「おい、あいつか?総隊長の孫って言うヤツは」
「ああ。真央霊術院に入ってないらしいが、相当の実力者らしいぜ」
「その噂、有名だよなー………だからいきなり席官入りか」




「やっぱり違うよなー。――――――相応のコネを持つ奴は」


























――――冒頭の会話は、の耳にもしっかり届いていた。
正式に入隊して、数時間。
書類整理などの雑務ばかりだが、その影で囁かれる言葉は聞こえている。

まあ、あながち間違ったことを言われているわけじゃないし…………気にするほどじゃないよな。
総隊長の孫なんていうのは嘘だし、コネで入ったといわれても仕方がない。

そう、は割り切っていた。
そんな陰口を叩く人もいるが、基本的に温和な五番隊だ。
に優しく声をかけてくれる人も多い。
もちろん………総隊長の孫、だから近づこうとしている人もその中に含まれている。
しかし気にしていてはキリが無い。
だからはそんな人たちにはやんわりと、陰口を叩く人は軽く流していた。
そうでもしなければ、だって疲れる。
疲れるというのは、笑顔を浮かべること、であるが。
さすがに市丸のように常時笑顔でいることは無理に等しい。


くん。ちょっと」
「なんですか?」


が呼ばれたのは、五番隊第三席の小町だ。
なんでもないようには答えるが、実はこの男が一番タチが悪い。
藍染や市丸に気に入られていることが気に入らないのか、数時間のうちで何度か指摘を受けた。
それが本当のことならも素直に受け入れるのだが、どれも当てつけのようなものばかり。
意図的にやっている、とが気づくとなるべく小町とは離れて接していた。
が、地位的にはより上の小町だ。
そう声をかけられてしまうと、断りきれない。


「これを技術開発局に持って行ってくれ。……ああ、入隊初日のキミには無理な話だったかな?」


こんな風に嫌味ったらしく言葉を付け足す上司は、どこにでもいるだろう。
同時に、周りからも少し笑いが聞こえてくる。
恐らく、いい気味だとぐらい思っているのだろう。
は心の中でブラックリスト追加、と呟きながらにこやかにその書類を受け取った。


「大丈夫ですよ。藍染隊長に案内してもらったことがあるので、行けます」


地雷を自ら設置し、は隊舎を後にする。
出る際に見た、小町の引きつった笑みが滑稽で今更ながらに笑いが込み上げてくる。


「まったく……どこの世界も似たようなものなんだな」


ましてや、人間関係なんて難しい。
まだまだ若輩者だからまだまだだ。


そんな評価を下しながら、軽い足取りでは技術開発局へと向かった。






























「すみませーん、五番隊の者ですが、阿近さんいますか?」


はまず、顔見知りの阿近を呼んだ。
理由は、書類には阿近の名前が書かれていたし、何よりが阿近を知っていたから。
しばらくすると、阿近が部屋の奥からこの間のように現れた。
呼んだのがとすると、少し躊躇したような表情をして、やがて普通の表情に戻った。
何事も無かったように。


、だよな。五番隊に入ったのか」
「はい。この間はお世話になりました。で、これが頼まれていた書類です」


書類を手渡すと、阿近がそれに不備が無いか確かめる。
すべて見通したとが確信すると、退室の礼を述べて去ろうとした。

が、その腕を。

阿近が掴む。


「まァ、待てよ。茶でも飲んでけ」
「いや、でも仕事中ですから」
「大丈夫だって。心配すんな」


無理矢理阿近にそこにあった椅子に座らせられ、は困ったように笑う。
なにしろ、今日は入隊一日目。
早く戻って、早く仕事を覚えたかったのだ。
それに……小町が五月蝿い。




「ちょっとお前に聞きたいことがあるんだよ」




そう言う阿近の顔は……技術開発局に勤務するにふさわしい、科学者の顔をしていた。
目に見えるのは好奇心。
そして僅かな危惧。
はあくまで冷静に、それに答えた。


「何を、ですか?まだ入隊して間もない俺に聞くことなんて無いと思うんですけど。むしろ、俺の方が聞きたいくらいで」
「あァ、それは分かってる。でも俺の聞きたいことはお前しか知らないことなんだよ」


阿近は机に無造作に散らばる書類の一つを取る。
それには何かのグラフがあった。
均等な波線ばかりのグラフ。
そしてもう一つ。
阿近は懐からそのグラフを出した。
それは先程と同じようで違う………一部分だけ少し、波線が乱れたグラフ。


「……これは何ですか?」
「少し前の真央霊術院の引率生徒が殺された現場のものだ。お前も知っているだろう?」


阿近は、自分のことを知っている。
はそう確信した。
だから阿近は……自分を呼び止めた。


「………その歪んだ、波は?」
「空間の歪みを表している。虚が出たから、こう現れたわけじゃないぞ」
「なら、貴方はその歪みを何だと思うんですか?」


そこで的外れの言葉を言うならば、シラを切るつもりだ。
もし………そこで、確信を付く言葉を言うならば。
言う…………………ならば。
は阿近を見つめた。
じっと、その言葉が続く先を待っている。
やがて阿近は意を決したように、口にした。





「――――――――――――あれは時間の歪みじゃないのか?」





















――――ビンゴ。



は心の中で小さく、呟いた。

























これ以上ごまかせないよ

(誤魔化す必要って、ある?………この人の場合、それは無いね)