一時の沈黙ののち―――爆音が轟き、壁が吹っ飛んだ。
ガシャガシャと怪しい音を立てて現れた謎の機械は、ちょうどと対峙していた更木を踏み潰し。
の前で止まる。



「……………」
    


「……………」



無言だった。
も謎の機械も周りの隊長格もギャラリーも何も言わない。
ただ機械の下で暴れる更木の声だけがよく聞こえた。


「おい、水越!!いい加減退け!!!」


水越、というのは機械の名前だろうか。
そう呑気にが思っていると、意外にも機械がぱかっと開いて中から人が出てくる。
どうやら水越というのはこの人物の名前だったらしい。
薄汚れた白衣を着たその水越は、相変わらず下敷きになっている更木の目の前でしゃがむ。


「やあ、剣ちゃん。ご機嫌いかがかな??」
「てめぇ………ふざけてねぇでこれをどけろ」
「いやだなぁ、僕を退けって言ったの剣ちゃんでしょ。言った通り僕は退いたよ? 僕 は ね 」


おちょくる水越に、更木は苛つく。
にはさっぱり事情が飲み込めないが、周りがそれぞれ溜息をついているところを見るといつものことなのだろう。
それも、かなり厄介な。


「まあ、剣ちゃんがどうしてもって言うなら退いてあげるよ?このカナデくん改三号をね!!」


ふふん、と誇らしく水越はそのカナデくん改三号を叩く。
するとそのカナデくん改三号の目が怪しく赤に光った。


「………嫌な予感が、」


する。
が言いかけたところでそのカナデくん改三号は大きく動き出した。
製作者である(らしい)水越をも踏み潰し、その大きなボディをその場で脱ぎ去る。
そして小柄なボディとなり素早さを増したカナデくん改三号は、大きな包丁を振り回した。
隊長格は餌食になっていないらしいが、カナデくん改三号はギャラリーを吹き飛ばしつつ辺りを暴れまわる。
も攻撃を避けながら、近くにいた藍染に声をかける。


「え、っと、藍染隊長!」
「なに、かなっ!」


二人ともカナデくん改三号の攻撃を避けるのに必死だ。
なにしろ、このカナデくん改三号はランダムにターゲットを変えて攻撃してくる。
まだターゲットを一つに絞ってくれた方が楽である。


「あ、れっ、壊して…うわっ、いいですかッ!?!?」
「そうしてくれる、と助かるよ」



破壊の許可は出た。
は水響を構えると、先程のように神鎗になった水響で攻撃を食らわせるが。


「なッ!?弾いたっ!」
「あっはっは、さすがカナデくん改三号!斬魄刀対策もばっちりだ★」
「余計なモン、付けてんじゃねぇ!!」


カナデくん改三号の残骸の下敷きになっている二人は、仲良くそんなことを言い出している。
性能は確かにいいだろう。
しかし、暴走しすぎて手に負えなくなりそうだ。
斬魄刀がダメなら、鬼道だとは思い詠唱に入ろうとするが、そこでまた水越がアドバイス。


「ちなみに鬼道も効きません!倍返しで帰ってきます!!」


最早、何も言うことは無い。
ギャラリーも含めたこの場にいる全員は、水越に殺意を覚えた。
ただ一人、冷静なネムは静かに水越に話しかける。


「……貴方の監視役の阿近さんはどうなされましたか?」
「んー?阿近さん?阿近さんなんかカナデくん改三号の餌食に―――」
「なってねぇよ!」


ネム曰く監視役の阿近は、ボロボロになりながら登場した。
水越はそんな阿近を見て、きゃー縄抜けの天才ーなどと言っている。


「えーと…阿近さん」
「お前は確か…。悪かったな、こいつの騒動につき合わせて」


こいつ、のところで阿近は下敷き状態の水越の頭を蹴る。
そんな行動でも爽やかな阿近はこの場に少しそぐわない。


「いえ、それはいいんですが………アレの止め方、教えてください」


アレ、とカナデくん改三号を指差す
カナデくん改三号は現在、ギャラリーにターゲットを変え多大な犠牲者を出していた。


「あー……アレな。簡単だ。背中の右の肩甲骨。あそこにあるネジを取って水を入れればいい。それだけで止まるはずだ」
「ありがとうございます!」


水、といったら水響の出番だ。
水響を携えはまっすぐに走っていく。
その背後で。
阿近は重大なことをぽつりと言い漏らした。




「ただしアレ、背後攻撃には恐ろしく敏感だぞ………」



その声は、に届かない。

























水響を構え、は背中を狙う。

(右の肩甲骨にあるネジ、ネジ……!)

もう少しでネジを飛ばせる。
そのところで、カナデくん改三号は振り返りその腕でをなぎ払った。


「っ―――!!」


壁に打ち付けられる。
そう思ったは覚悟して目を瞑る。
が、いつまでたっても衝撃は来なかった。


「危ないなァ」


聞き覚えのある、イントネーション。
目を開ければ彼が……市丸がを受け止めていた。
彼はが無事だったのを確認すると、笑む。


「弱点、分かったんやろ?ここは協力しよや」


は無言で頷くと、彼にカナデくん改三号を引き付けてほしいと頼んだ。
彼はが知る表情そのままで承諾し、共に向かっていく。
不思議な感覚だった。



ギンと一緒に戦うのって、へんな感じ

でも安心する

背中を預けれる、というか………


心地よい。


ああ、そんな感じだ。

それに楽しいんだ。


ギンと、戦えることが――――




勝負は一瞬だった。
引きつけの役を引き受けてくれた市丸は、見事にその役割を果たしてくれたし。
もいとも簡単に、カナデくん改三号の弱点をつくことができた。
二人のコンビネーションの賜物だった。
二人は何も言うことはなかったが、妙な充足感に満たされていて。
本当に、不思議な気分だった。


後はもう、その場に流され。


片づけやらなにやらに追われた。


隊首会なんか、いつ終わったのか定かではない。



気が付けば、白哉と共に帰路についていた。




























――――そして後日、届いた書類には。


の護廷十三隊入隊許可と。


五番隊第十二席への配属が書かれていた。























「なんか、不思議な感じやった……」


五番隊隊舎で、市丸はそう呟いた。
手を握ったり、開いたり。
その動作を繰り返し、今日の騒ぎを―――と協力したことを―――思い出す。
真央霊術院にいた頃、自分が合わせづらい、と言われていたことを市丸は知っている。

それなのに会って間もない彼は―――とてもやりやすかった。

市丸の癖や、行動。
まるでそれを長年見てきたかのように、サポートしてくれる。
自分はいわゆる囮役だったけれども。
やりやすかったのには変わりない。


「変なヤツ………」


自分を見て切なそうな瞳をしたかと思えば。

気丈に振舞ってくる。

泣くかと思えば。

それ以上に、笑みを浮かべてくる。

そしてこの間見た、あの淋しそうな笑み――――まるで市丸に何かを気づいてくれと言わんばかりの笑みだった。

つくづく、面白い。

市丸は月を見上げながら、笑った。


「楽しそうだね、ギン」
「あァ、藍染隊長。隊首会、終わったんですか」
「―――彼の処遇、気になるかい?」


藍染は本当の自分をほんの少し滲ませながら―――市丸に問う。
市丸は少し躊躇うような素振りを見せ……頷いた。
気になっていたことは確かで、それは藍染にも見抜かれていたことだろうから。
隠し通す意味はない。


「彼は―――五番隊に入隊することが決まったよ。席次は第十二席」
「それは……えらい、破格の扱いですなァ」
「何しろ彼は書類上、総隊長の孫だからね。それにあの噂。今日の騒動でも彼の実力は分かるだろう?
 君は実際、共に戦ったのだから」


否定はしない。
けれども肯定はしない。
黙ったままの市丸を諾と取ったのだろう、藍染は怪しく笑った。





「彼から目を離すな、とだけ言っておくよ」




ああ、それと――――












「 あまり、彼に魅かれすぎないように 」





















多分、絶対

(僕は、俺は、貴方に魅かれていく――――それっていけないこと?)