲る。
そのファイルは、近辺の高校のパンフレット集だった。
さり気なく、の綺麗な字で色んなことが書かれてある。
それは学校で勝手にやってる説明会よりよっぽどいいような内容ばかりで。
はすごい、と改めて感心した。


「あげるよ、一護に」
「貰えねぇよ、が持っとけ」
「一護が持ってないと意味が無いだろう?」
「そうだけどよ、どうせまた来るんだから次でいいだろ」


最後の俺の言葉に、は僅かに瞳を揺らした。
灰色の瞳が、少し哀しげに揺れている気がする。
気のせいかもしんねぇけど、そんな気がした。
俺が言った言葉に、反応した?
けれども俺は大した事言ってない。
また、って言っただけ………。


?」


暗い顔をしているような気がして、俺は声をかけた。
訝しんでいた俺に気づいたのか、は次の瞬間、いつもの表情でいた。
いつもの、優しい顔。
だから俺もそんなに気にはかけなかった。
あえて、話題を変えた。


「そういや、この前、俺が高校に受かったら入学式見に来るって言ったよな」
「え、ああ……うん」
「俺、その時に言いたいことあるから」
「………うん」


の沈黙が気になった。
けれども気のせいか、と俺は思ってに促されるまま、また机に向かう。
そのまま、時間は過ぎていく。




いつもと同じように。
変わらぬ日常のように。




けれどもいつもは、日常は、少しづつ変わっていた。

その一片を俺が知ったのは、が帰るとき。
いつもと同じように、を見送るとき。


「またな、
「うん、またね」


いつもと同じ言葉を交わして、は玄関のドアノブに手を掛ける。
ゆっくり、ゆっくりスローモーションのように開いて、は出て行く。
その日に限って俺は、ドアが閉まるまで見送ろうとした。
そして、ドアが閉まる直前。
が振り返って、唇を動かした。
その声は届くこと無かったけど、俺には分かった。



“ごめん”



泣きそうな表情で、申し訳なさそうには言ってた。
あんな表情をしたを俺は初めて見た。
俺の知るはいつも微笑んでいて、優しい表情。
怒るときは怖かったけど、決して俺には泣きそうな顔は見せなかった。
そのが見せた、あの表情。


俺は、を追いかけたい衝動に駆られた。
それに従ってドアを開けたが、その先にははいない。


「足、早いな……」


そう呟いて、俺はまた家に戻る。


後になぜそのとき、俺はなぜ走って追いかけなかったのかと後悔する羽目になるとは予想もしなかったことだった。

























「なんで、だよ………」



雨が降る。



「約束、しただろ。俺の入学式、見てくれるって」



ざあざあと降る。



「伝えたいこと、あるって言ったぞ………」



煩いくらいに音を鳴らして降る。



「俺、まだ言ってねぇよ。伝えてねぇよ!!」



それは、俺をずぶ濡れにする。



「なのに………なんで逝くんだよ」



あの日と同じ光景を見せる。



「馬鹿野郎………ッ!!」



二度と見たくなかったのに。

雨は、俺から大切な人を奪う。

伝えてない、果たしてないものを残して、

奪い取る。

お袋のときもそうだった。

守るって言ったのに守れなくて。

あの時と同じ。

一歩も進んでない。

行き場の無い想いはどうしたらいいのか分からない。




「…………だ」



俺はその日、雨の音があるのをいいことに。

叫ぶように想いを言葉にした。

そして、の前で泣いたあの時から初めて。

俺は泣いた。



「好きだ、………っ!!」



でもそれは、誰も聞く事の無い言葉。


嗚咽と共にその言葉は、雨音に掻き消された。













この声が枯れるまで

叫び続けるよ、


「愛してる」。


君には

聞こえてないとしても―――

(それでも届けと願う自分がいる。叶わないことなのに)