は白哉と共に再び、総隊長山本元柳斎重國の元にいた。
最初にがここに訪れたときは、護廷十三隊各隊長格がいたのだが、現在は三人のみ。
の後ろに白哉がいる形で、山本と対面していた。


「身体に異常なし。至って普通の魂魄じゃ」
「そう、ですか。それで俺…いや、私の処遇は……」
「その件じゃがな……お主、護廷十三隊に入る気はないかの?」


突然の山本の提案に、は目を白黒させた。
護廷十三隊に入るということは、市丸や白哉と同じ職場――といっても、隊が違うであろうが――につくということだ。
白哉の方をちらりと伺うが、白哉は動じていない。


「しかし、私はまだこの世界のことをまったく知りません。鬼道なども同じことです」
「報告では、破道を詠唱破棄で使ったと聞いておるが」
「あれは云わば、火事場の馬鹿力です。何も知らないまま、入隊するわけにはいきません」
「強情じゃな………」


山本はしばしの間、考え込んだ。
どうすれば、が入隊するのか考えているのだろう。
そんな山本の視線が白哉の方を向いた。

………嫌な予感が。


「ふむ、ならばこうしよう。おぬしはそのまま、朽木邸に滞在し、そこでこやつに尸魂界について学ぶがよい。
 期間は二週間。その間、朽木にも休暇をとらせよう。名目上は、隊長試験の勉強、ということでの」


は白哉の方を見た。
白哉はいつもの無表情で、山本を見ている。
山本は飄々として、いつもと変わりない。
やがて、が口を開く。


「白哉の迷惑には―――」
「なりはせんよ。こやつもよい勉強になるじゃろうしの」


山本の言っていることは既に決定事項の様子。
総隊長である山本の言葉には、一介の副隊長である白哉が口を出せることではなかった。



二人は結局、山本に一礼してその場を後にした。


楽しそうに笑う、山本を残して。

















「会ってもらいたい人がいる」


家へと帰る途中足を止めて、白哉はそう切り出した。
はちらり、と白哉を見て、それは誰か、と問いかける。
返ってきた言葉は、少々驚くような言葉だった。


「私の妻だ。緋真という」


そう、妻の名前を告げた白哉は少し表情を和らげていて。

ああ、本当にその緋真さんを愛しているんだな

と、は思った。
あまり感情に出さないような白哉が傍から見ても分かるような表情の変え方をしたのだ。
とても大切な人であることはすぐに認識した。


「…その緋真さんがどうかしたのか?」
「ああ。今は病床に伏していてな……この間、お前の話を聞かせたら会いたいと言いだした。
 会って、くれないか?」


断る理由など、なかった。
頷くを見て、白哉は再び歩みだす。
その後をは追った。
そうして連れて行かれた先は、庭の見渡せる一つの部屋。
あまり物の置かれていないその部屋、庭寄りに布団が一つひかれていた。
そこに横たわる、一人の女性。
彼女が、朽木緋真だとはすぐに分かった。
彼女はやってきた白哉に微笑むと、上体を起こす。
それを白哉は手伝っていた。


「緋真、この者が朽木家で預かることになっただ」
です。初めまして、緋真さん」


は彼女に微笑んだ。
彼女は本当に白哉が連れてきてくれると思わなかったのか、少し驚いた顔をしてを見ている。


「……白哉様は本当に叶えてくださったのですね」
「私は嘘を言わぬ」


嬉しそうな緋真に、どこかぶっきらぼうでしかし優しさの溢れた言葉を返す白哉。
穏やかな雰囲気が部屋を包み込んだ。
二言、三言、は緋真と白哉と話す。
他愛もない、けれども相手を知る上で大事な会話。
病を患っている緋真はあまり話さなかったが、や白哉の話をよく聞いていた。
言葉に出さなくても、顔は口より雄弁に語る。
くるくると変わる表情がとても、綺麗だった。
やがて、白哉が所用で去り。
静かなその部屋は、緋真とだけになった。


「愛されてますね」
「え?」
「白哉に、とても。見てるだけで分かります」


は緋真に向けて、そう言った。
緋真ははにかむように、を見つめる。



「私にはもったいないくらいの愛を、頂いてます」



その言葉を言ったときの緋真は、短い間で見た今までの表情の中で一番輝いていた。
つられるようにして、は微笑む。
だが緋真の体力も限界で、は彼女が床に就くのを手伝った。

―――それほどまでに、彼女の病は重いのか。

そう思ってしまうくらいに、触れた彼女の身体は細く儚げで。
はゆっくり、丁寧に、ガラス細工を扱うように彼女を横にならせた。
緋真は床に就くと、に礼を言う。

来てくれて、ありがとうと。
そして、また来てくれないかと。

が断るわけがなかった。


「白哉に許可を取って、また来ます。そのとき、またいっぱい話しましょう?」
「はい。楽しみにしています………様」
「様はいりませんよ、緋真さん。俺はまだこの世界のことをよく知らない上に、そんな身分でもない。
 それに緋真さんは俺より先輩ですし」


は最後にそう言うと、静かに襖を閉めて出て行った。
残された緋真は、くすりともう一度笑うと彼が去って行った襖を見る。
そうして、一言呟いた。


「ありがとうございます、………」


庭に咲く梅の花びらが、ひらりひらりと舞っていた。


そんな、春のこと。






花びら、キラキラ

(散っていく花びらと、貴方が同じに見えてしまった)