気がつけばは、どこかの屋上にいた。
時刻的には、夕方から夜に移り変わるくらいだ。
は自分の置かれている状況を把握する為に、ゆっくりと周りを見渡した。
周りには、同じ着物を着た人がいる。
そして、自分と同じ魂魄がたくさんいる。
どうやら魂葬中らしいとは判断した。
だが彼らの仕草はどこかぎこちない。
たまに魂魄の悲鳴も聞こえてくることから、魂葬の実習中なのだろうとは思った。
となると彼らは、死神の学校の生徒らしい。
その中で、生徒たちに指示している先輩格のような人物を三人、は見つけた。
一人は女性で、もう一人は顔の細長い男性。
そして、もう一人はがついこの間会った死神と酷似していた。
顔の69マークも同じであるし、顔もほぼ一緒。
違うことと言えば、右目の方に傷を負っていないということぐらいだろうか。
(やっぱり、ここは過去か………?)
浦原の言葉をもう一度思い出し、は溜息をついた。
ここに来た原因は大体、予想がつく。
今まで指輪で封印していた霊力を全て解き放ったのだ。
その反動で、時空が歪んだのだろう。
それしか、に思い当たる原因はない。
それよりが気になったのは、自分はここで魂葬されるのかということであった。
元々、この時間の住人ではない。
本来ならここに存在することすら許されない、云わばイレギュラーな存在だ。
ここで魂葬されては今後に関わるのではないかとは思う。
だが、はこの世界で浦原に会うはずだ。
“アタシにとっては過去。貴方にとっては未来”
浦原にとって、ここは過去だ。
だがにとってはここから先、何が起こるかわからない未来。
ならばここはおとなしく、自分の運命に流されるしかない。
この世界を弄らないようにするためには、がおとなしくしておく必要があった。
「となると、やっぱり魂葬されるのか……」
それって未来でも魂葬されるのかな、とは考えた。
そのせいだろう。
は、背後に立つ若き檜佐木修兵に気づかない。
「おい」
「そうすると尸魂界に行くことになるから……」
「おいッ!!」
思考に沈んでしまっていたに対し、声を張り上げる檜佐木。
お陰でようやくはそちらへと向いた。
「何か?」
「名前を言え。帳簿を確認する」
帳簿。
それはもしかして、閻魔帳のようなものなのだろうかとは思う。
顔では笑みを浮かべているが、は内心、焦っていた。
(まずい。かなりまずい。調べられたら、俺の名前が無いことがばれる……っ!)
ばれたらどうなるか分からないこの状態。
はいつになく焦った。
市丸に嘘がばれないかどうかはらはらするくらいに心臓がドクドクといっている。
「ほら、名前だ」
檜佐木はそんなの心を知るはずもなく。
名前を教えることを促してくる。
(どうにでもなれ……!)
は半ばヤケになった。
この先、どうなるか分からないのだからどうにでもなれと。
そんな感じで名前を告げた。
「です」
「、……っと」
ぱらぱらと帳簿を捲り、の名前を探している檜佐木。
すみません。その中に俺の名前は無いです。
一生懸命な檜佐木に対し、は心の中で謝罪した。
「おかしいな………無いぞ。記入漏れか?」
どうせなら記入漏れということにしておいてほしい。
は切実に思った。
少しは疑われるかもしれないが、その方が無難だ。
「仕方ないな。上に報告して――――」
檜佐木の言葉をは最後まで聞くことが出来なかった。
それより意識の向くものがあったのだ。
何者かの気配がする。
だがそれは明確なものではなく、非常に曖昧なもの。
そう、それは虚のような―――
「う…うわあああ!!!せ…ッ、先輩が殺されたァ!!!」
大きな音がしたすぐ後に、生徒たちの声が響き渡った。
が振り返るとちょうど、青鹿という指導役の生徒が巨大虚に切りかかっていく所だった。
巨大虚は青鹿を爪で切り裂き、こちらへと向かってこようとする。
「逃げろ、一年坊主共!!魂魄を連れて逃げるんだ!!」
檜佐木の言葉と同時に、生徒たちや幽霊たちはすぐさま逃げていく。
その中で、は逃げることもせずその場に残っていた。
「馬鹿か、お前!逃げろって言ってるだろうが!!」
檜佐木の怒号がに飛ぶ。
だがそれでもは動こうとしなかった。
否……動けなかったのだ。
(ここで俺が干渉したら、この時代はどうなるんだ……?本来の事柄が変わるのか…?)
もしそうならば、干渉をしてはいけないことになる。
目の前のこの状況にも、眼を瞑るしかない。
だが、もしも干渉しても未来が変わらないのなら良いのではないだろうか。
本来の事柄になるように干渉すれば、多少、記憶の食い違いはあろうとも干渉することは可能だ。
それに、自分がこの巨大虚を呼び寄せたかもしれないという推測もある。
現に今は、市丸から貰った指輪は無い。
つまり、の霊力は抑えられていないのだ。
今はがどうにか抑えているが、それも時間の問題だろう。
しかしそれでもは、一歩を踏み出せないでいた。
そんな中。
負傷した檜佐木に伸ばされる爪を、三人の生徒が止めた。
まだ一年だという彼ら。
危険を顧みず、“死神”としての責務を果たそうとする彼らを見て、は思う。
自分の力をここで使わないで、何に使うか、と。
もう既に、先程考えていたことは吹っ切れていた。
房のある扇を一つ取り出し、は構える。
そして、その一つで前ばかり見て後ろを気にしていなかった四人の背後へと扇いだ。
「叫べ、颯声<さっせい>」
静かなの声。
それに答えるようにして、風の刃が虚の腕を切り落とした。
いきなりのことに、檜佐木は勿論、他の三人も唖然としてを見ていた。
「お前、死神なのか……?」
問いかける、檜佐木。
それには少し微笑んで、首を振った。
「それより、前を見たほうがいいんじゃないかな!」
たん、と地面を蹴り、は扇を操って虚の爪を弾き飛ばす。
舞うように戦うその姿は鮮麗で、四人の目に深く焼きつく。
しかし、いつまでもそうしていられない。
先に動いたのは、雛森桃だった。
素早く印を組み、破道の三十一、赤火砲を巨大虚に浴びせる。
残念ながらそれは、虚に対して少しも効かなかった。
煙が晴れ、その向こうからは大量の虚が姿を見せる。
まだ一年である彼らと有望であるとはいえ、まだ生徒である檜佐木からは、それぞれ絶望の声が漏れた。
そんな彼らに対し、は優しく言葉をかける。
「諦めるのはまだ早いよ」
「でもあんな数、どうするつもりですか…っ!!」
既に涙目になっている吉良イヅルが、を見る。
はそんなイヅルを安心させるように、頭を撫でた。
「決まってる、倒すんだ」
その言葉とともに。
は大きく跳躍した。
虚の攻撃を避けながらは、先程雛森がやっていた破道を真似てみる。
だがきちんと習っていないは詠唱できない。
途中まで詠唱していたが、その先は分からない。
長過ぎるのだと破道に文句をつけ、は口にした。
「ああ、もうこうなったら気合で」
「気合でどうにかなるのかよ!」
途中で詠唱を諦めたに、阿散井恋次が突っ込む。
それに対し、は不敵に笑った。
「どうにかなるんだな――――これが」
「赤火砲!」
その笑みの後、は破道を繰り出した。
詠唱無しに、はどんどん赤火砲を虚に浴びせていく。
本当に気合でどうにかしてしまったに、四人は呆然とするしかなかった。
「無茶し過ぎだあの人……!」
「誰なんすか、あの人は」
檜佐木は少し沈黙して、恋次の質問に答えようと口を開く。
「………知らん」
だがその答えは、答えになっていないもので。
檜佐木が答えるのを待っていた三人は拍子抜けしてしまった。
「帳簿に載っていない、魂魄だ。俺にはそれしか言えない」
もしかしたら護廷十三番隊の一員なのかもしれないが、檜佐木にはどうもそうには見えなかった。
かといって、ただの魂魄では無さそうだ。
斬魄刀を使っている辺りで、ただの魂魄とはいえないだろう。
何にも出来ない、ただの一生徒である四人はの戦う姿を見ているだけしか出来なかった。
しかし、虚はそう簡単に――――見逃してはくれない。
虚は容赦なく、四人に襲い掛かろうとする。
抵抗手段を持たない四人。
護廷十三隊入りが決定している檜佐木も、右目を負傷している。
後の三人はエリートクラスに所属していると云えども、まだ一年。
既に鬼道が効かないことは分かっている。
四人はぎゅっと目を瞑った。
が。
「水彩万華鏡<すいさいまんげきょう>」
目前に水で出来た鏡が現れ、虚からの攻撃を防いだ。
否、防ぐだけでなくその攻撃を虚自身へと返した。
小さな傷をたくさん負ったは、先程まで使っていた颯声とは違う扇を手にしていた。
が、それはすぐに刀へと変化する。
「水響<みずひびき>、頼むな」
は小さく呟くと、その刀を四人の中心に刺した。
すると、四人の周りを囲むように水の壁が現れる。
水の壁は、上から見ると万華鏡の形を模っていた。
それが出来上がるのを見届けると、は再び虚へと向かっていく。
水の壁越しに、四人はの戦いを見守った。
一人に対し、虚は数体。
それは分裂でもしているのか、頑丈なのか。
中々、数は減らない。
さすがににも疲労の色が見えてきた。
「こんなとこで、負けるわけにはいかない……ッ!」
強い瞳では虚を見据える。
この際、颯声を卍解してやろうかとがやけになった頃、一筋の風がの横を通った。
「ひゃあ、これは大層な数やなァ」
そして聞こえる、聞き覚えのある声。
忘れるはずも無い、声。
自分のすぐ横を通った、あの刃。
ゆっくりと振り返ったの目に入ったのは、紛れも無く。
市丸ギン、その人だった。
知ってるけど、
知らない腕を探してるんだ
(だって貴方は俺を知らないでしょう?俺は知ってるのに)
タイムスリップした原因?
(は過去に来る前にあの公園でメノスと戦いました。いつぞやの気配を消せる虚のメノス版とです。
で、不意打ちされて重傷を負う。このままじゃいけないーっていうので、指輪で抑えてた霊圧解放。
その衝撃で時空が歪み、過去へワープ。メノスは時空の狭間に落っこちたということで。
捏造いっぱい設定です。というか、本編で説明すればいいんですけどね!)