そんなこんなで、隊首会は開かれた。
が、副隊長も集まるほど事が大きくなってしまっている。
その事の中心人物、は顔を青くして立っていた。
自分の処遇が決まる大事な会なのに、はそれどころではない。
(気持ち、悪い………)
ここに来るまで、ずっと市丸の肩で揺られ。
そんな不安定な場所にいたため、は酔ってしまったのだ。
お陰で、の気分は最悪。
加えて、頭痛まで起こってきた。
(やば………、くらくらする……………)
視界までぐるぐると回る。
本格的にやばい、とが自覚したときには既に。
身体は傾いていた。
「あ―――」
言葉を発したときには遅くて。
の目の前は真っ暗になった。
意識の途切れたの身体は更に傾いて、床に倒れ込もうとする。
そこでようやく各隊長・副隊長もの異変に気付くが、間に合わない。
が、そんな中一人だけ、動いた。
倒れ込む寸前に、を支えたのは副隊長である朽木白哉。
思ったより軽いの身体に眉を寄せつつ、白哉は注目が自分に集まっているのを感じていた。
顔色の悪いを見、白哉は四番隊隊長である卯ノ花の方を見た。
その視線の意図に気づいたのか、卯ノ花は頷くと白哉の腕の中にいるを診る。
「………少し、熱がありますね。恐らく、慣れない環境で疲労が出てきたのでしょう。
あとはどうやら、乗り物に酔ったみたいで……藍染隊長、彼を何かに乗せましたか?」
「乗り物、というのかな……あれは」
藍染は少し困ったような顔で、市丸を見た。
当の市丸も自分の運び方に問題があったせいが、どこかが気になっている様子だ。
だからだろう。
自ら、名乗り出た。
「あァ、すんません。それ、ボクですわ。彼、暴れるんで仕方なしに肩に担いで……」
「そんな不安定な場所で、彼が体調を崩すのも無理ありませんね。以後、気をつけてください」
「肝に銘じときますわ」
そう一言告げると、市丸は一歩下がった。
は依然、白哉の腕の中だ。
「…で、どうしましょうか。彼の処遇は」
「様子見として誰かに連れて帰ってもらおうと思うのじゃが……」
ちらり。
総隊長、山本元柳斎重國は白哉の方を見た。
……嫌な予感が。
白哉はそう思ってしまった。
「朽木白哉。お主にその者を任せよう」
無言の後、白哉はゆっくりと頷いた。
所変わって、朽木邸。
隊首会から帰ってきた白哉は一先ず、を客室に敷かれた布団に寝かせた。
先に連絡をしておいたので、その客室は綺麗に整っている。
そこは、白哉の部屋の隣に位置する場所だった。
様子見=監視だ。
対象を自分から離すわけにはいかなかったので、自然とこうなる。
これからは忙しくなるだろう。
始終、目を光らせていなければいけないのだから。
「それにしても………」
この者が本当に始解を会得しているのだろうか。
白哉は未だにの力を信じていなかった。
それもそのはず、の力を目の当たりにしたのはあの四人と藍染、市丸のみ。
あの隊首会では、その力が本当のものであるかどうかそれを見せて貰おうとしていたのだが、生憎、は倒れてしまった。
お陰で、半信半疑の者も多い。
総隊長は、から何かを感じ取っているようであるが。
「………自ずと分かることだろう」
思考を巡らせていた白哉は、そう結果を出した。
今はただ、彼が体調を回復させ、目覚めるのを待つだけだ。
決めつけた白哉は早々と部屋から去ろうとする。
が、ぐい、と引っ張られる感覚があり、後ろを振り向いた。
白哉の手を、が握っていた。
「……………………」
白哉はそれを無言で外そうとする。
が、なかなか外すことができない。
どうやら、強く握っているようだ。
外すことは無理だと悟り、白哉はの隣に腰を下ろした。
「世話の焼ける奴だ」
ぽつりと呟き、白哉は眠るの顔を見た。
先程より、大分顔色はいいようだ。
だが、夢見が悪いのか時折魘されている。
そんなときは決まって、白哉の手を握る力が一瞬だけ強くなる。
まるで、白哉がそこにいるのを確かめるように。
否、は白哉がそこにいると分かっていない。
夢の中の誰かと白哉を重ねているのだ。
「やだ……っ」
魘される中に零れる、言葉。
が何かに怯えているのは白哉が見てもすぐに分かった。
また、その夢がにとって“良くないもの”であることも。
零れる言葉に比例して、白哉の手を握る力は増していく。
そして。
「おいて、いかないで…………」
その眼から流れる一筋の涙。
先刻までと違うの様子に、白哉は訝しんだ。
だが、の涙は止まることは無い。
ただ、白哉の手に縋るだけ。
次第に涙の量が増えていくに、白哉は戸惑った。
どうすれば泣き止むのか―――
泣いている人を慰めるなんて、やったこともない。
それも寝ている人だ。
起こそうと揺さ振ってはみたが、起きる気配はまったくない。
眠りは深いようだ。
ならばせめて、と眠りに邪魔そうな手をもう一度離そうと試みるが。
それより先に、の呟いた言葉が耳についた。
「手、はなさないで…………」
まるで、白哉の行動を見ていたかのような言葉。
思わず彼が起きているのではないかと訝しむが、それは杞憂に終わった。
声を発することなく唇が動かされ、一つの名前を紡ぐ。
ギン、と。
有り触れた名前である。
だから、その名前が五番隊副隊長である彼の名前とは限らない。
もし、そうだとしてもなぜ彼が知っているのか分からない。
ただ、今彼が求めているものを与えることができるのは。
白哉しかいなかった。
「私は生憎、奴ではないが…………これくらいならできる」
白哉らしくもない言葉を呟くと、そのままの手を握る。
それだけで、の表情は和らいだ。
それまでの魘され方が嘘のように、規則正しい寝息を立て、は安堵したように眠る。
自分を頼り、無防備な姿を晒す。
そんな彼の髪に一度だけ触れて、白哉は思う。
なぜ自分はこのような行動をとったのだろうか。
厭な夢だった。
両親に置いて行かれた、小さいときのこと。
これは事実だ。
でも俺にはギンがいてくれたから。
だから、大丈夫だった。
その夢の次に見たのは…………ギンに置いて行かれる夢。
走っても走っても追いつかない。
呼んでも、叫んでも、届かない。
振り返りもしないギンに、ショックを受けた。
さっきまで繋がっていた手が離れて、不安だった。
分かっていたけど、改めて知った気がした。
俺は、市丸ギンに依存している。
そのまま、呆然と立ち尽くしていたら急に温かくなった。
そう、それはギンが傍にいるような温かさ。
安心できる。
いつのまにか俺の手はしっかりと握ってあって。
俺はそれに、自然と安らぎを感じていた。
この手は誰の手だろう……?
僕はいつまで一人なんですか
(でも、一人じゃないって気づいてる)