そうして、白哉から勉強を教わる日々が始まった。
何分、現世とは常識が違うので戸惑うことも多かったが適応能力が高いのか、すぐさま慣れていく。
勉強の途中、緋真とはお茶を飲みつつ語る飲み友達のような仲になっていて。
白哉に嫉妬されまいかとドキドキな毎日を送っている。
そんな、ある日のことだ。
「俺に面会?」
「ああ。五番隊隊長の―――」
「藍染隊長、が?」
白哉の言葉を遮り、はこの過去で一番初めに接触した隊長の名前を挙げる。
既に、護廷十三隊隊長、副隊長の名前は覚えていたからすぐに名前は浮かんだ。
だがなぜ、その隊長がわざわざに会いに来るのか―――心当たりはない。
「それと、市丸だ。客室で待たせてある」
「……分かった。ありがとう、白哉」
市丸、と名前を出されびくりと反応したのを気づかれたかは定かではない。
でも確かに自分の肩が少し反応した。
そう自覚はあった。
ならば鋭い白哉のことだ。
気づいているだろう。
そんな白哉の視線から逃げるように、は与えられた自室を後にする。
背後の白哉の視線が少し―――ほんの少し、痛かった。
「やぁ、くん。久しぶり、かな」
藍染はいつもの柔らかい微笑で、を迎えてくれた。
その隣には、死覇装だけの市丸ギン。
元の現世では、羽織をいつも着ていたのでとても違和感がある。
―――とても慣れそうにない。
ちらりと市丸に視線を向けたはそう思った。
「こんにちは、藍染隊長。それに市丸副隊長も」
「あァ、名前覚えてくれたんやね」
聞き慣れた声。
けれども彼は―――別人だ。
そう自分に言い聞かせながらは藍染に目を向ける。
藍染は優しい瞳で、を見ていた。
「勉強の方は捗っているかい?」
「はい。今は鬼道と白打、それに歩法について学んでいます。他のことはもう終えましたので」
「それは優秀だね。護廷十三隊入りも近いかな」
藍染はそう言いながら、出されていたお茶を飲んだ。
それはにも用意されていたので、もつられるように口に含んだ。
「―――それでお二人はどうしてここへ?」
「せっかくだから瀞霊廷内を案内してあげようと思ってね。総隊長からもそう命令が下ったんだ」
「え、でも悪いですから………」
「大丈夫やて。ボクらの今日の仕事、これなんやから。それともクン、ボクらに仕事放棄させる気なんかなァ?」
断ろうとした瞬間、市丸にそれを遮られる。
その市丸の言葉からは、明らかに「断ったらタダじゃおかんで?」という意味が込められている気がする。
そういえば昔から―――サボるの好きだったな、ギンは。
納得しながら、渋々という風には頷いた。
それにしても違和感が未だにぬぐえない。
出会った当初から「」だった呼び方が、今は「クン」。
かなり………戸惑ってしまう。
そうして戸惑っているうちに、半ば強制的に市丸に手を取られ。
は外出することになった。
家を出ても、市丸はの手を握ったまま。
それは多分、逃がさないようにしているためだろうが、それでも。
久しぶりに繋いだ手はあの頃と変わらず、温かくて――――
ほんの少し、は笑った。
「ここが技術開発局。十二番隊とほぼ併設されているところだよ。少し中を覗いて見ようか」
「邪魔になりませんかね?」
「だーいじょうぶやて。さっきから言っとるやろ?そんなに信用できんかなァ、ボクらのこと」
ボクらじゃなくて、貴方がが一番ですが
と、心の中で思っただったがそれは胸の奥に閉まっておき。
とにかく技術開発局やらとの場所に足を踏み入れた。
……中は外の爽やかな風とは裏腹に科学用品で満ちていた。
理科準備室がそのまま大規模な部屋になったような場所で、紫色の怪しい液体は放置してあるわ、人体模型らしきものはあるわ、とにかく怪しさ満点。
が、そこには人がいなかった。
代わりに実験台らしきものの立てるガサガサ……という音や向こうの部屋で聞こえる爆発音など音は豊富だ。
ちょっと間違った場所に来てしまったなー……
そう思うの感性は間違ってはいないだろう。
誰もいないことに藍染と市丸は首を傾げたが、やがて何かの紐を引っ張った。
ギャァァァァ
…………………………………呼び鈴の代わりなのだろう、それは。
だがまるでホラー映画の小物として活躍しそうなそれに、は少々引いた。
それでも藍染と市丸はいつも通りなので、恐らくこれが技術開発局では普通なのだろう。
やがて、数分後誰かがあの爆発音のしていた部屋の奥から現れた。
「なんだよまったく……検証の途中だっていうのに」
「それはすまなかったね」
現れたのは、も非常に覚えのある人物。
檜佐木と共に地獄蝶を追いかけていた、角のある人物。
阿近だった。
その阿近は見慣れぬの存在に逸早く気づいたようで、興味深げにまじまじとを見てくる。
「………何か?」
「もしかしてお前、最近噂の“虚に詠唱破棄で赤火砲食らわせた上に卍解までして虚を血祭りにあげた、自称ただの魂魄”か?」
「―――なんか、尾ヒレ背ヒレ付いてるみたいですけど大体間違っちゃないです」
卍解なんかしてないし、虚を血祭りにもしていない。
それに自称じゃなく、紛れもなく一般人の魂だ。
最もここの人たちはそう見てくれないが。
だから朽木家なんて四大貴族の客分になっているわけだし、こうして隊長格が瀞霊廷を案内してくれている。
その一番の理由は――――――得体の知れない自分を監視しておくため、であろうが。
苦笑しながらは本当のことを阿近に話した。
「あんまり変わってねぇな。ま、とにかく血液ちょっともらっていいか?」
「健康診断は四番隊でやってもらってますけど?」
「いや、こっちはちょっと野暮用で」
野暮用で人の血液をどう使うのか謎だ。
そう思いつつも、渋々腕を差し出す。
少しの痛みの後、腕から離れた注射器をみれば相当の量の血液が。
貧血になったらどうしてくれるんだ、と思いつつは立ち上がろうとした。
が。
ぐらり。
床にまっさかさまになりそうな、の身体。
それを支えてくれたのは、意外にも市丸だった。
「っと。間に合ったみたいやな」
「あー………どうも」
今、この尸魂界で関わりたくない人ナンバーワン、市丸ギン。
気にならないようにしても気になってしまう彼に対するの態度は、いつもどこかぎこちない。
元々いた時代ならば、こんなにギクシャクせず済んだのだろうが何せここは過去。
阿近や檜佐木が現代でを見てびっくりしていたところを見ると、がここにいることを許されているということだ。
ならば、現代の市丸は今の自分を知っている。
そして自分は未来の市丸を知っている。
それを気にし、また市丸を気にしている。
どこかぎこちないを、市丸は気づいている。
そう、確信していた。
「顔色も少し悪いね。ギン、彼を送って行ってあげてくれ」
市丸は頷くと、を立たせて少し支えるようにしてくれる。
やっぱり、触れている彼の身体はいつもと変わらず温かい。
そして、それに安心する自分がいることをは気づいていた。
「藍染隊長。この間、おっしゃられていた件ですが」
「結果が出たんだね。で、どうだったかい?」
互いにテーブルに着いた藍染と阿近は向き合うようにして話す。
そしてこの間藍染が阿近に頼んだ“結果”を、阿近は手渡す。
「―――この場所、この時だけほんの少し空間が歪んでるね」
「微弱ですがね。そしてそこは…………」
「がいた場所。正確には、真央霊術院の生徒たちが魂葬の練習をしていた場所、だね」
深く頷く阿近。
藍染は手渡された結果を興味深げに見る。
どこか、それは楽しそうだ。
だがそれを他人に―――阿近に、悟らせることはない。
「有難う。すまなかったね」
「いえ、大したことじゃないんで」
藍染はそれを持つと、技術開発局を出た。
温和そうな顔に浮かぶ、何かを企んでそうな怪しい笑み。
そうして藍染は呟いた。
「、…………まったく興味深いね、彼は」
いい方向にも、悪い方向にも――――まったくもって、興味深い。
藍染は密かに、また哂った。
絡みつくのは指か言葉か
(それが貴方のものだったらいいのに)