時が経つのは早かった。
あっという間に一年が過ぎ、再び春が巡って来る。
一護も中二へとなり、背も伸びた。
を抜かさんばかりの勢いで伸びている。
さすが成長期、とは勉強の最中に思ったのであった。
「なんだよ」
の視線に気づいたのか、一護が怪訝そうな顔をした。
「いや、大きくなったなって。やっぱり成長期は違うな」
「当たり前だろ」
一護はそう言って、ノートに目を落とす。
声もいつの間にか声変わりしていて、より低くなっていた。
なんだか、ギンの気持ち分かるかもしれない。
一護を見てきたのは、たったの一年。
だけど市丸がを見てきたのは、十年近く。
一年と十年では大きな差があるが、なんとなく。
なんとなく、市丸の気持ちが分かるような気がしたのだ。
「ほんと、大きくなったなー」
ガシガシガシガシ。
はぐしゃぐしゃと一護のオレンジ色の頭を撫で回す。
「…嫌味か、それは」
「違うよ」
にっこり笑っては言うが、その言葉にはやはり棘が含まれてる。
その証拠に、一護の髪はぼさぼさだ。
「会ったときは、まだ小さくて可愛かったのになー……」
はあ、と溜息をつく。
可愛かったあの頃は、何処。
と、今にも呟きそうだ。
「期待に答えて、もっとでっかくなってやるよ。高校入学までに抜かしてやる」
「あ、言ったね?言っとくけど、俺もまだ伸びるから」
そう簡単に抜かされないよ、と笑いながらは言う。
「ぜってー勝つ」
そんなに、一護はぼそりと呟いた。
「そういえばまた最近、けがが多いね。また、喧嘩?」
「ん、ああ。ちょっとな。先輩が煩くて」
「やっぱり、その髪色だと目立つからかな。俺は眼だったけど」
灰色だから色々言われたなー、とは当時を思い出し懐かしむ。
「ま、そんな先輩は十分過ぎるお返しをして、煩かった教師にはこれでもか、ってくらいのいい成績を叩きつけたけどな。
一護もそのくらいはしないと」
「お、おう」
やけに鮮やかに笑う。
どこか黒いと一護が感じたのは、気のせいだろうか。
「でも一護、けがしてても楽しそうだよなー……彼女でも出来た?」
「ばっ、バカ!そんなもん、いねーよ!!」
うろたえる一護。
はそんな様子がアヤシイんだよ、と一護に迫る。
「クラス替えでいい子見つけたとか?はたまた、たつきちゃんとか?」
「な、なんでそこでたつきが出るんだよ!」
「幼馴染から始まる恋っていうのもあるんだけど」
「バカ言うなよッ!俺には………」
「俺には?」
はっ、と一護は我に帰った。
今、自分は何を言おうとした?
というか、の瞳の輝きようはなんだ?
「〜っ!誰が言うかッッ!!」
ずいずいっと身体をテーブルから乗り出してきたを押し戻して、一護はそっぽ向いた。
その顔は紅い。
(面白いなぁ…………)
それを見て楽しむ。
タチが悪い。
「で、本当のところ何?恋人じゃないなら、友達?」
「………まあ、そうだけど。喧嘩してるとこに居合わせたんだけどな。中二なのにめっちゃくちゃでかい」
「ふーん」
「転校生でチャドって言うんだ」
「ちゃど?漢字は?」
「こう」
一護はノートの端に、チャドの漢字を書く。
その様子をじっと見ていたは、一護の書いた漢字を見て一言。
「これって、チャドじゃなくて茶渡だよ。どう見てもチャドじゃないって。そう読めないことも無いけど」
「いいんだよ、チャドで。そっちの方が言いやすい」
「まあ、そうだけど。一護らしいよ。今度、連れて来てねその友達」
「今度な」
そう言って二人は再び勉強に戻るのであった。
それから数日後。
はけがを負っての家に現れた、一護と茶渡の手当てをする羽目になった。
茶渡という子は、よりもかなり大きかったが礼儀は成っていて、尚且つ優しい子だった。
両親が既にいない、という点はと共通しており、なぜか料理の話題で盛り上がってしまう。
その話の流れのせいか、は二人に夕食をご馳走することになった。
とはいえ、急に決まったことだ。
冷蔵庫の中は空に近かった。
幸い、タイムサービスの時間は近い。
は最寄のスーパーに行こうと身支度を始めた。
「わりぃな、」
「どうもすみません…」
「ううん、気にしないでいいよ。すぐ帰るけど、暇だったらそこにあるもので遊んでて」
がそう勧めたのは、黒髭危機一髪と、オセロ。
どれもどこか古いものだが、それしかすることのない一護と茶渡はそれをやり始めた。
はその間に、スーパーに向かう。
そしてそのスーパーで食材を買い、マンションに戻ろうとしたところで事件は起こった。
タイミングが悪かったのか、運が悪かったのか。
死神に出くわしてしまったのだ。
一般の死神ならまだいいだろう。
の気配に気づくことなく、尸魂界へと戻ってくれる。
だが、生憎とが出くわしたのは市丸と同じ羽織を羽織った……隊長格の死神だったのだ。
それだけなら、見て見ぬふりをすればよい。
しかし、突然のことであったため、目が合ってしまった。
「……………」
「……………」
二人の間に、沈黙が流れる。
予想外の出来事に、は冷や汗が出てきた。
やばい。やばすぎる。どうしたらいいんだろう、この状況………!
あれだけ、ギンに自分以外の死神に遭遇しないようにと言われていたのに。
遂に破ってしまった。
ああでも、ギンと関わっていることがばれなかったらいいのかもしれない。
けれども、ギンは鋭いから隠し通せるかどうか――――。
「おい」
「…何、かな?」
眉を寄せ、険しい顔の少年には平静を装って答えた。
今の自分は、“偶然”死神が見えた一般人だと自身に言い聞かせて。
「……ああ、もしかして迷子?君、おうちはどこかな?」
「…………俺は子どもじゃない」
「うん?新手のチャンバラもいいけど、早く帰りなよ。もう、時間が遅いから」
「そうじゃなくて!!」
突然会った見た目小さな死神は、を鋭い目で見た。
何か知ってるような、そんな目だ。
「何でここにいるんだよ」
「……………?」
「あんたは………ッ!!
ここにいるべき人間じゃないだろ?!」
どういう意味なのかさっぱり分からなかった。
自分は確かにここにいるんだ。
それなのに、死神の彼に否定された。
彼は自分を……自分も知らない“自分”を知っている?
そんな考えがを駆け巡った。
けれどもこの死神とは会ったことはない。
記憶にある死神は、たった一人だけだ。
「きっと見間違いだよ。お兄さんとでも間違えたのかな?」
「なわけねぇよ!俺が見間違えるはずがない……。あんた、忘れたのか?」
忘れた、という彼の表現はにとって正しくない。
本当に、今のは知らないのだから。
知らないものを忘れられるわけがない。
けれども、多分。
「忘れたんじゃないよ、きっと……。君の言う“あんた”が本当に俺かは知らないけど、もしかしたらそれは、
“君にとっては過去で、俺にとっては未来”
かもしれない。多分、そうだ」
「なに、言って………」
少年の姿をした死神は、意味が分からないという風にを見る。
はそれに答えるように、笑った。
「結局―――――分からないってこと。俺には君の言う意味が分からないし、君はなぜ俺がここにいるのか分からない。
未来なんか誰にも分からないから、俺は知らない。君は過去を知っているから、俺がここにいることを不思議に思う。
でもなぜそうなのかは分からない。時間がぐちゃぐちゃだ。だから、“分からない”」
「……………………」
「まあ、そのうち分かるさ、きっと」
市丸のとは色合いの違う、けれども似た色の髪を撫で、は家に戻ろうと彼の横を通り過ぎる。
それに、どこか空しさを彼は感じていた。
確かにあいつだと分かっているのに、何も言えない。
互いの矛盾が少し、歯痒い。
だから、少しでも。
それを無くしたいから、俺は。
「―――――十番隊隊長、日番谷冬獅郎」
自分に背を向ける彼に向かって、叫ぶように言った。
彼は振り返らない。
けれども立ち止まって、それを静かに聞いていた。
「俺の名前、だ。今度はちゃんと覚えとけよ!」
それに了解、と呟きながらはくすりと笑う。
「『今度は』は何も、俺は聞いたの初めてだけどな」
そして彼は一回だけ、日番谷の方を振り向いた。
口を開くと同時に、風が二人の間を通る。
「俺の名前は―――……………」
その風が通り去った後には、日番谷が一人、佇んでいた。
それは誰?これは誰?
(どれも自分さ。気づかないだけだよ。だって知らないんだから)