「あ、来た来た。遅いですよぅ、京楽たいちょー」
「ごめんごめん、ちょっと彼も誘っててねぇ〜」
京楽に案内され、訪れたところには既にお酒の匂いが充満していて。
その部屋の中で、すっかり出来上がった女性がお酒をラッパのみしていた。
彼女はを見ると、へにゃりと笑う。
「知ってますよぉ、彼のこと。すっごい噂ですからぁ」
呂律が回っていない彼女の言う噂とは、技術開発局で阿近の言っていたことだろう。
立ったまま、また内容がグレードアップしているんだろうな…と遠い目をして考える。
その腕を彼女は引っ張った。
「ふふふー……さあ飲め?」
半ば強制的に座らせられ、お酒がなみなみ注がれたお猪口を渡される。
京楽は、と見てみると彼は彼で既にお酒を飲み始めていた。
僅かに顔が赤いことから、酔い始めていることが分かる。
「え、ちょ………!」
「なによぅ、あたしの酒が飲めないってぇ?」
「飲ませていただきます」
目が据わっている。
こういう酔っ払いに逆らってはいけないことをは知っていた。
少々戸惑いつつも、ぐいっと一気飲み。
おー、と彼女と京楽は手を叩いた。
「いい飲みっぷりだねぇ」
「ガンガン行きましょー」
次々とお酒が注がれていく。
はもうヤケでお酒を飲んでいった。
置かれたつまみを食べつつ、お酒を飲む。
かつてないペースでお酒は消えていく。
だが、あのとき外に出ていた京楽はお酒を買いに行っていたのだろう。
そんなに持っていないはずだと思っていたのに、湧き出るように酒瓶がどこからともなく出てくる。
中々酔えないだが、たくさんのお酒を見ると本当に酔いそうだ。
「そーいえば、あたしアンタの名前知らないわぁ。噂なら知ってるのにねぇー」
「ですよー…。俺も貴方の名前、知りませんけど」
「あら、そぉ?あたしは松本乱菊。乱菊って呼んでいいわよー」
何がおかしいのか、きゃはははと笑い声を上げる松本。
そのテンションについていけないは苦笑しながら、お猪口を口に運ぶ。
「そういえばくんを連れてくるとき、市丸くんを見たねぇ」
「ギンを見たんですかぁ?あの狐面何考えてるかわかんないですねー」
「そうですね」
京楽に向けての言葉に、が頷く。
京楽はおや?と思うし、松本はその反対にきらきらと輝いた目でを見てきた。
「もそう思うー?やっぱりそうよねぇ、振り回されるの、いつも周囲なんだからぁ」
「自分のこと、あんまり話しませんしね」
「そうそう!分かってるじゃなーい」
ぎゅうぎゅうと松本に抱き締められる。
豊満な胸を押し付けられて、真っ赤になるどころかは息苦しい。
「ちょ、乱菊さん……!!」
「んー、アンタいい匂いするわねぇー…どこの香水?」
「香水なんか付けてませんって!!!」
べりっと松本を無理矢理引き剥がし、はお酒を煽った。
飲まなきゃやってらんないぞ、この空間。
そう思いながら、次々と瓶を空けていく。
松本もどこか残念そうにしながら、またお酒を飲み始める。
「くん、やけに市丸くんのことに関して詳しいねぇ」
「そうですか?(まずい、結構この人鋭い)」
お酒にはまだ呑まれていないのだろう。
京楽はどこか鋭い目でを見てくる。
それをは避けようと口を開く。
「ここに来て、一番はじめに接触した人だからかもしれませんね。
なんだかんだあって、今日も藍染隊長と瀞霊廷内を案内してくれましたし。
それに俺、理科の観察とか得意なんですよ」
そう笑って言いながら、は京楽のお猪口にお酒を注いだ。
それを京楽は特に何も言うことなく、口に運ぶ。
京楽は、それから何も言ってこなかった。
まず始めに松本が潰れ、京楽も少し怪しくなってきたところ。
襖を開けて、誰かが入ってきた。
もう既に陽は落ちていて、月が顔を覗かせていた。
その月を背景に、男は現れる。
月光に照らされたその顔に、は覚えがあった。
「一護、か…………?」
いや、違う。
口に出しておいてはそう判断した。
あの鮮やかなオレンジ色の髪ではない。
夜と同じ、真っ黒な髪だ。
だが、見た目はとても一護に酷似していた。
彼がもう少し成長したら、こうなるんじゃないかと思うくらい似ていた。
「あ?俺は苺じゃねーぞ。………んん?お前、確かこの間隊首会で見たような…………」
「………苺じゃなくて、一護です。
貴方がちょっと知り合いに似ていたもので思わず言ってしまいました。
……………隊首会で俺を見たことがあるなら隊長格ですね。俺はです。
―――貴方は?」
顔を近づけて唸る海燕に、はそう答えた。
間近で見ると、やはり一護とかなり違う。
何しろ彼は…………かなり下睫毛が長い。
特徴的だ。
「俺は志波海燕。十三番隊の副隊長だ。……っと、物の見事に潰れてるな」
海燕は松本や京楽の状態を確認しつつ、そんなことを言ってきた。
どうやらこの男、かなり面倒見がいいらしい。
ぶつぶつと呟きながらも、転がる酒瓶を片付けている。
「……そうだ。お前もちょっと手伝え。どうせ白哉が来るの、時間がかかんだからよ」
「別に構いませんが……連絡、取ってくれたんですか?」
「ああ。だってお前、白哉ん家絶対辿り着けないだろ」
確かに。
辿り着く自信は無い。
なにしろ、お酒も飲んでしまっている上にここの道順を覚えてないのだ。
は有難うと、礼を言うと時々海燕と他愛もない話をしながら片付けていく。
やがて、閉じてあった襖が再び開かれた。
「遅いぜ、白哉ー。に酔いがまわっちまっただろ」
「……兄には関係ないことだろう。歩けるか?」
前者は海燕に向けて、後者はに向けて言ったものだ。
どうやら白哉と海燕は、仲が悪くも良くもないらしい。
ちょっと海燕は積極的で誰にもフレンドリーなタイプだから、あまり白哉と合わないのだろう。
そんなことを思いながら、は白哉の言葉に頷いた。
「そうか。だが無理をするな」
「…分かってる。じゃ、志波さん今日は有難うございました」
「おー。気を付けて帰れよ。…と、その前にその志波さんは無しな。海燕さんぐらいにしとけ」
ぐしゃぐしゃと、一護に似た海燕に頭を撫でられるのは不思議な気分だった。
いつもそうするのは、年長のの役割だったから。
だから妙にくすぐったい。
「 じゃあ、またな 」
海燕の笑顔が、一護の笑顔とダブって見えた。
「……大丈夫か?」
「え、ああ………大丈夫」
「だが………」
安心させるように言っても、白哉は渋る。
それに苦笑しながらは言った。
「まいったなぁ、ここって似てる人ばっかだ」
「………どういう意味だ?」
「俺があっち<現世>にいたときの人と似てる人が多い、ってこと。不思議だな」
「それは―――――市丸と、志波のことか?」
鋭いと思った。
さっきの京楽と同じように――――白哉は鋭い。
そして俺は白哉に隠し事をする気は無い。
………………………………………………本当のことは言えそうにないけど。
「ああ。そうだ。彼らはよく似てる――――だからかな。時々、泣きたくなる」
泣かないけど。
そういうニュアンスを含めて、俺は笑う。
白哉はいつものしかめっ面。
俺はごまかすように、呟いた。
「――――酔ってるんだ」
「俺、今日は酔ってるんだよ。白哉」
「ああ。分かっている」
「ならさ………肩を貸してくれ。ちょっと、ふらつく」
無言で貸してくれる、白哉。
あったかい。
俺は月光の中を白哉と一緒に、歩いてた。
かえるために
(そこが今、俺のかえる場所だから)